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Movimento N.10:圧縮された重力の井戸、光の解放 - StREGA "NOX" / "LUX" -
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Side:鑑 世界よ、これが我々の『音楽(ブランディング)』だ
──あれから3ヶ月が経った。
赤坂の著名な音楽ホール。音無グループが威信をかけて貸し切った、日本最高峰のコンサートホール。2,000を超える席数は道隆のコネクションである世界各国のVIP、音楽関係者、そして選ばれしメディアで埋め尽くされている。
思いつきで借りることができるような場所ではない。『権力』によって実現した特別な音無の『魔法』は"StREGA"の門出にふさわしい。
今夜のリサイタルは単なる金持ちの娘の独奏会ではない。音無グループの楽器部門『Otonashi Musical Instruments』から『StREGA』への完全なブランド転換。そして私という『プロデューサー』による音楽界への挑戦状なのだから。
袖で待機する汐恩が、私の手を握る。流石に緊張しているのだろう。武者震いなのだろうか、震えている。
純白のドレスに身を包んだ彼女の金の髪に一輪の薔薇の髪飾り。対照的に私は漆黒のタキシー、銀のオールバック、そして深紅のシャツにシルクの黒ネクタイ。
「準備はいいか?」
「もちろんですわ。わたくしたちの『神話』の始まりですもの♡ ──ねえ、マエストロ、勇気を……くださいまし……」
目を閉じ、震える彼女の身体を抱きしめる。
──その濡れた唇から糸を引く。
「皆様、本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。これより、音無汐恩ソロリサイタル『Metamorphosis』を開演いたします」
会場の照明が完全に落とされる。深い闇に包まれた大ボール。2,000を超える観客の息遣いだけが静寂を支配している。
やがて、静かに幕が上がる。
暗闇の中、一つの『光』が浮かんでいる。
汐恩のための漆黒のグランドピアノ。『NOX(ノクス)』——ステージ照明を受けても反射しないボディは空間を切り取る『闇」。
その塗料は99.9%以上の光を以上を吸収する最新技術によるもの。塗料の厚みが音響にも微細な影響を与え、通常のピアノより深く、重厚な低音を響かせる。
鍵盤の存在のみを意識させ、演奏者の集中力を高める心理的な効果も計算されている。
私のための『LUX(ルクス)』 ——純白の特殊塗料で仕上げられたヴァイオリン。対照的に光の98%を反射するそれは木の温もりどころか、冷たさすら感じさせる。そしてプラチナのペグとテールピース、弓もまた純白で、まるで光そのものを弦で切り裂くよう。
客席からは期待と緊張の空気が伝わってくる。
────
第一楽章:闇夜に咲く一輪の薔薇
司会者のアナウンスが会場に響く。
「皆様、本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。これより、音無汐恩ソロリサイタル『変身 -Metamorphosis- 』を開演いたします」
拍手が鳴り響く中、汐恩が一人舞台に現れる。
スポットライトが彼女を照らすと、会場がざわめいた。3ヶ月前とは明らかに違う。その佇まいは少女のそれではなく、生まれながらの偶像 ──いや、幼き女王の貫禄すら感じられる。
汐恩は深々とお辞儀をし、NOXの前に座った。
「本日はわたくし、そして『音無』の新たな門出お立ち会いいただき、ありがとうございます。最初にお聞かせするのはショパンの『幻想即興曲』です」
指が鍵盤に触れた瞬間、会場の空気が変わる。
闇に浮かぶ鍵盤、NOXから響く音色はこれまでの『音の出る家具』と揶揄された音無の楽器とは次元が違っている。
プライドを賭けた先進的な技術、そして職人の魂を表すように、一音一音が聴くものの心臓に直接響く。もはや汐恩の演奏は完璧を超え、観客の心を奪う『魔法』。
