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ループする世界
誘拐
しおりを挟む「う“………?」
ギシギシと関節の節々から鈍い痛みを感じ、沈んでいた意識が浮上する。
目を開けるとそこは薄暗く牢獄みたいな角部屋で俺はそのど真ん中に置かれてある鉄製の椅子に座らされていた。
まだ目覚めたばかりでぼやけた視界と頭でここは何処で、どうしてこんなところにいるのかを考える。
そこでやっと俺は自身に起こった出来事を思い出す。
そうだ、俺は確かあの時……
命からがら武装した男達を(スカドゥエが)倒したかと思ったが、路地裏を抜けたところで1人の武装男にスカドゥエが心臓をナイフでひとつきさせられ、殺された。
その後、人混みに紛れて逃げよう街の中心へと走ったが、難なく追いつかれ意識を落とされた。
そして今に至る。
次に己の置かれている状況を見る。
目を開けた時、自身の黒い髪が見え視界も明るく見えるので、カツラとサングラスは取られたのだろう。
両腕は後ろに一括りに縄で結ばれ、両足は椅子の脚右左それぞれガッチリと一緒くたにされている。
ご丁寧に胴体までも縄でグルグル巻きに拘束されていた。
一応、腕や足を動かしてもがいてみるも、当然の如くキツく拘束された縄は微塵も解ける気配はない。
体を捩ったり動ける箇所はめいいっぱい動かそうとしているのだがそれも徒労に終わる。
ただただ体力だけが減っていき、動かしすぎて縄が皮膚に擦れてヒリヒリと傷んできた。
シンとした空間の中、自分のもがく音だけが部屋に響き渡り、ふと思い出す。
スカドゥエの最期の姿
生気のない顔に、光が失われた目、自身の鮮血で服が赤に染まっていく様を
途端に視界がぼやけていく。
自身の目から涙がこぼれ落ちて、コンクリートの床が灰色に染まっていく。
そういえば、はじめてだ。
自身の仲間の死を見るのは。
なんだかんだこれまで転生してきて強敵と相対する事があったが、仲間は最後まで生き残っていた。
仲間の死なんて見た事がなかった。
最初に死ぬのはいつも自分だったから。
残された仲間はいつもこんな感情だったのか…?
なんとも言えない胸の苦しみと息苦しさに上手く呼吸ができない。
声を大きく上げ、泣き叫ぶ。
見ているだけで何もできなかった自身への怒り、スカドゥエを殺した男に対しての憎悪、それら全てを発散するように拘束された体を動かす。
「………くっそっ!!なんで!!!この体はっ!!!こんなにっ!!!使えないんだよっ!!!」
だが、ひ弱なこの身体でどんなに動足掻こうとも縄はビクとも動かない。
魔法も使えない。
身体能力もノミ以下。
唯一使えるであろう事象の書き換えの力の使い方もわからない。
今、この場面で、この局面で俺が……
「……………俺がいちばん、弱い…。」
何もできないこの状況に、絶望する。
今まで生きてきた中で1番の危機に、背筋が冷え、嫌な考えが頭によぎる。
このまま俺が死んでしまったらどうなるのだろうか?
このまま死んでしまったらこの世界はどうなってしまうのだろうか?
この世界の人たちは、永遠に終わりのない同じ日を繰り返す事になってしまう。
そして、悲運の子の悲劇も、永遠に繰り返され事になる。
そんな結末、絶対に認められない。
そんな悲劇は繰り返させない。
俯いていた頭を上へ上げる。
少なくとも今は泣いている場合では無い。
”何もできない“ではない。
何かしなくてはいけない。
俺のすべき事をすべき時にすべき行動をしなければならない。
それが、俺がこの世界に来た理由であり、存在意義だ。
今はスカドゥエの死を嘆く時では無い。
今、最優先ですべきことは
「ここから逃げ出す事だろ…っ」
考えろ、俺ができる事を。
俺が唯一できる事を
俺だけが唯一できる事を
魔法は使えない。
ならば使えるものはただ一つ。
”事象の書き換え“
神に与えられた力、この力の使い方がわかればこの危機な状況をひっくり返す事ができる。
あのクソッタレな神が言っていた。
少しの書き換えは禁忌に触れない、と。むかつく人間を石につまづかせる事くらいはできる、と。
禁忌がどれくらいなのかはわからないが、とりあえずやってみない事には始まらないので運命の書を取り出してみる。
フゥ、と一旦深呼吸をして、出てくるように念じる。
すると、目の前の何も無い空間から紙の束が出てきた。
見慣れたこの世界の運命の書だ。
パラパラと紙がひとりでにめくられ、最後のページに到達すると、そこには現時点で起こっている事が綴られていた。
『神の眷属は両腕を後ろに一括りに縄で結ばれ、両足は椅子の脚右左それぞれガッチリと一緒くたにされて拘束されている。』
最後の一文はそんな風に書かれている。
この部分を書き換えられるんじゃないか??
