ベノムリップス

ど三一

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灼熱の祭典編ー前

第74話 塩辛い思い出と、コッテリした串焼き

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グンカが串焼きから一口貰おうと近付いた時、以前似たような状況になった時の事が脳裏にフラッシュバックした。カメリア一座のサブリナ公演を観劇する前に3人で観光をした時の記憶だ。町を巡って軽食をシェアした際、ニスが差し出した食べ物をギャリアーが口に含み、その時自分が抱いた感情が蘇ってくる。

(確か、面白くない…と)

それは明確な嫉妬であった。だとしたら、現在ランと似た様な状況になっている自身を見て、ランに想いを寄せる者達が同じ感情を抱くのではないか?それに、ランが心に決めた相手に勘違いさせてしまうのではないかという心配が胸に湧いてきた。以前部下からランと同じ勤務にしてくれるよう頼まれた事もある。この場面を目撃したらさぞ落胆するだろう、そう思ったグンカは、あと少しで串焼きに辿り着く所だった口を閉じて、身を乗り出していた体勢から、自分の席に座り直した。ランは片目を開けて様子を伺っていたが、グンカが一口も口を付けることなく席に戻った為、呆気にとられている。

「隊長?」
「…いや、矢張りこちらにある分でいい。ユンに残しておいてやってくれ。私はギャリアーと半分に分けることにする」

そう言って、ランと同じ串を選び取り、焼き物の1つを箸で摘まんで口に入れた。

「うむ、タレの味も焼き加減も丁度良い。ランも冷めぬうちに食べておけ」
「は、はい……美味しい…です」

ランは膨れ上がった期待が一瞬のうちに萎み、本来美味しいと言ってユンの分を忘れて食べていた筈の焼き物も、あまり味がしなかった。ランの想いを知らないグンカは、自分と同じ立場の誰かを気遣って身を引いた。噛み合わない2人の想い。自分に想いを寄せる可愛い部下を深く落胆させた事に気が付かない。

(……舞い上がっていたのだな、私は。隊長がいつになく近い距離で、エスコートまでしてくれたから、欲張りすぎてしまった)
(…残してきたあいつは、どうしているのか。最近ニスが早朝に出掛ける理由がわかったのだろうか?)

2人は顔を突き合わせて同じ席に着いていても、見ている相手は違っていた。先程までの良い雰囲気はどこへ行ったのか、景色を彩る程でもない、ただの同席する男女となっていた。中央に置かれた焼き物から湯気が上がり流れていく。

「2人とも、早く戻って来ないと、折角の焼き物が冷えてしまうな」
「あ…ギャリアーが来たみたいです。ユンは…一緒じゃないみたいで…」

ギャリアーの後ろからは、グンカの見慣れた赤い髪がひょこひょこと見え隠れしていた。



じっくりと焼かれた網の上の壺焼きは、グツグツと沸騰し食べ頃だ。ニスは良い頃合いと見て、トングを使い笹2枚重ねた皿に注文の四つの貝を乗せた。皿を持つ軍手越しにもその熱さが伝わってくる。

「四つ…串は何本要るのかしら…?醤油はこの場でかけて貰って…」

ギャリアーに渡すべく串を準備しているニスの後ろで、熱気で頬に汗を伝わらせるナガルが、明るく無邪気にギャリアーに問う。

「どう?貰っていい?」
「…さっきも言ったが、ニスがやりたいように任せる。でも…」
「でも?」

ギャリアーは、ナガルの家でもどこでも、そこで楽しく暮らせれば本人にとっては良いのだろう、と思う。しかしギャリアー自身の事情が、ニスを快く送り出すのを躊躇わせている。隣に、出来れば目の届く場所に、白いワンピースを着たあの赤い髪の女に側に居てほしい、そう思ってしまう。ギャリアーは自分の情けなさに自嘲する。それでも本心の一部をナガルに、間接的にニスへ伝える事にした。

「俺としては…このまま3人で穏やかに生活していければと思ってるよ。…居なくなったら寂しい、かな」
「ふーん…じゃあ、だめ?」
「…ニスの事を考えたら良いけど……個人的には、ダメ」
「やっぱり旦那じゃん!好きじゃん!」

ナガルがギャリアーを指差して、好きだ、旦那だ、と騒ぎ出す。

「ハハ…旦那じゃあないが、好きは好きだよ。面白いし」
「あらら、惚気ちゃって!」

ナガルは苦笑いしているギャリアーの肩を組んで、コソコソと話す。

「実はもうニスにうちに来ないか聞いたんだ!」
「ええっ…!?」
「ニスはね、兄ちゃんが行けと言うなら行くし、その反対なら行かないってさ。それと今の暮らしがいいって、残念」