客席の音楽評論家たちが身を乗り出す。世界的なピアニストたちが息を呑む。これは単なる技術の問題ではない。
静寂が訪れ……会場は割れんばかりの拍手に包まれる。
そしてドビュッシーの『月の光』、ショパンの『別れの曲 Op.10-3』、リスト『愛の夢第3番』。第一部は大歓声のままに休憩時間を迎える──
## 第二楽章:光と闇の協奏曲
「続きまして、本日の"メインプログラム"に移らせていただきます。特別ゲストをご紹介いたします」
ナレーターの発言に会場がさらにざわめく。プログラムには記載されていない「特別ゲスト」。
私が舞台に現れると、会場は水を打ったように静まりかえり、誰だ?とどよめく。
皆が知る私とはまるで別人。銀髪は美しく整えられ、漆黒のタキシードに深紅のシャツという印象的な出で立ち。手に持つLUXが、舞台照明を受けて神々しく輝いている。
「皆さん、本日はお忙しい中お越しいただき、ありがとうございます」
私の声が、会場の隅々まで響く。
「本日は音無グループの新たな挑戦をご披露する記念すべき夜です」
「演目は、サラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』。汐恩お嬢様の『NOX』そして、この『LUX』のマリアージュをお愉しみください」
私が鑑、いや…『KAGAMI』であることを明かす必要はない。人間は色眼鏡を掛けて観るものだから。
汐恩が会釈し NOXの前に座る。私はLUXを構える。
この3ヶ月、二人で毎日のように練習を重ねた。ただの練習ではない。楽器、そして音楽を通じて完全に同期するため、文字通りの"調律"だった。
汐恩がピアノで前奏を始める。NOXの深い響きが、ジプシーの哀愁を漂わせながら会場を包む。
そして私のヴァイオリンが入った刹那——
会場に衝撃が走った。
LUXから奏でられる音色は、これまで誰も聞いたことのないものだった。それは歌声であり、囁きであり、祈りであり、魂の叫び。
私のこれまでの人生 ——努力、絶望、汐恩達との出会い、憎しみ、様々な感情を込める。
技術的には当然だ、完璧。それ以上に観客の心を直接震わせる、まさに音楽の本質としての力。
汐恩のピアノが私の感情を受け止め、包み込み、昇華させる。光と闇、破壊と創造、全ての矛盾が美しいハーモニーとなって会場を支配する。
これは単なる技術の披露ではない。これを聴いた者は魂を解放され、本当の自分と向き合わされる体験だっただろう。
演奏が終わったとき、会場は死のような静寂に包まれた。
誰も拍手をしない。いや、できないのだろう。全員が呆然と立ち尽くしている。
やがて、一人の老人——世界的な指揮者として知られるベルニーニ氏が立ち上がり、そして静かに拍手を始める。
その拍手が引き金となって、会場は爆発する。感動の涙を流し、心の底から手を叩く観客たち。それは賞賛を超えた、芸術への畏敬の表現。
## 第三楽章:新世界への扉
拍手が鳴り止まない中、私と汐恩は並んで頭を下げる。
その時、舞台の大型スクリーンに音無鏡花の姿が映し出される。
元世界的プリマドンナとしての威厳を保ちながら、母としての誇らしげな表情を浮かべている。
「皆様、本日は私の娘、汐恩の演奏をお聞きいただき、誠にありがとうございました。そして、この場をお借りして、重要な発表をさせていただきます」
会場がさらに静まり返る。
「先程お聴きいただきましたチゴイネルワイゼン、ヴァイオリニストの『鑑マエストロ』が汐恩の専属プロデューサーとして、音無グループに正式に着任いたします」
「彼の卓越した音楽的才能と独創性、それこそが!汐恩の、そして音無の新たな可能性を切り拓くと確信しております」
続いて父、道隆がスクリーンに現れる。
その冷徹な実業家の瞳に、珍しく熱い光が宿っている。
「皆様、汐恩の演奏をお聴きいただき感謝します。私からも三つ、重要な発表させていただく。
本日の演奏にお使いした楽器は、弊社が新たに立ち上げたブランド『StREGA』の第一弾作品です」
