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7.山に到着
しおりを挟むオーニョのふかふかの背中は、想像以上に居心地がよかった。
獣毛が暑苦しいかと思いきや、直射日光や風から守ってくれる優れもの。触り心地も機能性も素晴らしい。
快適、安心安全なオーニョの背に揺られながら、とてつもない速さで景色が過ぎ去っていくのをただ眺めることしばし。
背中でうとうとし始めたころに見えてきたのは、街だった。
「ふわぁ!」
あまりの光景に、胸が詰まって言葉にならない。
俺はただ驚嘆するばかりだった。
俺が最初に目指して歩いていたあの山。
なんと、あの山全体が、超巨大ビル並みの街だったのだ。
エアーズロックを彷彿とさせるてっぺんの平らな山全体に、赤茶色をしたレンガ造りの住居が断崖の山肌をくり抜いてびっしり並んでいる。
その絶景は、ただもうすごい。
ただの大学生だった俺の貧相な語彙などでは、表現できない光景だった。
ここが地球ではないと、俺もなんとなく気付いていた。
巨大鳥あたりから。
あんな鳥は、日本のみならず地球上には生息していない。
ましてや人語を解する生き物も。
とにかく、ここはどこだよという疑問に答えてくれそうな予感がする。
街! そう街なのだ!
人っぽい姿も見えるぞ!
オーニョの背中で、俺は興奮しながらきょろきょろと視線を動かした。
切り立った崖のような山のふもとに到着した俺が街を見上げれば、首が痛いくらい垂直の断崖絶壁。
そこにへばりつくように削りだされている階段が見えた。
俺のテンションは急降下だ。
崖にしか見えない山肌に密集する住居には、当然、住人が暮らしているわけで。
上層階の住人が、足を滑らせたらどうなるんだろう、なんて。
嫌な想像にもだもだしはじめた俺に、オーニョは振り返って、労るように頷いた。
俺が情けない顔をしながらも頷き返せば、オーニョは牙を剥いてグルルと喉を鳴らした。
正直にいうと、ちょっと心臓に悪い顔だ。
だけどオーニョの金色の目が優しいままだから、きっと笑顔なのだろう。
心臓に悪いけどね。
オーニョは俺を背に乗せたまま、勝手知ったる足取りで山肌の階段を駆けあがり、家と家の隙間の小道をすいすいと走り抜けていく。
ときおり住人に親しげに声をかけられているオーニョだが、目線をやるだけで足は止まらない。
そういえば荷物を咥えたままだったか。
喋れないよな。
それなら代理でと、俺が愛想笑いで会釈を返しておく。
住人たちは見知らぬ俺にも、楽しげに手を振ってくれた。
きっとある程度は、平和なんだろうな。
日差しから身を守るためか、住人の多くがカラフルなスカーフを、頭から肩や体にかけて巻いている。
イスラムのヒジャブをゆるくしたようなもので、とてもオシャレだった。
その住人の中には、青や紫、赤に緑と、多種多様な肌の色をした住人がいた。
体の大きさも大小さまざまで、たまに尻尾や羽が見えるのだ。
二度見したくなるような姿形の生き物が、ごく普通に混じっている。
そしてどの住人も人間と同じように暮らし、誰もが自分に似合う色や柄を身にまとっていた。その様子は溌剌としていて、とても素敵なのだ。
何よりもこんな断崖絶壁に住んでいるのに、住人たちにはあの巨大鳥襲撃に怯える様子がまったくない。
ごく平和な街にしか見えなかった。
どこからかただようご飯のいい匂い。
はためく洗濯物。
遠くから聞こえる子供の笑い声。
住人の姿形は違えど、平和な人々のいとなみを感じて、俺はほっとした。
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