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◾️□ □ 夜明けの先に
賊の騎馬隊の狙いはこちらの疲弊である、襲撃しては撤退をして体力的にも精神的にも追い込んでとどめを刺す。敵を殲滅させる攻撃ではなく捕虜にする時の戦い方だ。次の波状攻撃が4度目である。夜通し続く攻撃を追い払いながら、ジェロ島のかすかな噴煙が朝焼けの中にうっすらと見えて来た。
「姫、夜の明け切らないうちに女官たちを連れて撤退をしてください。我々だけで次の攻撃を押し返します」。ラチョス護衛長がフォーシスに疲弊した表情で提案をする。
「ラチョス…それは、、、」。
それはダメだ。と伝えたかったが多勢に無勢、最後の手段としては、それを選択せざるを得ない戦況だった。
「夜通し攻めて来ては撤退していく。その戦略は、ただの野盗の策とは思えません、裏で糸引く者が…」
「そうだな、こちらの疲弊するのを間違いなく狙っている、最小の犠牲で捕虜にするつもりなんだろう」
フォーシスも護衛長と同じことを考えていた。どう考えても戦略的すぎる。
「そうよね、サンジェルマン側の迎えが今も来てない時点で、私達はハメられたってことよね」
「まさか…王妃さまが?」。ラチョス護衛長が、口にしてはならない人の名前を口走ってしまう。
「あの王妃なら、やりかねないわ、ラチョス、女たちを連れて逃げても逃げ切れるとは思わない…だから、ここで一緒に戦う、最後は捕虜になるのなら自決したほうが…」
「姫、それはなりません。生きて、生きてもらわねば」
そう話すうちに、野盗らが怒号と共に攻め込んできた。
「姫、今です、脱出を!」
敵を目前にして最後の戦いへと飛び出していく護衛長らの背中を見送りながら、フォーシスは退路を見極めて怯える女官らと離脱しようとした。その時、目前にも馬上の敵が土煙をあげて迫って来ている。
「いつの間に…挟み撃ちされた」
フォーシスは女官らを背後に庇い腰の剣を抜き放ち、敵襲に備え静かに青眼に構えた。
□ □ □
「フォーシスッ!」。迫り来る敵が名前を叫んでいる。
〈やはり、こちらを何者か知っての襲撃だったのか…〉先駆けのヤツに一太刀を浴びせん!そう決意し素早く飛び出すと、先頭の馬上にはアイツがいた。
「お前は!双子の…どっちだッ!」
「フォーシス、私はスリーン。サンジェルマンのスリーンだ、弟の方だぞ、覚えておけよッ!迎えに来た」
〈生意気な方か…〉
死の覚悟を決めていたフォーシスは、迫り来るのが敵でないと分かると笑顔になれた。
「話は後だッ!山賊を蹴散らすッ」。
疾風の如く馬を駆り、ラチョス護衛長らが戦う中へと助太刀に踊り込んで行った。その数は、ザッと30騎はあろう。噂に聞くサンジェルマン騎馬隊だ。スリーンの活躍するのが光り輝くようにフォーシスの瞳に映っていた。
こうしてスリー丘陵、麓の夜戦においては、シヨーヌ警護兵に負傷者数名を出しながらも、幸いなことに命を落とした者はいなかった。少数精鋭の奮闘をお互いに讃え合い、援軍のサンジェルマン騎馬隊に感謝した。
「スリーン、ありがとうあなたの隊が来なければ今頃は…」。素直な感謝の言葉が溢れてきた。
「まぁ、気にすんな」。特段の活躍をしなかった双子の兄、サンノロが、ドヤ顔して返した。
「まあ、後方からの支援してくれたサンノロが言うのもどうかと思うが、《気にすんな》は、その通りだ」。スリーンがフォーシスの前で笑顔を大きくして言う。二人は馬上にタンデムで乗って帰路を駆けていく。登る朝日の中で寄り添う彼の背中が広く逞しく感じていた。
「助けてもらってから言うのもオカシイ奴だと思われるかもだけどあなた達、迎えに来るの遅くない?」。フォーシスは拗ねた感じで、精一杯の可愛さを出して聞いた。
「それは言い訳じゃないが、シヨーヌからの書状が到着する日にちを間違って伝えて来たんだ」。スリーンが言うと、隣を並び歩くサンノロがそれを補足をして喋る。
「オレが提案したんだよ。スリー丘陵辺りは山賊が出るから早く行って駐屯して、姫さまの到着を待とうよってさ」
「あら、そうだったの」
「ここに着いたらこの有り様に遭遇したって訳だ。なッ、オレに感謝してもいいだろ」。
「そうか、ありがとう。サンノロ、あなたのお陰よ」
「まあ、智将サンノロ様だからな、《気にすんな》ってことよ」。こうして兎にも角にも、フォーシスは無事にサンジェルマン城へと到着した。
◾️◾️◾️
「拉致に失敗した⁈ チッ!」。シヨーヌ城の一室で、斥候密使の報告を受けた人物が舌打ちをした。
「山賊に期待したのが間違いか…」
□ □ □
「よくぞ、来られた、姫君よ」
フォースス王妃が笑顔で迎えた。隣にサンジェルマン当主・サラーン王も彼女を出迎えた。王妃がこんな笑顔で歓迎したのはシヨーヌ領の出身であるからだ、つい、同郷の姫の輿入れと聞き、楽しみにしていたのである。
…表向きは。
家臣らや領民の前では、優しく賢明な王妃でなければならない。しかし、息子に嫁ぐ者に対する不満は、庶民のそれと大差はなかった。その実体は天使の仮面を付けた姑なのであった。
