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◾️◾️ シヨーヌ城

 ニノーラ王妃は王を責めた。

「あの原っぱにいるのはサンジェルマンの双子の片割れのバカ息子らしいじゃないの、早く軍隊を出して追っ払いなさいよ」

「王妃よ、そんな事をしたら全面戦争になって、送り出した王女フォンヌの身が危なくなるではないか」

「は?何を腰抜けな戯言をッ。こちらには私の息子ヨーンデが居りますのよ、嫁に出した娘などはもうシヨーヌ家の者ではありません、どうなろうと知った事ですかッ」

「それでは余りにも不憫でならぬ…」

「元はと言えば、サンジェルマン王の婚約者として先に差し出したフォーシスが、もう1人の双子のバカ息子に寝取られて駆け落ちしたのが原因なんでしょ。こちらに何の落ち度もないじゃないの、戦争になったとしてもアッチが悪いのよ」

「いや、そうかも知れぬが戦になったら我が国は不利だ」

「その腰抜けっぷり、笑いたくても笑えぬ。フタツヌク公国に助けを求めたらいいではないか、強力な兵団を持つというあの国へ」

「フタツヌク…か、、、いやあの国だけはダメだ。あそこに介入されたらこの国までも取られてしまう」

「それもよいではないか」

 ケケケと気味悪くひきつり笑いする王妃ミツーヌに、底知れない恐怖を感じるヨンダル王であった。その時、配下の伝令が王の間であるにも関わらず慌てふためいて飛び込んで来た。

「も、も、もうし、、、申し上げます。
城門前にサンジェルマンの使者が来ておりまする」

「ついに来たか…。しかしその慌てぶりは何じゃ?」

「その使者が、その使者の名は、、」

「落ち着け、その使者の名は誰じゃ?」

「ヨ、ヨ、ヨンガル…ヨンガル王子様であらせます」

 王は言葉を失ったが、腰を抜かさんばかりに驚いたのは隣にいたミツーヌ王妃であった。そして、この状況を察した従臣サリエルが近づいて、召使いを使って王妃を部屋の外へ連れ出した。混乱する中、伝令は言葉を続けた。

「ヨンダル王、ご指示をお願い致しまする」

「ま、ま、先ずは…ホンモノのヨンガル王子かを確かめよ。謁見するのはその吟味が済んでからである」

 亡くなったはずの王子が舞い戻ったとは俄かに信じ難いと、王はヨンガル王子の名を騙る偽物だと考えた。

「して、王子の真贋の判定はどなたにさせましょう?」

「だ、だ、誰かおるじゃろ…。
そうだ、世話係をしておったサリエルはどうじゃ」

「承知致しました。サリエル様に判定して頂きます」

 そう伝令が指示を受けて部屋を後にした。だが城内のどこを探しても彼の姿を見つけることはできなかったのである。そしてミツーヌ王妃とその息子、ヨーンデ王子も。
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