はちかつぎ

はちかつぎ姫

　時は平安の時代。

　裕福な貴族の夫婦に子供ができた。
生まれてきた子は女の子である。
病気をすることもなくスクスクと
十二歳までに育っていた。

　だが、夫婦には大きな悩みがあった。
この女の子の顔が醜くかったのだ。
貴族社会の間にも噂が広がった。
母は観音様にひたすらに祈った。
すると、夢枕に観音様が立ち、
母親にお告げをした。

「娘に大きな鉢を被せなさい、さすれば
鉢を被る間、娘は千年の寿命を得て
安が成り、やがて幸せになるであろう…」

「安…が、成る？」

　観音様のおっしゃる意味をよく理解が
できなかったが、子を思う親心で
母親は娘を不憫に思って可哀想だが
大きな鉢を頭に被せてしまった。
以来、鉢担ぎ姫として醜い顔を
出すことなく時代を生き抜いた。

　平安の時代から時が流れる事、
千年余り、元号が平成となった。
今までは娘が鉢を外そうとすると
激痛が走ったが平成時代に入ると、
途端にスッと外れた。

　中から現れた顔は、醜いどころか、
今時の女優のように、眼が大きく
鼻筋が通って高く、唇はポッテリと
細面で顎はスッキリと尖っている。

　あまりの美しさに周囲の男性ばかりか
女性までもが溜息をついてしまった。
現代社会では憧れの顔立ちである。
その美貌から話題になり幸せな結婚をし、
なに不自由なく暮らした。

　ただ、鉢を取ってからは不老効果は
消失してしまい、普通に加齢が始まり
周りとともに歳を重ねている。

　そして観音様が夢枕に現れて告げた。

　あなたの顔は昔と変わってはいません。
平安の昔、あなたの顔は醜かった、
やっと美しいと思われる時代が来ました。
これからは幸せに暮らしなさい。

　平安が平成の…安が成る、はぁそうですか
なんとまぁ、観音様の気の長い事よ。
　姫はここまでの長い暮らしを振り返り、
消えゆく観音様の姿に手を合わせた…

　オカメ顔が美しかった今は昔の物語。