ギャリアーはその言葉にほっとして息を吐いた。3人仲良く暮らしていたと思っていたのが自分だけではなかったとわかった。

(いつの間にか何処かに行ってしまいそうな雰囲気だからな……一先ず良かった)
「注文の品、出来たわよ…」
「ん…ありがとな」

ニスの方を見ると、鉢巻で留めている髪が、汗や体の動きで少々乱れている。素肌の上から巻いたサラシはきっちりと胴体を締め付け、暑さに拍車をかけているようだ。ニスは軍手を装着した手で笹皿を持ち、手にタオルを乗せたギャリアーに渡した。

「ニス、旦那と休憩してきなよ!これから倒れる程忙しいからさ、今の内休みとっておいで!」
「でも、船長さん一人に…」
「大丈夫!兄貴がこっそり手伝い来てくれる手筈だから!行ってきな!」

ナガルはニスの手からトングを取り上げて、ギャリアーとニスの背を押して出店のテントの中から日向へと出した。代わりに熱い網の前に立っていってらっしゃいと手を振る。

「それじゃあ、御言葉に甘えて…すぐに帰って来るから」

ニスが手を振りかえして背を向けると、店にはすぐ客が並び、ナガルはその対応をする。ギャリアーの持つ壺焼きを落とさないように、少し人の少ない端を歩く。

「向こうでランとユンも待ってるから、そっちでいいか?」
「ええ…少し、軽食を買いに店に寄ってもいい?」
「どの店に寄るんだ?」
「向こう…酒屋の少し奥。先に行っていても…」
「いい、一緒に行こう」
 
2人が店を出た後すぐ、酒類一杯無料券を持ったユンが店の近くを通る。3杯という上限付きだが気分は上々で、飲食スペースに戻ってくるギャリアーと一緒に帰ろうと辺りを探す。

「あ、券に書いてある店はあそこね~!何飲もうかな~」

頭の中で酒の種類を思い浮かべる。ワインに清酒、ビール、ブランデー、辛口、甘口…各種カクテル。酒に於いて好き嫌いの無いユンは、貴重な3杯に何を選出しようかという嬉しい悩みに鼻歌まで歌っている。欲を言えばギャリアーと2人きりで、向うも休日で、会うのが夜であったら最高だったのに、とユンは思う。別れてからギャリアーと出掛けるのはいつも昼間で、色気ある話も出来なかった。

「ふんふ~ん、ワイン~、ビール~」

酒屋に到着すると、散々迷った挙句にビールを注文した。この天気では直ぐに温くなってしまうので、希望者には氷を入れて提供しているようだ。ユンは先ず、そのままのビール最初の一口(全量)を一滴残らず喉に流し込んだ後、もう一杯を注文した。

「ふう~この暑い中のビールは最高ね~、あ、今度は氷入れてね~」

酒が飲めて上機嫌なユンの笑顔に、店員達はデレデレとして他の客より多めにビールを注いで渡した。店員の中には警備隊のユンだと知っている者も居て、「今日はお休みかい?」と声を掛けられる。そこで飲みながら世間話をしていると、軽食を買い終えたニスとギャリアーがその背後を通るが気付くことは無かった。ユンは数分間の世間話を終えると、酒を片手につまみを何点か購入し、飲食スペースに戻って行った。


ギャリアーがお待たせと言って、テーブルに壺焼きを置くと、背後からひょっこり法被を着たニスが現れた。意気消沈だったランは、ニスの姿を見て驚いて声を上げた。

「ニス!?その恰好はなんだ!?」
「これ、焼いてるの…」

指差したのはギャリアーが置いた壺焼きと、串焼きの山。「これをお前が!?」とランが言うとニスはコクリと頷いで、「潜って獲ってきた」と話す。一方グンカは、ギャリアーと共にニスが戻って来た理由の方が気になっていた。

「どうしてニスが?」
「船長さんが、2人で休んで来いって背中押された。道中ついでにニスの食事も買いに店に寄って、折角だから一緒に食べようとな」
「これ、冷たくなると身が固くなってしまうから、すぐに食べた方がいい」
「こ、これか…!?」

ニスはランに焼き物の説明をしている。焼き方をやっていた分、拘りがあるようだ。ギャリアーはグンカの隣に詰めて座り、自分の隣をポンポンと叩いて此処に座るように言った。