「ひとつめは楽器のリブランディングです。130年の伝統を持つ『Otonashi』から『StREGA』へ——これは単なる名称変更ではありません。音楽の概念そのものを変革する、新たな挑戦の始まりです」
会場のざわめきが大きくなる。VIP席もどうやら慌ただしく見える。道隆が続ける。
「そしてふたつ目は来月より StREGAブランドの第二弾として、子供向けライン『LILITH』の予約販売を開始いたします」
「LILITHシリーズ、特にヴァイオリンには鑑マエストロが演奏されたを収録いたします。基本的なお手本演奏に加え、高難易度バージョンも収録。初心者のお子様から、本格的な技術を身につけたい大人の方まで、幅広くお使いいただけます。併せてクラウドサービスへの投稿 、そしてAIによる採点機能も搭載しています」
会場から驚きの声が上がる。otonashiの楽器は地味、そしてクラウドサービスとの連携など今まで考えられなかった『変化』が起こっている。
「さらに、です」
「我々は来年春に、『サンクタ・ステラ・アカデミー(Sancta Stella Academy)』を開校いたします。世界中から選ばれた才能ある子供たちを集め、高度な音楽教育を通じて真の教養と品格を身につけていただく。まさに淑女のための特別な学校です」
私は最後にこう締めくくった。
「私は道隆氏の思想に共感いたします。音楽は人の心を動かし、魂を震わせ、世界を変える力を持っています 。──我々はその真の力を追求し、皆様と共有するために存在します。今宵、音楽の新たな可能性が開かれました」
会場は再び爆発した。今度は純粋な興奮と音楽への期待の爆発だった。
## エピローグ:冷めやらぬ熱
東京湾に浮かぶ人工島の地下深く。『深淵の聖域』へ戻ると汐恩が私の胸に飛び込んでくる。いつもよりも強く。
「マエストロ!完璧でしたわ!世界中がわたくしたちの手の内に落ちましたのね♡」
その興奮した様子に、私は静かに微笑んだ。
「いや、これは序章に過ぎない。私の正体を明かしていない。それにまだ熱に浮かされているだけでこれから更に市場へ刺激を与えねばならん。君にはもっと働いてもらうよ」
汐恩はぷくっと頬を膨らませる
「わたくしをこんなに働かせるなんて労働基準法に引っ掛かりますわよ? でも……うまくいけばパパもママも…ふふ、婚約を認めさせますわ!」
ころこと変わる表情、こうしてみると年齢相応に見える。そしてビデオ通話のコールを取る。道隆からだ。
『鑑くん、素晴らしかったよ。予想を遥かに超える反響だ。StREGAはNOXもLUXも海外のメディアからも問い合わせが殺到している。LILITHの予約開始は予定を前倒しにしよう。汐恩にはCMへの出演の話もいくつか来ていて気分が良い!ああ、実に良い夜だったよ」
「承知しました。世界は我々を待っている」
通話を切ると、汐恩が満足げに微笑んでいた。
「さあ!マエストロ。次はの『市場革命』ですわね。世界中の子供たちを、わたくしたちの『新しい音楽』の世界へお招きいたしましょう♡」
私は彼女のふわふわとした金髪を優しく撫でた。この少女こそが、世界を変える鍵なのだ。そして私の正体を明かし糾弾する。覚えておけ。
窓まるで我々を祝福するように輝いて見えた。『StREGA』の神話は、今、始まったばかりだった。
────
翌日の新聞各紙は一面で「音楽界に新星現る」「天才少女と謎の男よる衝撃のデュオ」「StREGAブランドが音楽界に革命」と報じた。
テレビのニュースでは音楽評論家が語る。
「あれは音楽の新たな境地、楽器という概念を根本から変える革新的な夜だった」
ネットニュースでの海外メディアの反応はこうだ。
「東洋から現れた新たなる音楽の先駆者。世界中がStREGAの動向に注目している」
そして、LILITHの予約開始と同時に、世界中の親たちが殺到することになる。子供たちに「あの奇跡の楽器」を与えたいと——
彼らはまだ知らない。それが音無帝国の壮大な『未来への投資』 ──いや『エコシステム』、つまり「つまり、音楽、教育、楽器、感情、SNS、すべてが連動し、一つの“自己増殖するシステム”となって子供たちを包み込む。
