つるのおんがえり

秋庭海斗

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鶴の怨がえり

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 昔話には謎だらけで不合理も沢山ある。

 例えば「鶴の恩返し」

◾️◾️◾️
  
 その化けモノは鶴の恩返しの話を
知っていた。そして一旦、鶴に変化へんげをし、
人間に戻ると、若さを取り戻して
絶世の美女になれるということも。

 ここまでして、若さを取り戻し
運命的な出会いを、演出したのは
ひとえに、惚れてしまった若者と
添え遂げたい、一心からであった。

 その老婆は自らの脚を罠に入れた。

 締め上げる革紐製の罠は、もがくと
脚を更に締め上げる仕組みである。
 脚がこれ以上、痛くならないように
オンナはしばらく、じっとしている。
そこに現れるはずの若者が来るまでの
辛抱である、雪原の中で寒さに耐えた。

 しばらくすると、雪原の一本道に
人影が遠く見えて来た。あの若者である。
オンナは素早く鶴の姿に変化へんげした。
 声が届く距離に若者が近づくと羽を
バタつかせて、苦しさをアピールした。

 思った通りに、若者が駆け寄って来る。
若者は鶴が罠に掛かって苦しんでいるのを
見るとニワカに顔色を変えて呟いた。

「ほう、立派な鶴が罠に掛かったものだ」

 その猟師の若者は続けて独り言を言う。

「可哀想な鶴…だけど許してくれ」

 若者はナンマイダブツと小さく呟くと
鶴の首を捻って、その息の根を止めた。

 その若者は罠で動物を捕まえる猟師で
剥製作りを生業とする若者であった。

 鶴になんかならずにそのまま告れば
実ったかも知れない、恋は砂上の老鶴ろうかく
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