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第3章 延長戦は何回までですか?

終わらせ方

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12月26日、あの朝。逃げるように五十嵐くんと別れた。あれ以来、冬休みまでの残り数回の講義を受けて、実家に帰省したこともあり、五十嵐くんとは一切連絡を取っていない。もう年も開けて、明日からまた授業が再開するというのに、明けましておめでとうの連絡もしていない。

それもそのはずだ。意図していなかったとはいえ、私が彼の弱みを知ってしまったのだから。多分彼は暗闇が苦手なのだ。彼は知られたくなかっただろう。きっともう少ししたら、彼は“あーちゃん”と別れて、私との関係を断ち切ろうとするはず。そうすれば、弱みを知る人間を遠ざけることができる。
だから、私は忘れることに徹する。彼の弱みも本音を言い合った思い出も全て。また元の何もない関係に戻るだけ。それだけなのに、どうしてこんなにも寂しいと思うのだろう。


しかし、その後待てども待てども、五十嵐くんから契約終了を告げる連絡が来なかった。私の方も、別れたというタイミングがなく、ズルズルと“こーくん”と付き合っていた。
だから、彼も同じようにタイミングが見いだせていないのだと納得した。


1月も下旬になり、休みボケも抜けてきた頃、彼から連絡があった。それは契約終了を告げるものではなく、相談したいことがあるとのことだった。だから、契約を終了させるタイミングが掴めないという相談だと思った。しかし、思いもよらない方向へと私達は進むことになる。


「朝霞さんに話したいことがあるんだ。」
五十嵐くんが改まって言った。

五十嵐くんの家に来るのはあのクリスマス以来だ。1ヶ月しか立っていないのに、何故だかあの日が遠い昔のように感じた。同時にパニックになった彼の姿を思い出して、何もできなかった焦燥感が再燃する。

「なんでも聞くよ?」
あの時の記憶に囚われそうになるのを振り切って、五十嵐くんがかつて私の愚痴を聞いてくれた時の言葉を真似して使う。

「これは俺の押し付けだから、嫌だったら聞き流してくれていい。ただ朝霞さんに話したら、楽になるような気がして。」
想像していた展開と違う。彼は“あーちゃん”と別れるタイミングがないと愚痴を言うために、私を呼んだはずだ。なのに、彼は全く違う話をしようとしている。

「12月25日のあの夜を朝霞さんに聞いて欲しいんだ。」
あまり話したくないはずなのに、彼はまっすぐ私の目を見てそう言った。なんでも聞くと言った手前、私は黙って頷く。

彼の話がゆっくりと始まった。
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