『StREGA』とはもはやブランドではなく『帝国の礎となる不可視のシステム』に組み込まれ始めたのだと。
──あれから3ヶ月が経った。
赤坂の著名な音楽ホール。音無グループが威信をかけて貸し切った、日本最高峰のコンサートホール。2,000を超える席数は道隆のコネクションである世界各国のVIP、音楽関係者、そして選ばれしメディアで埋め尽くされている。
思いつきで借りることができるような場所ではない。『権力』によって実現した特別な音無の『魔法』は"StREGA"の門出にふさわしい。
今夜のリサイタルは単なる金持ちの娘の独奏会ではない。音無グループの楽器部門『Otonashi Musical Instruments』から『StREGA』への完全なブランド転換。そして私という『プロデューサー』による音楽界への挑戦状なのだから。
袖で待機する汐恩が、私の手を握る。流石に緊張しているのだろう。武者震いなのだろうか、震えている。
純白のドレスに身を包んだ彼女の金の髪に一輪の薔薇の髪飾り。対照的に私は漆黒のタキシー、銀のオールバック、そして深紅のシャツにシルクの黒ネクタイ。
「準備はいいか?」
「もちろんですわ。わたくしたちの『神話』の始まりですもの♡ ──ねえ、マエストロ、勇気を……くださいまし……」
目を閉じ、震える彼女の身体を抱きしめる。
──その濡れた唇から糸を引く。
「皆様、本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。これより、音無汐恩ソロリサイタル『Metamorphosis』を開演いたします」
会場の照明が完全に落とされる。深い闇に包まれた大ボール。2,000を超える観客の息遣いだけが静寂を支配している。
やがて、静かに幕が上がる。
暗闇の中、一つの『光』が浮かんでいる。
汐恩のための漆黒のグランドピアノ。『NOX(ノクス)』——ステージ照明を受けても反射しないボディは空間を切り取る『闇」。
その塗料は99.9%以上の光を以上を吸収する最新技術によるもの。塗料の厚みが音響にも微細な影響を与え、通常のピアノより深く、重厚な低音を響かせる。
鍵盤の存在のみを意識させ、演奏者の集中力を高める心理的な効果も計算されている。
私のための『LUX(ルクス)』 ——純白の特殊塗料で仕上げられたヴァイオリン。対照的に光の98%を反射するそれは木の温もりどころか、冷たさすら感じさせる。そしてプラチナのペグとテールピース、弓もまた純白で、まるで光そのものを弦で切り裂くよう。
客席からは期待と緊張の空気が伝わってくる。
────
第一楽章:闇夜に咲く一輪の薔薇
司会者のアナウンスが会場に響く。
「皆様、本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。これより、音無汐恩ソロリサイタル『変身 -Metamorphosis- 』を開演いたします」
拍手が鳴り響く中、汐恩が一人舞台に現れる。
スポットライトが彼女を照らすと、会場がざわめいた。3ヶ月前とは明らかに違う。その佇まいは少女のそれではなく、生まれながらの偶像 ──いや、幼き女王の貫禄すら感じられる。
汐恩は深々とお辞儀をし、NOXの前に座った。
「本日はわたくし、そして『音無』の新たな門出お立ち会いいただき、ありがとうございます。最初にお聞かせするのはショパンの『幻想即興曲』です」
指が鍵盤に触れた瞬間、会場の空気が変わる。
闇に浮かぶ鍵盤、NOXから響く音色はこれまでの『音の出る家具』と揶揄された音無の楽器とは次元が違っている。
プライドを賭けた先進的な技術、そして職人の魂を表すように、一音一音が聴くものの心臓に直接響く。もはや汐恩の演奏は完璧を超え、観客の心を奪う『魔法』。
客席の音楽評論家たちが身を乗り出す。世界的なピアニストたちが息を呑む。これは単なる技術の問題ではない。
静寂が訪れ……会場は割れんばかりの拍手に包まれる。
