ゆきゆきて

秋庭海斗

文字の大きさ
上 下
1 / 1

ゆきのまつろ

しおりを挟む

 雪女という名前はだいたいの人は
ご存知だろうが話の内容はよく知らない。
そんな人も少なくない現代社会。

 各地に諸々の伝承があるが最も有名な話は、
小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーンが
書いた「怪談」の中の物語が定番だ。
ご存知ない方に、あらすじをどうぞ。

◾️◾️◾️

 若者と爺さんが家路を激しい吹雪に阻まれ
一夜を山の避難小屋で、明かすことになる。
夜更けに美しい女が小屋に侵入して爺さんを
凍死させる。その女は若者にも迫るが、
若年ということで見逃してくれる。
この事を他言しないと約束させられる。

 約束を破れば、命を奪うと宣言されは
ゆきおんなは山へと帰っていく。
そして若者のみ無事に生還することができる。

◾️◾️◾️

 その後、旅の娘を助けた若者はその娘と結ばれ
夫婦になり子供も授かって幸せに暮らしていた。
ある吹雪の夜、あの昔の話を妻にしてしまい
妻が雪女で、約束を破ったなと正体を現す。

 しかし、二人の間には幼な子もいるので
妻は夫の命を奪うのは見逃してくれて姿を
消してしまう。と、いうお話でした。
 怪談というには、恐怖心は涌き起こらずに
昔話の持つ特有な道徳観念を含ませた
逸話的な展開である。

◾️◾️◾️

 ここまでの話をご存知な方も後日談が
恐ろしいことを知らない人が殆どだと
私は思っている。

 妻としての雪女が姿を消したことで
父親と姉弟が、突然の父子家庭になった。
 姉は6歳、弟は4歳、父27歳。
 なにぶんにも田舎で昔である。
母親の失踪は現代のように無関心ではなく
村の井戸端会議で話題の中心となるのである。

 夫はことの顛末を告げるが、周囲の反応は

「嘘吐きだ、そんな馬鹿なことがあるか」

「やましい事があって本当の事を話せないんだ」

 陰口を叩かれ、ひいてはデマまで流れる。

「妻を殺して山中に捨てるのを見た」

「いやいや、富山の薬売りと不倫の末に、
家族を捨てて駆け落ちをしたんだ」

 いろんな好き勝手な話が様々に脚色されて
小さな村は、今でいう炎上騒ぎとなった。
当事者の親子は、この地を離れられずに
山に隠遁でもして生活するしかないが、
いかんせん、まだ幼すぎて無理である。

 噂を信じて陰湿で容赦なくイジめてくる
隣人たちも少なくない。そんなツライ年月が
瞬く間に過ぎて、子供達も姉17、弟15となり
思春期を迎える頃となる。
 
 子供たちは二人共に母親譲りの美貌を宿し、
妖しい程に、美少女と美少年と成長していた、
しかし、長年の周囲からのひどい仕打ちに
心は閉ざされてしまっていた。

 とは言え、半妖半人の彼らには常人とは
異なる能力が思春期と共に覚醒していて
父親からの〈 出生の秘密 〉の暴露もあり
自分達の異様性には気付いてしまっていた。

 その年は異常な寒波により大雪となり
村は閉ざされた。姉弟はこの時とばかりに
村中の家々を巡って、三日で男ばかりでなく
女、子供でさえも母親譲りの特殊能力で
全員を凍死させてしまったのである。

 そして母である雪女との約束を破った
父親もその手に掛け殺害してしまったのだ。
 
 二人は村から逃げ出し、姉と弟ながらも
夫婦として各地を転々してある村に定着した。
 半妖半人の近親相姦が血を濃くしていく、
代々続いたその風習も昭和の時代にやっと、
消失したようだが、その子孫たちは人間界に
脈々と生き続いている。

◾️◾️◾️

 ほら、隣に居るその人…大好きなのに
時折、すごく態度が冷たくなったりしない?
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...