“両足、両手は縄でくくりつけられていない”
そう書き換えれば拘束は取れ、自由に動けるようになる。
思いつき、早速書き換えようと念じる。
が何も起きない。
もしかして、直接書き換える箇所を手でなぞって書く必要があるのか??
そういえば、と、かつてあの不思議な空間でクソッタレな神が実演してみせた“事象の書き換え”を思い出す。
奴は書き換える箇所を手でなぞって元の出来事を消した後、新たに本に事象を書き足していた。
あの時は俺がすぐに理解できるように懇切丁寧に実演したのだろうと思っていたいたが、あれはポーズじゃなく本当にあのめんどくさい手順を踏まなければならないのかっ……!!
念じれば出来るもんじゃないのかよっ!!めんどくせぇ!!
当然、今のこの縛られている状況で目の前のページに手を伸ばして書き換えることは不可能に近い。
がっくりと首が項垂れ、更に体の力が抜ける。
やろうと思って奮起したのにできない状況にやらせない気持ちになり、挫けそうになるが首を横に振り、ネガティブになりかけていた思考を振り払う。
考える事をやめなければまだできる事が必ずあるはずだ。
項垂れていた頭をまた上げる。
出されて浮いたままの運命の書を見てある事にきづいた。
そういえば、運命の書は手で触れなくても動かす事が出来ている、と。
そう気付いてちょっと試しに部屋の隅の方へ運命の書を移動するように念じる。
そうすると思った通りに移動させる事ができた。
次に自分の首を後ろに括られている手の方へと向ける。
思った通りに運命の書はちょうど手の位置へと移動し、なんとか書ける態勢まで持って行けた。
いけるっ!!!
指先が運命の書に触れる、その時、
「目が覚めたか。」
嫌な男の声がした。
ギィィ、と錆びた扉が不快な音を立てながら開かれ、そこからまた2人の男が現れる。
どれも路地裏で対峙した、武装した男達だった。
入ってきた男たちは早速、俺の顔を覗き込み、縛られて動けないでいる俺の情けない姿をみて嘲笑う。
「あ?なんか涙と鼻水の跡があんぞ??きったねぇなっ!!」
「は?マジ?どれとれ?マジだっ!うける~っ!!護衛が目の前で死んじゃったの思い出して泣いたんでちゅか~??ほ~ら、怖くないでちゅよ~!!」
「はぁぁ…、お前らは何もしてないだろうが……。」
俺の目の前に来て、赤ん坊をあやすかのように両手を顔の横に持っていき、変顔をしてくる。
ギャハハハハ、と汚い笑い声が部屋に響き、とても不快な気分になるが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
くそっ!もう少しで書き換えができたのに!!
運命の書は男に気づいた瞬間、咄嗟に消した。
何も言ってこないことから多分、気づかれてはいないはずだ。
ゴク、と無意識に口の中に溜まった唾を飲み、男達を睨む。
どうにかこの状況を打開しなくては、と、とりあえずずっと疑問に思っている事を聞いてみる。
「お、お前達の目的はなんだ…??お金か??」
「ぶふぅっ!!声震えてんじゃんっ!!」
「言ったとしてもおバカな僕ちゃんじゃ理解できないでちゅよ~っ!!」
「……お前に話す理由がない。」
予想していた答えが返ってきて視線を落とす。
スカドゥエを殺した男…長いから武装男Aと呼ぼう…。
赤ちゃん言葉を使う男は武装男B、もう片方を武装男Cと呼ぶとして、
Aは絶対に目的を漏らす事はないだろう。
俺たちが完全に油断したところまでやられたフリをし、逆にスカドゥエを殺った。
相当用心深い性格なのだろう、いくらバカで間抜けで非力な人間だろうと最後まで絶対に口は開かない。
逆に武装男B、Cは俺の事を完全にバカにしている。
俺が何もできないおぼっちゃまだと思っている。
だからちょっとつつけば簡単に目的を話すはずだ。
できればこのB、Cどちらかと話せる状況になればいいんだけれど……
動く気配が全くない。
俺が何かする事を警戒しているのか、Aは俺の真正面にずっと突っ立っていて視線を逸らさない。
これじゃ、書き換えるどころか運命の書も出せやしない。
BとCはドアの前に立っており俺の事をバカを見る目でニヤニヤと笑っている。
2つの気味の悪い視線と目の前の絶対零度の視線にモヤモヤとしながら考える。
とにかくAが何処かへ行く状況を作るか、Aが俺から目線を逸らすような話題を振らなければならない。
そもそもコイツらの目的はなんだ??
