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学舎編 一
茶碗の正面
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ナジュ達が菓子を食べている間に、何とか先鋒の茶が出来上がったようだ。神様候補は茶碗の中の緑色を覗き込み、以前飲んだ抹茶とは違う色合いだと思いながらも、冷めないうちに提供する事にした。
「出来た……ええっと、そ…粗茶?でございます」
両陣営の中央で正座して待つ厨房係の前に、静かに茶碗を置く。茶碗に描かられた絵柄は、神様候補の方を向いている。
「お点前頂戴いたします」
厨房係は軽く頭を下げて礼をすると、茶碗を少し上に掲げてから、少々手のひらの上で動かす。その動作をじっと眺めていたナジュと柳元は、顔を見合わせて「茶碗回して何してんだ?」「さあ…あっしは茶道を嗜むような身分でも気性でもないもんで」と抱いた疑問を話し合う。そこに、煎り豆のおかわり分を持ってきた使用人が二人の会話を聞いて解説を挟んだ。
「只今あちらで使用いただいているお茶碗は、小さな小花が咲いた細枝に可憐な小鳥が留まっている風景が描かれておりまして、お茶碗としてはその絵柄が描かれている方を正面としております。私も深くは知らないのですが、お茶を出す時には正面を客人に向けるのが礼儀でございまして、客人は絵柄を汚さぬように数度回して飲み口をずらす……という作法が必要だとか」
「知らなかった……俺、柄とか特に気にせず湯呑み茶碗掴んで飲んでたよ。あれって無礼だったのか」
ナジュはすぐに出してもらった茶碗の向きを確認した。提供された時にはナジュの方に正面が向いていた茶碗は、飲んで置いての繰り返しによって向きが変わり、絵柄は丁度真横に向けて置かれていた。柳元はナジュ程気にしてはいないが、それでもチラリと手に待つ茶碗に視線を落とし、柄の向きを確認する。使用人は二人の反応を見て、余計な事を言ってしまったかと思い、説明を付け加える。
「私が申した事は、覚えておけば役立つ…のような内容でございますから。今日のこの場は、作法を気にせず花と茶と茶菓子を楽しむことが目的でございますので、厳格な作法は一旦横に置いていただいて、肩肘張らずにお寛ぎください」
「すまねェなァ、気ィ使わせちまって。大丈夫、あっしらは充分楽しませて貰ってるよォ!」
「そうそう!この豆美味いし、庭は綺麗だし、そんな中のんびり出来ていいよ!一つ新しい事を知って、ちょっとだけ賢くなれたしな」
ナジュは柄を気にしながら茶碗を持ち上げ、淡い色をした口当たりの柔らかい茶を啜り、美味い!と声を上げた。その後、柳元が眦を下げて笑みを向けると、使用人はホッとした様子で軽い礼を返して下がっていった。
「あっ、もう飲み終わったみたいだぞ。次は麒麟側の師が茶を淹れるところだ」
「先程のお人とは手順が違うようだねェ。湯を入れてから…抹茶をひと匙、ふた匙、さん匙…」
「うーん…濃いのか薄いのか見当もつかねぇ」
師の方も先の神様候補と同じく心得が無かったようで、湯を先入れにした以外は、目の前で見ていた神様候補の手順と使用した道具を真似て茶を点てた。神妙な顔で茶を味わう厨房係の下す裁定を両陣営、観客共々心待ちにしていた。
「出来た……ええっと、そ…粗茶?でございます」
両陣営の中央で正座して待つ厨房係の前に、静かに茶碗を置く。茶碗に描かられた絵柄は、神様候補の方を向いている。
「お点前頂戴いたします」
厨房係は軽く頭を下げて礼をすると、茶碗を少し上に掲げてから、少々手のひらの上で動かす。その動作をじっと眺めていたナジュと柳元は、顔を見合わせて「茶碗回して何してんだ?」「さあ…あっしは茶道を嗜むような身分でも気性でもないもんで」と抱いた疑問を話し合う。そこに、煎り豆のおかわり分を持ってきた使用人が二人の会話を聞いて解説を挟んだ。
「只今あちらで使用いただいているお茶碗は、小さな小花が咲いた細枝に可憐な小鳥が留まっている風景が描かれておりまして、お茶碗としてはその絵柄が描かれている方を正面としております。私も深くは知らないのですが、お茶を出す時には正面を客人に向けるのが礼儀でございまして、客人は絵柄を汚さぬように数度回して飲み口をずらす……という作法が必要だとか」
「知らなかった……俺、柄とか特に気にせず湯呑み茶碗掴んで飲んでたよ。あれって無礼だったのか」
ナジュはすぐに出してもらった茶碗の向きを確認した。提供された時にはナジュの方に正面が向いていた茶碗は、飲んで置いての繰り返しによって向きが変わり、絵柄は丁度真横に向けて置かれていた。柳元はナジュ程気にしてはいないが、それでもチラリと手に待つ茶碗に視線を落とし、柄の向きを確認する。使用人は二人の反応を見て、余計な事を言ってしまったかと思い、説明を付け加える。
「私が申した事は、覚えておけば役立つ…のような内容でございますから。今日のこの場は、作法を気にせず花と茶と茶菓子を楽しむことが目的でございますので、厳格な作法は一旦横に置いていただいて、肩肘張らずにお寛ぎください」
「すまねェなァ、気ィ使わせちまって。大丈夫、あっしらは充分楽しませて貰ってるよォ!」
「そうそう!この豆美味いし、庭は綺麗だし、そんな中のんびり出来ていいよ!一つ新しい事を知って、ちょっとだけ賢くなれたしな」
ナジュは柄を気にしながら茶碗を持ち上げ、淡い色をした口当たりの柔らかい茶を啜り、美味い!と声を上げた。その後、柳元が眦を下げて笑みを向けると、使用人はホッとした様子で軽い礼を返して下がっていった。
「あっ、もう飲み終わったみたいだぞ。次は麒麟側の師が茶を淹れるところだ」
「先程のお人とは手順が違うようだねェ。湯を入れてから…抹茶をひと匙、ふた匙、さん匙…」
「うーん…濃いのか薄いのか見当もつかねぇ」
師の方も先の神様候補と同じく心得が無かったようで、湯を先入れにした以外は、目の前で見ていた神様候補の手順と使用した道具を真似て茶を点てた。神妙な顔で茶を味わう厨房係の下す裁定を両陣営、観客共々心待ちにしていた。
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