そしてドビュッシーの『月の光』、ショパンの『別れの曲 Op.10-3』、リスト『愛の夢第3番』。第一部は大歓声のままに休憩時間を迎える──
## 第二楽章:光と闇の協奏曲
「続きまして、本日の"メインプログラム"に移らせていただきます。特別ゲストをご紹介いたします」
ナレーターの発言に会場がさらにざわめく。プログラムには記載されていない「特別ゲスト」。
私が舞台に現れると、会場は水を打ったように静まりかえり、誰だ?とどよめく。
皆が知る私とはまるで別人。銀髪は美しく整えられ、漆黒のタキシードに深紅のシャツという印象的な出で立ち。手に持つLUXが、舞台照明を受けて神々しく輝いている。
「皆さん、本日はお忙しい中お越しいただき、ありがとうございます」
私の声が、会場の隅々まで響く。
「本日は音無グループの新たな挑戦をご披露する記念すべき夜です」
「演目は、サラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』。汐恩お嬢様の『NOX』そして、この『LUX』のマリアージュをお愉しみください」
私が鑑、いや…『KAGAMI』であることを明かす必要はない。人間は色眼鏡を掛けて観るものだから。
汐恩が会釈し NOXの前に座る。私はLUXを構える。
この3ヶ月、二人で毎日のように練習を重ねた。ただの練習ではない。楽器、そして音楽を通じて完全に同期するため、文字通りの"調律"だった。
汐恩がピアノで前奏を始める。NOXの深い響きが、ジプシーの哀愁を漂わせながら会場を包む。
そして私のヴァイオリンが入った刹那——
会場に衝撃が走った。
LUXから奏でられる音色は、これまで誰も聞いたことのないものだった。それは歌声であり、囁きであり、祈りであり、魂の叫び。
私のこれまでの人生 ——努力、絶望、汐恩達との出会い、憎しみ、様々な感情を込める。
技術的には当然だ、完璧。それ以上に観客の心を直接震わせる、まさに音楽の本質としての力。
汐恩のピアノが私の感情を受け止め、包み込み、昇華させる。光と闇、破壊と創造、全ての矛盾が美しいハーモニーとなって会場を支配する。
これは単なる技術の披露ではない。これを聴いた者は魂を解放され、本当の自分と向き合わされる体験だっただろう。
演奏が終わったとき、会場は死のような静寂に包まれた。
誰も拍手をしない。いや、できないのだろう。全員が呆然と立ち尽くしている。
やがて、一人の老人——世界的な指揮者として知られるベルニーニ氏が立ち上がり、そして静かに拍手を始める。
その拍手が引き金となって、会場は爆発する。感動の涙を流し、心の底から手を叩く観客たち。それは賞賛を超えた、芸術への畏敬の表現。
## 第三楽章:新世界への扉
拍手が鳴り止まない中、私と汐恩は並んで頭を下げる。
その時、舞台の大型スクリーンに音無鏡花の姿が映し出される。
元世界的プリマドンナとしての威厳を保ちながら、母としての誇らしげな表情を浮かべている。
「皆様、本日は私の娘、汐恩の演奏をお聞きいただき、誠にありがとうございました。そして、この場をお借りして、重要な発表をさせていただきます」
会場がさらに静まり返る。
「先程お聴きいただきましたチゴイネルワイゼン、ヴァイオリニストの『鑑マエストロ』が汐恩の専属プロデューサーとして、音無グループに正式に着任いたします」
「彼の卓越した音楽的才能と独創性、それこそが!汐恩の、そして音無の新たな可能性を切り拓くと確信しております」
続いて父、道隆がスクリーンに現れる。
その冷徹な実業家の瞳に、珍しく熱い光が宿っている。
「皆様、汐恩の演奏をお聴きいただき感謝します。私からも三つ、重要な発表させていただく。
本日の演奏にお使いした楽器は、弊社が新たに立ち上げたブランド『StREGA』の第一弾作品です」
「ひとつめは楽器のリブランディングです。130年の伝統を持つ『Otonashi』から『StREGA』へ——これは単なる名称変更ではありません。音楽の概念そのものを変革する、新たな挑戦の始まりです」
会場のざわめきが大きくなる。VIP席もどうやら慌ただしく見える。道隆が続ける。