お金が目的だとすると俺が捕えられた時点でもう行動を起こしても良いはずだ。
この世界での人質の扱い方は分からないが、少なくとも何もせずにここに止まっている必要はない。
今にでもロット君の特徴である体の一部……黒髪と赤目を取って両親に送りつけるはずだ。
なのにおれはいまだに無傷。
だからお金が目的ではない。
コイツらがロット君に恨みを持っている?
いや、それが理由ならばなおさら今俺がここで生きているのはおかしい。
捕えた時点で殺されているはず。
そこで、ふ、と1つの疑問が降りてくる。
――――そもそも、ヤツらはなんで俺がここにいる事を知っているんだ?
スーパー◯ノコ事件で俺が少なくとも動けない状態である事は街中に知れ渡っている。
俺が街にくるまで待っていた??
そんないつ来るかも分からないヤツを待っている程コイツらは暇ではないだろう。
俺が生き返った事を見て、街へ行く、と言う情報を得た何者かが、コイツらに依頼をした。
その人物が
「……………俺をここに連れてくるように依頼されたのか。」
「「っ!!!」」
「………………。」
Aは相変わらず表情を変えないが、他の2人は驚いた表情をして目を見開いていた。
その顔を見て確信した。
「やっぱりな。お金目的なら俺に何もせずにここで待機しているのもおかしいし、お前達が復讐目的なら俺が生きているのもおかしい。それなら必然的に答えは誰かに依頼されたとしか考えられない。合っているか??」
男たちは何も答えない。
否定もしないし肯定もしない。
「誰に依頼されたか、の答えだがまず俺に恨みがある平民は無し。そもそもお前らに依頼する金がないだろうからな。それじゃ、誰か?って話だが簡単な話だ。」
あの時、あの場にいる人物は俺を含めて4人。
俺と母親、父親、それともう1人
「あの医者のおじいちゃんだろ?お前らの依頼人は。」
俺が目覚めてから真っ先に街へ行く、と言葉を聞いたのは両親除いてあの医者だけだ。
何らかの方法を用いて街にいるコイツらに連絡をしたのだろう。
俺たちが街へ着くより先にその情報を得ていたのであれば俺の変装を見破れたのも、俺がここに来るのを待っていた事にも合点がいく。
目的まではまだハッキリとは分からない。
だが依頼人はあの医者でしか考えられない。
俺が話終わった後、シン…と周りが静かになった。
Aだけは相変わらず表情は変わらず、無表情だ。
ハァ…、と深いため息を吐き、俺を冷たい目をしながら見下ろす。
子供の戯言を聞いている大人みたいな反応だ。
そう、Aだけ、は。
「いきなり流暢に喋り出したかと思ったら……ありもしない妄言をよくペラペラと恥ずかしげもなく語れるな……。」
「妄言?本当にそうか??お前、俺を警戒して監視するのは良いけど仲間もちゃんと見ないとダメだぞ。」
「は?」
「お仲間がご丁寧に教えてくれてるよ。俺の推測が大正解~だってな。」
「っ!!!」
ここで初めてAの表情が崩れる。
目を大きく見開いた後、眉間に皺を寄せ、バッと勢いよく仲間の方へと顔を向ける。
その勢いにビビったのか、仲間のB、Cはヒッ、と短い悲鳴をあげた。
相当怒っているのか、怖い顔をしているのかAの顔を見ているB、Cは顔面蒼白になりカタカタと震えて怯えていた。
「お前ら………感情の制御をしろとあれほど言ったのに……」
「い、いやぁ……、」
「お前みたいに無表情を貫き通すなんてやろうと思っても出来ねぇよ……。」
顔を引き攣らせながら弁明するB、Cを眺めながら上手いことAの視線を俺から外れた事に心の中でガッツポーズをした。
後はタイミングを見計らって運命の書を出そうと様子をうかがっていると、ドアの向こう側から微かに足音が聞こえてきた。
「っ!!」
その音に気づいたのは俺だけではなく男達も気づいたのか、陣取っていたドアの前から少しばかり移動し、Aがドアの隙間から警戒しながら何かを確認するかのように覗く。
近づいてくる者が知っている者か、仲間なのか、すぐに警戒を解きドアから離れた。
コツコツ、と迷いなくこちらに向かってくる足音に身体が固まる。
やがて、ギィぃぃと錆びたドアが鈍く開かれる音が鳴った後
「おやおや。坊ちゃん。もうお目覚めで??」
ニチャァ、と気味の悪い笑みと共に現れたのは
おれがロット君として目が覚めた時に両親と一緒にいた、あの医者だった。
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