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05.ラシードと語り部
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ラシードはそこらへんにゴロゴロいそうな平凡な容姿の男だ。中肉、中背、癖のある黒髪に、黒い瞳。ラシード自身は特に外見に拘るタイプではないので、平凡な容姿でも一向に問題ないと思っている。
ラシードはこの国の宰相の息子だ。 『アラジンと魔法のランプ』 では王女の婚約者だが、アラジンの登場により婚約破棄をされてフェードアウトする。もし出演者一同の集合写真を撮ったならば、左端で見切れているくらいならまだ扱いがいい。物語の版によっては登場さえしないような人物。
そんな彼にも物語はある。
ラシードはこの国で官吏をする男の息子として生を受けた。
「畜生、この案が通れば我が国はもっと発展するのに」
優秀で清廉な官吏だった父だが、出世するには家柄がよくなかった。ゆえに、せっかくよい政策を提出しても採用されなかったり、採用されても上司に手柄をかっさらわれたりと、散々だった。
「父上の苦悩をなんとかして差し上げたい」
ラシードの父は仕事に邁進するあまり、妻を蔑ろにした。一応使用人などは雇っていたので、家事や育児はワンオペではなかったが、妙に見栄を張る妻は、一向に出世もせず、自分を省みない夫を捨てて実家に戻ってしまっていた。ラシードは母が出て行った後に家政を取り仕切った祖母の教育もあり、忙しくてなかなか相手をしてもらえないながらも、父を敬愛していた。
「そういえば、お祖母様が小さい頃に面白い話をしてくれたなぁ」
祖母は、話を語るのが上手な人だった。街の人々からは『語り部』と呼ばれており、子ども達を集めては物語を紡いでいた。
†††
「これは、ラシードにしか話さない、とっときの話だよ」
ラシードが眠る前の子ども部屋。ラシードを寝かしつけるように身体を擦りながら祖母は語り出した。
「王都から西にある、アイナバル山。この山のふもとには洞窟がある。洞窟には仕掛けがあって、『清き心』を持たない者を寄せ付けない。もし、万が一『清き心』を持たない者が一歩でも洞窟に入ろうものならば、たちまち足元の地が割れて、奈落の底に落ちてしまう。恐ろしい、恐ろしい洞窟さ」
ラシードを寝かしつけようとするはずなのに怖い話をしてしまうという、『語り部』の祖母。げに恐ろしきは、自分の好みの話をしたいという『語り部』の性癖なのである。ラシードは内心ビビっていたが、せっかく祖母が語ってくれるならばと、キラキラした目で祖母を見返した。
「うわあ、怖いねえ」
「そうだよ。その洞窟に入りたかったら『清き心』を忘れちゃいけないよ。そんな怖い洞窟だけれど、入ろうとする人は後を絶たないんだ。なんでだと思う?」
祖母は茶目っ気たっぷりにラシードに聞いた。物語というものは、ただ語るだけではいけないのだ。時として聴衆を巻き込む必要がある。
「んー。宝物があるから?」
「そう、よくわかったね。宝物があるからさ。でもね、宝物を一つでも盗んだら、『清き心』を持たないと洞窟に判断されてしまうからね。決して宝物を持ちだしてはいけないよ」
「え? 宝物を持ちだせないなら、洞窟に入らなくてもいいんじゃない?」
ラシードは幼いが鋭い疑問を持った。この子ども、平凡な容姿ながらも中身は非凡なのである。
「そう思うだろう? ところがどっこい。よくわかりやすい金銀財宝といった宝物ではないものが真の宝物なのさ」
「へえー。それはなあに?」
「それはね、ランプさ。それもただのランプではなく魔法のランプ」
ラシードはわくわくした。魔法のランプなんて、どんな魔法が飛び出てくるのだろう。
「魔法のランプって、どんな魔法が使えるの?」
「魔法が使えるのではなく、魔法を使える魔人が出てくるそうなんだよ」
「へぇー」
「魔人はどんな願い事も叶えてくれるんだ。但し、願いは三つしか叶えられない」
「三つ……」
「そう、三つ。さて、その洞窟は案外入り組んでいるということも話しておかなきゃね。ランプが置いてある部屋に行く、道案内の唄がある」
