127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

使用人作「教養書第一巻」

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屋敷からナジュに贈り物が届いた翌日の昼、学舎の飯処で昼餉を終えたナジュは、そのまま残って贈り物の一つである教養書を桃栗と丹雀と一緒に眺めていた。教養者は使用人達の手製で、天界で暮らす中で見聞きした知識や長年住まう者にとっては当たり前の常識を集めている。また、屋敷には様々な出自の者がおり、主様の領域外に暮らしていた者や、天界各地を放浪していた者、主様とは違う神様の屋敷にて奉公していた経験がある者等、実に多種多様。その他の神様や領域の話も含まれている。表題に“一巻”と記されているのは、皆から集めた知識が一冊にまとめきれないという事情で、二巻以降を鋭意作成中の為だ。ナジュは天界についてまだ知らない事が多い為、一枚捲る度に摩訶不思議な説明が現れて、感心したような溜め息を漏らす。

「“天界じゃ歳をとらない”…俺はもう死んでるから老けようがねえよなと思ったけど、そうか…天界で生まれた奴も歳をとらないのか……。ん?待てよ……じゃあ、赤ん坊はどうやって育つんだ…?」
「わあ~!旅先にお勧めの領域と、必ず押さえておきたいそこの名物、評判の見世も書いてある!特定の神様の配下になると、中々領域を離れる機会ってないから、久しぶりに遠出したいなあ…。交易でよその領域の品も入ってくるけれど、やっぱり旅先で見て食べてするのが格別だよね。ここを書いた人は旅好きなんだね~!」
「こちらは……各地の遊郭と一目見ておいて損は無い娼…。見世の看板美人に、見目麗しい役者に、二枚目の町人に………“逢引に誘う方法”、“相手が喜ぶ、実績のある出掛け先”、“連れ込み宿の選び方”……?」

丹雀は冊子後半に記された怪しげな記述を読み、怪訝な顔をする。その項目の作者は股右衛門であり、他の使用人達から不要と切り捨てられそうになっていた所、清書を担当する瓜絵に泣き付いて強引に書かせたという経緯がある。丹雀は、教養として知らなければならない知識に、このような不埒な事柄がその他よりも優先される必要があるのだろうか、と疑問に思った。

「あっナジュくん、捲るのちょっと待って!ここに“寵愛を得られる化粧”の項があって、少しだけじっくり読ませて!」
「なあ、それより赤ん坊はどうやって…」
「“情事の手順”、“素人玄人の見分け方”、“相手の伴侶に見つかった際の逃亡方法”……?」

一つの冊子を三人で読み、各々別の項を開いている為、三人はおしくらまんじゅうのような状態になっている。特に桃栗はナジュと丹雀の間に居て、狭そうに身を縮ませていた。

「まったく…俺よりも、二人の方が熱心に読んでるじゃねえか…」

ナジュよりも天界に長く住む二人も、思わず食いついてしまうその教養書の内容。次の講義の準備の為に宿舎へ移動し解散するまで、桃栗と丹雀は教養書を奪い合うように読んでいたのだった。
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