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学舎編 一
明朗な佐渡ヶ銛
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「それでは…破壊した菊花錠前代金支払いの証文を確かにいただきました。返済は一括か分割か、払い始めは直ちにか学舎を出てからかが選択可能です。雷蔵様の懐事情とご相談ください」
雷蔵は従者が用意した証文に自身の名を記し、朱肉を手のひら全体に塗り付けて証文に押し付けると、金額と支払いの約束の文言の横に、黒い大きな手のひらの跡が出来た。従者は朱色と黒色の二色の朱肉をもう一人に手渡し、完成した証文を鷺鶴に渡した。雷蔵は意気消沈といった様子で、肩を落としている。鷺鶴は受け取った証文に目を通し、不備がない事を確認すると、満足げに口元を緩めて証文を懐に仕舞った。本当の菊花錠前の値段と今後得られる予定の金子の差額を計算し、鼻歌でも歌いたい気分であったが、雷蔵へ伝えなければならない言葉が残っていた。
「先程も言ったが、念押しの意味で……この鷺鶴、鐚一文まけはせんからな。これまで逃亡を図る、暴れる、証文を破る等して支払から逃れようとした輩は数多いた。もしそのような傾向を確認した場合、こちらも手荒な手段を使わざるを得ない故……」
「はい!」
必ず払うようにという念押しの最中、溌剌とした声が横入りしてきた。その声の主は真っ直ぐに手を上に伸ばして、質問があるという意図を示している。鷺鶴は大事な話の途中に何事かと思ったが、一先ず質問を受ける事にした。
「どうした佐渡ヶ銛」
佐渡ヶ銛は真っ直ぐな瞳で鷺鶴を見据えている。意思の強そうな瞳だ。ナジュはこの袋小路とも言える状況を一変させ、雷蔵を助ける策でもあるのかと耳を傾ける。解説魔ならば様々な知識を蓄えていてもおかしくはない、そう考えた。しかし、他の者よりは長く佐渡ヶ銛と同じ時を過ごしている飛鳥田は、絶対に余計な質問や意見を口にするに違いないと、顔を顰めながら言葉を待っている。
「借金を踏み倒そうとしたら、どのような目に遭うのでしょうか!!」
やっぱりな、と飛鳥田は溜め息を吐く。ナジュは、この解説魔はただ興味本位に話しを遮り、何をされるのか気になっていただけだと気付いた。問われた鷺鶴は、何故雷蔵ではなく佐渡ヶ銛が聞く?と思い、真っ直ぐすぎる瞳に少々の気持ちの悪さを覚えながら回答する。
「聞きたいのなら教えよう……頭の天辺から足の爪先まで、この鷺鶴の思い通りに使い倒す……。まァ極々一部、世に一人二人居るか居ないかであるな。陥ったその状況を”地獄”と思わぬのは…」
「ハハッ!僕じゃなくて良かった!」
鷺鶴の恐ろしき発言を聞いて、佐渡ヶ銛は恐怖するでも無く、高らかな笑い声と溌剌とした声が菊花錠の間に響く。本人以外のこの場に居る神様候補は、その爽やかな笑顔を幽霊でも見たかのように見る。最前に居る唐梳までも、態々振り返って佐渡ヶ銛という不気味な男の様子を確かめずにはいられなかった。
(気味の悪い…)
青臭い神様候補達を脅かしてやるつもりであった鷺鶴だったが、逆に佐渡ヶ銛の奇妙な明るさを見て動揺している。本当の当事者である雷蔵は、更に肩を落として疲弊していた。
「はあぁ~……」
雷蔵は従者が用意した証文に自身の名を記し、朱肉を手のひら全体に塗り付けて証文に押し付けると、金額と支払いの約束の文言の横に、黒い大きな手のひらの跡が出来た。従者は朱色と黒色の二色の朱肉をもう一人に手渡し、完成した証文を鷺鶴に渡した。雷蔵は意気消沈といった様子で、肩を落としている。鷺鶴は受け取った証文に目を通し、不備がない事を確認すると、満足げに口元を緩めて証文を懐に仕舞った。本当の菊花錠前の値段と今後得られる予定の金子の差額を計算し、鼻歌でも歌いたい気分であったが、雷蔵へ伝えなければならない言葉が残っていた。
「先程も言ったが、念押しの意味で……この鷺鶴、鐚一文まけはせんからな。これまで逃亡を図る、暴れる、証文を破る等して支払から逃れようとした輩は数多いた。もしそのような傾向を確認した場合、こちらも手荒な手段を使わざるを得ない故……」
「はい!」
必ず払うようにという念押しの最中、溌剌とした声が横入りしてきた。その声の主は真っ直ぐに手を上に伸ばして、質問があるという意図を示している。鷺鶴は大事な話の途中に何事かと思ったが、一先ず質問を受ける事にした。
「どうした佐渡ヶ銛」
佐渡ヶ銛は真っ直ぐな瞳で鷺鶴を見据えている。意思の強そうな瞳だ。ナジュはこの袋小路とも言える状況を一変させ、雷蔵を助ける策でもあるのかと耳を傾ける。解説魔ならば様々な知識を蓄えていてもおかしくはない、そう考えた。しかし、他の者よりは長く佐渡ヶ銛と同じ時を過ごしている飛鳥田は、絶対に余計な質問や意見を口にするに違いないと、顔を顰めながら言葉を待っている。
「借金を踏み倒そうとしたら、どのような目に遭うのでしょうか!!」
やっぱりな、と飛鳥田は溜め息を吐く。ナジュは、この解説魔はただ興味本位に話しを遮り、何をされるのか気になっていただけだと気付いた。問われた鷺鶴は、何故雷蔵ではなく佐渡ヶ銛が聞く?と思い、真っ直ぐすぎる瞳に少々の気持ちの悪さを覚えながら回答する。
「聞きたいのなら教えよう……頭の天辺から足の爪先まで、この鷺鶴の思い通りに使い倒す……。まァ極々一部、世に一人二人居るか居ないかであるな。陥ったその状況を”地獄”と思わぬのは…」
「ハハッ!僕じゃなくて良かった!」
鷺鶴の恐ろしき発言を聞いて、佐渡ヶ銛は恐怖するでも無く、高らかな笑い声と溌剌とした声が菊花錠の間に響く。本人以外のこの場に居る神様候補は、その爽やかな笑顔を幽霊でも見たかのように見る。最前に居る唐梳までも、態々振り返って佐渡ヶ銛という不気味な男の様子を確かめずにはいられなかった。
(気味の悪い…)
青臭い神様候補達を脅かしてやるつもりであった鷺鶴だったが、逆に佐渡ヶ銛の奇妙な明るさを見て動揺している。本当の当事者である雷蔵は、更に肩を落として疲弊していた。
「はあぁ~……」
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