127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

在りし日の二人

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「くそっ!少しばかり寄り道して帰るつもりが、飛鳥田と佐渡ヶ銛あいつらに捕まって余計な時間食っちまった!|あの野郎もいつの間にか脱出しやがって…!逃げるなら俺にも一声掛けろよな、まったく…!」

梅花錠の間からナジュの姿が消えると、何処かに隠し部屋などがあってそちらに隠れている筈と来は考えたが、いくら探してもそのような場所は見つからず、時間を浪費する原因となった二人に"履き物が無いから、話し途中に帰っただけ"と諭されて要らぬ恥をかく結末となった。居た堪れなさから逃げる様に梅花錠の間を飛び出した時、飛鳥田と佐渡ヶ銛は二人揃って「これからよろしく!」と雷蔵の背中に声を掛けてきた。それに対して「断固拒否だ!」と捨て台詞のように叫び、小走りで他夏の面倒をみてくれる救護所に向かった。色別組分け講義で本日の講義は終了の為、鐘が鳴って暫くしても廊下には神様候補達の姿があり、皆それぞれ空いた時間をどう使うのか考えている様子であった。途中、一番人数の多い赤組の集団とすれ違った時、大人数の中でも目立つ桃色の髪をした桃栗が、他の神様候補と話している姿を見かけた。特に声は掛けなかったが、これから夕餉までの空いた時間に術の練習をしようといった内容が聞こえてきた。

(赤でも羨ましいもんだな。何か一つでも術が使えるのと、からっきしとじゃあ雲泥の差だ。…だいぶ昔、屋敷に入りたての頃は、他夏が俺みたいな素養のねえ奴らに術を掛けてくれてたっけな。主様は基本来るもの拒まずだから、大した特技もなく他所のお屋敷じゃ門前払いにされるような…あと一歩踏み出せば堅気じゃなくなるような奴らも結構居て……術を掛けて貰ってその効力を目にした時、そんな奴らと一緒になって馬鹿騒ぎしたな…)

その時の面々は様々な理由で屋敷から去って、今では両手で数えられる程になってしまった。刺客に斃された者、雷を受けた者、主様に背を向けた者、屋敷の外での生活に光明を見た者。消滅を見聞きした者以外は、現在何処に居るのか、生死すらもわからない。神様候補達が鎬を削る、気の抜けぬ学舎で、何故過去を懐かしむ気持ちが蘇ってきてしまったのか、雷蔵は不思議であった。あまり、思い返した事は無かったというのに。

(気ィ抜いちゃ駄目だ。さっきだって、結果的に二体一の構図になってた。油断させて闇討ちなんて、古くからある手だ)

赤組の集団を抜けて角を曲がると、気合いを入れ直す意味で二、三度己の頰を張って、一瞬強く目を瞑ってまた開く。丁度横を通り過ぎようとしていた名も知れぬ使用人が驚いて肩を揺らしたが、気にせずに目的地へ向かう。講義前に通った道を暫く進むと、救護所の方向を記した看板があり、書いてある通りに進むと救護所が見えてきた。廊下には何人かの姿がある。その中の一人が雷蔵に気付いたらしく、「おおい!」と手を振る。

「出海師!申し訳ありません、遅くなりまして…!」
「いや、気にしないでくれ。元々講義が終わって他夏が起きてきた頃に宿舎へ送るつもりだったから」

出海は朗らかな笑顔で笑いかけると、後ろに居た他夏の背を優しく押して雷蔵の前に出した。雷蔵は眠気の残る他夏の手首を取って礼をする。

「ありがとうございました…!」
「じゃあね、気を付けて帰りなさい」

愛想良く手を振って二人を見送った出海。その笑顔は先程使用人を見送った表情と酷似していたが、その内に潜む感情は真逆であった。

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