127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

静寂を乱すもの…?

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静かな学舎の書庫。茂籠茶老の配下である管理人梟首の目もあり、穏やかな静寂が保たれている。常連といってもよい程通う神様候補や師が、書庫内を歩く足音は、緊張も焦りもない自然な音。その場だけに生まれて、広がらずに消える。書庫の出入り口付近でゆっくりと書物を読んでいる神様候補は、この場所を気に入っていた。座を巡る血生臭い争いから一時逃れられる唯一の安息地。雅な御伽話に思いを馳せつつ、暖かい茶と菓子も共にあればなどと思ってしまう己のささやかな欲にくすりと笑っていると、突如"ダン…ッ!"という、床板を打つような音が遠くで響く。誰かが書物を床に落としたのだろうか?と首を傾げ、書庫の奥の方を見る。聞こえたのはその一回で、それ以降は元の静寂が戻ってきた為、再び書に向き合ったのだった。

「きょっ…梟首は来たか…!?なるべく、音を立てない……よ……気をつけた、つもり……だ、が…っ」
「今の所誰の姿も見えねぇな。まあ、視界いっぱいに棚があるから、そもそもあっちの姿もこっちの姿も見えねぇんだけど…」

雷蔵はつま先立ちをしてみるも、自身の背丈よりも高い棚に囲まれて碌に見えたものじゃないと、すぐに浮かせていた踵を床に戻した。

「お、おいっ……八数えたぞ…っ」
「頭の中でだろ?ここには……"逆立ちして、八数える。尚、口に出す事"とある」
「ああ゛~…わかったよ…っ!えー、いーち、にーぃ、さぁー……んっ、しー…」

ナジュは早速解呪方法の一つを試していた。逆立ちをして、八数える。この書庫で、己の身体一つで可能な方法だ。梟首が書庫の静寂を乱す事のないように、と言っていたので、ナジュは可能な限りで音を立てないように床を蹴り上げ、頭と足が逆さまになった。上に来た足は雷蔵が掴んで支えている。頭が下になった事で、声を抑えて会話をしている短い間に、ナジュの顔は赤みを増していき、遂には耳まで真っ赤となった。

「ろぉく……し、ち……はち!」

頭が詰まるような、締め付けられているような感覚の中、ナジュは一から八まで逆立ちした状態で確かに数えた。

「どうだ?」

雷蔵が目の前にあるナジュの足首を掴んだまま、下方にあるナジュの上半身に向かって結果を急かす。

「ま、まて、まず俺の足を解放しろ…!こんなおかしな体勢だからか、頭がぼんやりして…ぐわんぐわんしてきた…」
「あっ、それもそうだな」

眉唾と思っていても、やはり結果は気になるもの。結果に気を取られ、ナジュの状態が芳しくない事を失念していた。大きな音を立てないように、足首を掴んでいた手を移動させ、太い腕でナジュの腰あたりを抱え込み、そ~っと足を床に置いた。やっとの事で本来の上下を取り戻したナジュは、呪いが全く解けていない事に憤るよりも、漸く逆立ちの状態から脱却し、頭に纏わりつく重々しさから徐々に解放されていく感覚に心から安堵していた。
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