賊の騎馬隊の狙いはこちらの疲弊である、襲撃しては撤退をして体力的にも精神的にも追い込んでとどめを刺す。敵を殲滅させる攻撃ではなく捕虜にする時の戦い方だ。次の波状攻撃が4度目である。夜通し続く攻撃を追い払いながら、ジェロ島のかすかな噴煙が朝焼けの中にうっすらと見えて来た。
「姫、夜の明け切らないうちに女官たちを連れて撤退をしてください。我々だけで次の攻撃を押し返します」。ラチョス護衛長がフォーシスに疲弊した表情で提案をする。
「ラチョス…それは、、、」。
それはダメだ。と伝えたかったが多勢に無勢、最後の手段としては、それを選択せざるを得ない戦況だった。
「夜通し攻めて来ては撤退していく。その戦略は、ただの野盗の策とは思えません、裏で糸引く者が…」
「そうだな、こちらの疲弊するのを間違いなく狙っている、最小の犠牲で捕虜にするつもりなんだろう」
フォーシスも護衛長と同じことを考えていた。どう考えても戦略的すぎる。
「そうよね、サンジェルマン側の迎えが今も来てない時点で、私達はハメられたってことよね」
「まさか…王妃さまが?」。ラチョス護衛長が、口にしてはならない人の名前を口走ってしまう。
「あの王妃なら、やりかねないわ、ラチョス、女たちを連れて逃げても逃げ切れるとは思わない…だから、ここで一緒に戦う、最後は捕虜になるのなら自決したほうが…」
「姫、それはなりません。生きて、生きてもらわねば」
そう話すうちに、野盗らが怒号と共に攻め込んできた。
「姫、今です、脱出を!」
敵を目前にして最後の戦いへと飛び出していく護衛長らの背中を見送りながら、フォーシスは退路を見極めて怯える女官らと離脱しようとした。その時、目前にも馬上の敵が土煙をあげて迫って来ている。
「いつの間に…挟み撃ちされた」
フォーシスは女官らを背後に庇い腰の剣を抜き放ち、敵襲に備え静かに青眼に構えた。
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「フォーシスッ!」。迫り来る敵が名前を叫んでいる。
〈やはり、こちらを何者か知っての襲撃だったのか…〉先駆けのヤツに一太刀を浴びせん!そう決意し素早く飛び出すと、先頭の馬上にはアイツがいた。
「お前は!双子の…どっちだッ!」
「フォーシス、私はスリーン。サンジェルマンのスリーンだ、弟の方だぞ、覚えておけよッ!迎えに来た」
〈生意気な方か…〉
死の覚悟を決めていたフォーシスは、迫り来るのが敵でないと分かると笑顔になれた。
「話は後だッ!山賊を蹴散らすッ」。
疾風の如く馬を駆り、ラチョス護衛長らが戦う中へと助太刀に踊り込んで行った。その数は、ザッと30騎はあろう。噂に聞くサンジェルマン騎馬隊だ。スリーンの活躍するのが光り輝くようにフォーシスの瞳に映っていた。
こうしてスリー丘陵、麓の夜戦においては、シヨーヌ警護兵に負傷者数名を出しながらも、幸いなことに命を落とした者はいなかった。少数精鋭の奮闘をお互いに讃え合い、援軍のサンジェルマン騎馬隊に感謝した。
「スリーン、ありがとうあなたの隊が来なければ今頃は…」。素直な感謝の言葉が溢れてきた。
「まぁ、気にすんな」。特段の活躍をしなかった双子の兄、サンノロが、ドヤ顔して返した。
「まあ、後方からの支援してくれたサンノロが言うのもどうかと思うが、《気にすんな》は、その通りだ」。スリーンがフォーシスの前で笑顔を大きくして言う。二人は馬上にタンデムで乗って帰路を駆けていく。登る朝日の中で寄り添う彼の背中が広く逞しく感じていた。
「助けてもらってから言うのもオカシイ奴だと思われるかもだけどあなた達、迎えに来るの遅くない?」。フォーシスは拗ねた感じで、精一杯の可愛さを出して聞いた。
「それは言い訳じゃないが、シヨーヌからの書状が到着する日にちを間違って伝えて来たんだ」。スリーンが言うと、隣を並び歩くサンノロがそれを補足をして喋る。
「オレが提案したんだよ。スリー丘陵辺りは山賊が出るから早く行って駐屯して、姫さまの到着を待とうよってさ」
「あら、そうだったの」
「ここに着いたらこの有り様に遭遇したって訳だ。なッ、オレに感謝してもいいだろ」。
「そうか、ありがとう。サンノロ、あなたのお陰よ」
「まあ、智将サンノロ様だからな、《気にすんな》ってことよ」。こうして兎にも角にも、フォーシスは無事にサンジェルマン城へと到着した。
◾️◾️◾️
「拉致に失敗した⁈ チッ!」。シヨーヌ城の一室で、斥候密使の報告を受けた人物が舌打ちをした。
「山賊に期待したのが間違いか…」
□ □ □
「よくぞ、来られた、姫君よ」
フォースス王妃が笑顔で迎えた。隣にサンジェルマン当主・サラーン王も彼女を出迎えた。王妃がこんな笑顔で歓迎したのはシヨーヌ領の出身であるからだ、つい、同郷の姫の輿入れと聞き、楽しみにしていたのである。
…表向きは。
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