そして、祖母は朗々と歌う。ラシードはその唄を歌いながら眠りについたのであった。
ラシードはこの国の宰相の息子だ。 『アラジンと魔法のランプ』 では王女の婚約者だが、アラジンの登場により婚約破棄をされてフェードアウトする。もし出演者一同の集合写真を撮ったならば、左端で見切れているくらいならまだ扱いがいい。物語の版によっては登場さえしないような人物。
そんな彼にも物語はある。
ラシードはこの国で官吏をする男の息子として生を受けた。
「畜生、この案が通れば我が国はもっと発展するのに」
優秀で清廉な官吏だった父だが、出世するには家柄がよくなかった。ゆえに、せっかくよい政策を提出しても採用されなかったり、採用されても上司に手柄をかっさらわれたりと、散々だった。
「父上の苦悩をなんとかして差し上げたい」
ラシードの父は仕事に邁進するあまり、妻を蔑ろにした。一応使用人などは雇っていたので、家事や育児はワンオペではなかったが、妙に見栄を張る妻は、一向に出世もせず、自分を省みない夫を捨てて実家に戻ってしまっていた。ラシードは母が出て行った後に家政を取り仕切った祖母の教育もあり、忙しくてなかなか相手をしてもらえないながらも、父を敬愛していた。
「そういえば、お祖母様が小さい頃に面白い話をしてくれたなぁ」
祖母は、話を語るのが上手な人だった。街の人々からは『語り部』と呼ばれており、子ども達を集めては物語を紡いでいた。
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「これは、ラシードにしか話さない、とっときの話だよ」
ラシードが眠る前の子ども部屋。ラシードを寝かしつけるように身体を擦りながら祖母は語り出した。
「王都から西にある、アイナバル山。この山のふもとには洞窟がある。洞窟には仕掛けがあって、『清き心』を持たない者を寄せ付けない。もし、万が一『清き心』を持たない者が一歩でも洞窟に入ろうものならば、たちまち足元の地が割れて、奈落の底に落ちてしまう。恐ろしい、恐ろしい洞窟さ」
ラシードを寝かしつけようとするはずなのに怖い話をしてしまうという、『語り部』の祖母。げに恐ろしきは、自分の好みの話をしたいという『語り部』の性癖なのである。ラシードは内心ビビっていたが、せっかく祖母が語ってくれるならばと、キラキラした目で祖母を見返した。
「うわあ、怖いねえ」
「そうだよ。その洞窟に入りたかったら『清き心』を忘れちゃいけないよ。そんな怖い洞窟だけれど、入ろうとする人は後を絶たないんだ。なんでだと思う?」
祖母は茶目っ気たっぷりにラシードに聞いた。物語というものは、ただ語るだけではいけないのだ。時として聴衆を巻き込む必要がある。
「んー。宝物があるから?」
「そう、よくわかったね。宝物があるからさ。でもね、宝物を一つでも盗んだら、『清き心』を持たないと洞窟に判断されてしまうからね。決して宝物を持ちだしてはいけないよ」
「え? 宝物を持ちだせないなら、洞窟に入らなくてもいいんじゃない?」
ラシードは幼いが鋭い疑問を持った。この子ども、平凡な容姿ながらも中身は非凡なのである。
「そう思うだろう? ところがどっこい。よくわかりやすい金銀財宝といった宝物ではないものが真の宝物なのさ」
「へえー。それはなあに?」
「それはね、ランプさ。それもただのランプではなく魔法のランプ」
ラシードはわくわくした。魔法のランプなんて、どんな魔法が飛び出てくるのだろう。
「魔法のランプって、どんな魔法が使えるの?」
「魔法が使えるのではなく、魔法を使える魔人が出てくるそうなんだよ」
「へぇー」
「魔人はどんな願い事も叶えてくれるんだ。但し、願いは三つしか叶えられない」
「三つ……」
「そう、三つ。さて、その洞窟は案外入り組んでいるということも話しておかなきゃね。ランプが置いてある部屋に行く、道案内の唄がある」
そして、祖母は朗々と歌う。ラシードはその唄を歌いながら眠りについたのであった。
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