127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

四人で浸かろう

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なんとか弁明を重ねて麒麟の疑いを晴らしたナジュは、桃栗の隣で薬湯に身体を沈めてひりひりとする痛みが次第に鎮まっていく感覚と心地よい温かさを堪能していた。薬湯は濁っており、肩まで身体を沈めると腋から下は濃い緑の湯が隠してくれる。ナジュは胸を隠していた手を離し、心置きなく両腕を上に伸ばしてゴキゴキと関節を鳴らして気持ちよさそうな声を出した。その様子を桃栗がくすくすと微笑んで眺めている。

「相当頑張ったみたいだね、体力訓練」
「出来る限りが何処までなのかはわからないが、何回も転げ回って擦り傷作って精一杯はやった。かなり手加減して貰ってたけどな」
「そんなのみんな同じ!僕も互角とまでいかなくとも善戦はしたかったなあ~。ぬるぬるしているから床を踏みしめられなくて力も入らないし、体勢も崩れちゃうから構えにも隙が生まれるしでさぁ……いい経験になったよ」
「桃栗もやられたか!俺なんか額何度も小突かれてもっと攻撃方法考えろって言われて、ほら」
「あ、赤くなってる!」

ナジュは前髪を上げて赤くなった額を見せた。触腕で小突かれた際に吸盤が何度か張り付いたので、丸い痕がいくつも残っている。

「ははっナジュくんの額、赤くなってるだけじゃなくて丸いのが何個もついてるよ!」
「丸…?」

自分の額を触って桃栗が言う痕を確認していると、漸く他夏を洗い終えた雷蔵が湯船に入ってきた。片手では他夏の手首を掴み、転ばないように声を掛けている。桃栗は丁度ナジュの背後に二人の姿が見えて手を振った。

「雷蔵く~ん!他夏く~ん!二人もこっちおいでよ~!一緒に入ろう~!」
「ん?」

ナジュが額を押さえて振り返ると、桃栗の誘いに応じたらしい二人が湯船を歩いてこちらに向かっていた。雷蔵も桃栗に負けず劣らず視線を集めており、二人に関する下世話な噂に関心のある神様候補だけではなく、その他も視線を遣っている。体力訓練での活躍がその理由である。

「邪魔するぞ」
「むっ」
「他夏、ここだ。ここに座れ」

雷蔵は桃栗の前に立夏を座らせ、自分はナジュの前に腰を下ろした。再びオウソウの側に戻っていた麒麟は、先日の三人組が揃った事で鋭い視線を送る。ナジュは表情だけで不埒な行いをする意思は無いと麒麟に伝えた。隣で変な顔をしているナジュには気づかず、桃栗は体力訓練での二人の活躍を褒めた。

「二人ともすごかったねえ~!他夏くんは唯一五島師に一矢報いる機会を作ってたし、雷蔵くんは瞬発力の塊って感じだったよね!」
「桃栗…でいいよな?お前の構えも熟練者って感じがしたし、実際いい動きしてたじゃねえか。床の状態が良けりゃ師を圧してただろうな」
「うそっ!見ててくれたの?嬉しいっ!」
「ぁ……」
「うわあっ…!お前はここで近付くなッ!麒麟が見てるんだからよ…!」

ぼんやりしていた他夏が、何の気なしにナジュに向かって手を伸ばした。それを大袈裟に回避したナジュが、麒麟の余計な勘繰りを受けまいと、他夏の動向と麒麟の動向を把握するべく忙しく視線を泳がせている。

「お前どうした、様子がおかしいぞ」
「いいか、そいつをちゃんと捕まえておけよ……俺の尻の穴は一つでいいんだ」
「ナジュくん…訓練で頭でも打っちゃったのかな?」

異様に警戒しているナジュの様子を雷蔵と桃栗は不思議そうに見ていた。
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