「そしてふたつ目は来月より StREGAブランドの第二弾として、子供向けライン『LILITH』の予約販売を開始いたします」
「LILITHシリーズ、特にヴァイオリンには鑑マエストロが演奏されたを収録いたします。基本的なお手本演奏に加え、高難易度バージョンも収録。初心者のお子様から、本格的な技術を身につけたい大人の方まで、幅広くお使いいただけます。併せてクラウドサービスへの投稿 、そしてAIによる採点機能も搭載しています」
会場から驚きの声が上がる。otonashiの楽器は地味、そしてクラウドサービスとの連携など今まで考えられなかった『変化』が起こっている。
「さらに、です」
「我々は来年春に、『サンクタ・ステラ・アカデミー(Sancta Stella Academy)』を開校いたします。世界中から選ばれた才能ある子供たちを集め、高度な音楽教育を通じて真の教養と品格を身につけていただく。まさに淑女のための特別な学校です」
私は最後にこう締めくくった。
「私は道隆氏の思想に共感いたします。音楽は人の心を動かし、魂を震わせ、世界を変える力を持っています 。──我々はその真の力を追求し、皆様と共有するために存在します。今宵、音楽の新たな可能性が開かれました」
会場は再び爆発した。今度は純粋な興奮と音楽への期待の爆発だった。
## エピローグ:冷めやらぬ熱
東京湾に浮かぶ人工島の地下深く。『深淵の聖域』へ戻ると汐恩が私の胸に飛び込んでくる。いつもよりも強く。
「マエストロ!完璧でしたわ!世界中がわたくしたちの手の内に落ちましたのね♡」
その興奮した様子に、私は静かに微笑んだ。
「いや、これは序章に過ぎない。私の正体を明かしていない。それにまだ熱に浮かされているだけでこれから更に市場へ刺激を与えねばならん。君にはもっと働いてもらうよ」
汐恩はぷくっと頬を膨らませる
「わたくしをこんなに働かせるなんて労働基準法に引っ掛かりますわよ? でも……うまくいけばパパもママも…ふふ、婚約を認めさせますわ!」
ころこと変わる表情、こうしてみると年齢相応に見える。そしてビデオ通話のコールを取る。道隆からだ。
『鑑くん、素晴らしかったよ。予想を遥かに超える反響だ。StREGAはNOXもLUXも海外のメディアからも問い合わせが殺到している。LILITHの予約開始は予定を前倒しにしよう。汐恩にはCMへの出演の話もいくつか来ていて気分が良い!ああ、実に良い夜だったよ」
「承知しました。世界は我々を待っている」
通話を切ると、汐恩が満足げに微笑んでいた。
「さあ!マエストロ。次はの『市場革命』ですわね。世界中の子供たちを、わたくしたちの『新しい音楽』の世界へお招きいたしましょう♡」
私は彼女のふわふわとした金髪を優しく撫でた。この少女こそが、世界を変える鍵なのだ。そして私の正体を明かし糾弾する。覚えておけ。
窓まるで我々を祝福するように輝いて見えた。『StREGA』の神話は、今、始まったばかりだった。
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翌日の新聞各紙は一面で「音楽界に新星現る」「天才少女と謎の男よる衝撃のデュオ」「StREGAブランドが音楽界に革命」と報じた。
テレビのニュースでは音楽評論家が語る。
「あれは音楽の新たな境地、楽器という概念を根本から変える革新的な夜だった」
ネットニュースでの海外メディアの反応はこうだ。
「東洋から現れた新たなる音楽の先駆者。世界中がStREGAの動向に注目している」
そして、LILITHの予約開始と同時に、世界中の親たちが殺到することになる。子供たちに「あの奇跡の楽器」を与えたいと——
彼らはまだ知らない。それが音無帝国の壮大な『未来への投資』 ──いや『エコシステム』、つまり「つまり、音楽、教育、楽器、感情、SNS、すべてが連動し、一つの“自己増殖するシステム”となって子供たちを包み込む。
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