「このマヨネーズを付けるともっと…こう…コク?が…」
「でも、これはお前の食事の付け合わせだろう?」
「倍くらい美味しい」

ニスはナガルの売り文句の真似をした。彼女のよく使う接客トークである。ランは倍と言う言葉と、正直そうなニスのイメージから、倍美味しいという証言をストレートに受け取った。

「ば、倍……頂こうか」
「どうぞ」

マヨネーズは付ければつけるほど美味しくなるみたい…という誘惑の言葉を理性と恋心で跳ね除けて、甘辛いタレがこってりと絡んだ焼き物に、これまたコッテリとした辛味マヨネーズをちょんと付ける。

「ふぉぉ………美味しそう…」
「ランが持ってるの…美味そうに見えるな」
「辛味マヨネーズは、何に掛けても美味しい、みたい…」
「……なら、俺達も少し」

ギャリアーにニスがナガルと居る経緯を聞き出そうとしていたグンカも、ランが手に持つ焼き物の照りに魅せられ、一時中断とした。

ランが目を輝かせて焼き物を見る。真夏、炎天下、氷入りの冷たい飲み物、照り照りの焼き物、欲を言えば酒でこってりした喉を流したかったが、今ある飲み物でも十分である。

「頂きますっ……む」

一つ食べると、まず甘辛いタレの味が舌に纏わりつき、溶けた場所から海鮮の旨みが滲み出てくる。辛味マヨネーズは少々濃い目のタレを和らげる役割を担うばかりか、コクと甘味、酸味を加え、コッテリでありながら、辛味がランの中のコッテリした罪悪感を消していく。海での一件からカロリーを気にした食事で節制を重ねていたラン。急に胃に降ってきた、コッテリの重ねがけは、彼女の食欲を刺激し始める。

「う、美味い……本当にっ、倍美味い!」

ランはニスのマヨネーズに焼き物を潜らせる。今度は先程の倍の量、彼女のコッテリ欲が増長されてゆく。ニスは、倍は方便だったのに、と何処か冷静な部分はあったが、自分が焼いた焼き物を美味しそうに食べてくれるランの様子はずっと見ていたい程、気持ちの良い食べっぷりだった。

「ニス!倍と言わず、三倍美味いぞ!」
(そんなに…?)
「本当だ、マヨネーズ美味しいな…!」
「うむ、白飯が欲しくなる味だな……丼に乗っていてもいい」

ランだけでなく、ギャリアーとグンカも美味そうに焼き物を食べる。

「あれ、ランちゃん?」
「ランちゃんが美味い美味いって食べてるの、何だ?」

ランは町で評判の美人双子の片割れである。その知名度は隊長であるグンカより遥かに高い。そのランが美味いと口にしながら破顔して食べている食事に周囲が興味を抱くのも必然である。それに何より、誰よりも美味そうに食べる。

噂を聞きつけた町民がナガルの店に並び、冗談めかして言った倒れる程忙しくなると言う言葉が、後程現実の物となるのであった。


「ええ~!?ラン、あたしの分食べちゃったの~!?」
「す、済まない、ユン…焼き物が…こってりが…辛味マヨネーズが……節制していたのもあって、美味しくて…」

ニスが素早く食事を済ませて店に帰った後、ランはこってりした串焼きと壺焼きを沢山楽しんで、満腹となった胃を摩った。ランの理想とする綺麗なラインを描きかけていた腹は、胃が薄ら前に出ている。

「狡い~!」
「仕方ないな。ほら、俺の分。半分で良ければ…」

ギャリアーがユンに串を差し出す。それは冷めてしまっても美味しいとニスが太鼓判を押した焼き物であり、ちゃんと辛味マヨネーズが付けられている最後の一本である。

「!…ありがとう、ギャリア~!」

ユンはギャリアーが自分に向けた串焼きにカプッと齧り付いた。

「あっ!」

その光景を見たランは、自分の失敗を思い出す。余りにも簡単に餌付けあ~んを成し遂げたユンを羨ましそうに見る。

「…美味しい!」

ユンは持っていたビールで、口内のこってりを胃に押し流した。

「……っぷはー!暑い時に冷えたビールは最高ね!」
「ユン、お前…それは何杯目だ?」
「3杯目」
「もう飲んだのか!いいか、これ以上は許さんからな、俺は背負ってやらないぞ…!」
「え~昔は送ってくれたじゃない~」

ユンはグンカの背に抱き付いてゴロゴロする。ランは自分も休日であれば…!と悔しがるのであった。


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