感謝

秋庭海斗

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キニシナイきにいらない奴

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 物凄い日照り続きの猛暑の中、
旅人は木陰を求めて歩いていた。

「この日差しでは死んでしまう」

 少し行くと僅かな日陰を作っている
葡萄の木の日陰を見つけ、その下へ
入り込んでひと休みをした。

 葡萄の葉っぱの茂りは疎らで
強い日差しは完全に遮られてない。

「はぁ~こんな日陰でも助かる」

 旅人は過酷な日照りの条件下から
脱出したことに安堵し感謝した。

 木を見上げると、取り残しだろうか、
葡萄の房がブラブラとしている。

「なんと、喉の渇きまで癒やして
くれるというのか、ありがたい」

 やおら、葡萄の房をもぎ取って
ムシャムシャと食べてしまった。

 実をもぎ取ったせいで葡萄の木は
ガサガサと揺れ葉っぱを散らせてしまい
僅かばかりの日陰は無くなった。

「なんだよ、役立たずな葡萄の木だな」

 彼は悪態をつきその場所を後にした。

 葡萄の木はそれを聞いて言った。

〈災難を逃れ、最初は感謝したのに
すぐに忘れてしまう、あまつさえ
施しを受けて、自分たちで状況を
悪くしておいて、悪態をつくとは…〉

□  □  □

 旅人は先を急ぎ炎天下を進んだが
やはり耐えきれずに日陰を求めた。

 立派なプラタナスの木の元へと
たどり着いた旅人がいう。

「なんということだ、
この木の立派な葉の茂りようは
完全に陽射しを遮り、夜露も凌げる。
 この下で横になって眠られる広さも
充分にある。今日はここで一泊しよう」

 大きなプラタナスの根本で一夜を
過ごすことに決めた旅人だった。

 その夜、荒れた天候となって
雨はひどくはないが風が強く吹き
明け方まで、それは続いた。

 晴れ渡った翌朝。

「イヤイヤ、ひどい夜だった。

 雨はこの葉っぱが屋根代わりとなったが
風でザワザワと葉っぱがうるさく鳴って
眠れやしなかった。
 それに食べられる木の実もならないとは
ほんとうに役立たずにも程がある」

 プラタナスの木はそれを聞いて言う。

〈恩知らずなオタンコナスめ〉
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