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朝焼けの空に風が吹く
しおりを挟む気付いたら、開けっぱなしのカーテンから朝焼けが見えていた。
見慣れない天井を不思議に思いながら寝返りを打てば、視界いっぱいに肌色の逞しい男の胸板。
すよすよと気持ちよさそうな寝息が頭上から聞こえてくる。俺はしばらく固まった。
え、ちょちょちょっと待って。俺……なんで全裸?
ぐわっと昨夜の一部始終を思い出して、俺は頭を抱えた。全部、覚えている。
青井さんは、アバターの見た目が好みで使っていただけなのに、俺に優しくされて言い出せなくなってしまい、ずるずると女性のフリをしていたのだそうだ。
気付いたら好きになっていたとめそめそ泣く青井さんを慰めているうちに、青井さんの中にアオイを感じて、かわいいかわいいと言いまくったのだってしっかりと覚えている。
お店の割り箸の袋を指輪に見立てて、男に二言はない、約束通り結婚しようと大声で宣言したのも俺なら、お店の人たちに祝福されながら、青井さんの自宅にお持ち帰りされたのだって俺だ。
お酒で役に立たない俺をでろでろに甘やかしながら、丁寧すぎるくらい慣らされて。
初めて体の中に迎え入れた青井さんの青井さんも、優しく腰を振る青井さんの見事な腹筋も、イくときの青井さんのセクシーな吐息まで、一部始終しっかりはっきり覚えているのだ。
あああああ。マジで? 俺が抱かれたの? 抱かれたなぁ。うん。俺の尻も抱かれたって主張してるわ。ははは。
……いっそ、お酒で記憶を失っていたかった。
混乱しぐるぐると考えこんでいるうちに、青井さんの無駄に長いまつ毛が揺れて、ぱちっと目が開いた。
「……おはよ?」
「お、おはよう、ございま、す」
ぱちぱちと瞬きをする青井さんに挨拶をすれば、真っ赤になりながらひっくり返った声で挨拶が返ってきた。
こりゃ青井さんもしっかり記憶があるな。
「あ、朝ご飯、いや、その前にシャワー、えっと、私、昨日はかなり酔っ払っていて、あのまま寝てしまったので、あの、その」
「あー、たしかに、なんかあちこちガビガビしてる」
「すすすすすみません!」
「……シャワー、一緒する?」
「えっ!?」
「いや、冗談。先にシャワーを借りるね」
とりあえず起きあがろうとした俺の腰が、急な動きに悲鳴を上げた。
「っ! ……痛ってぇ」
「すみません! わ、私、初めてで、優しくしたつもりなんですが、あの、怪我とか……っ!」
「いや、ちょっと腰が痛かっただけで、怪我とかじゃないはずだから。っていうか、俺、初めてだったのになんかすごく気持ちよかったんだけど。誰ともつき合ったことないっていってたのも、嘘なのかと思った。……初めてって、本当に本当?」
耳まで真っ赤にしながら子どもみたいに首を縦に振る青井さんを見て、この人本当に俺が好きなんだなぁと思ったら、急に胸がいっぱいになった。
ーーなんだ。そっか。そうだよな。
急に納得した俺は、青井さんに向かって両手を広げた。
青井さんはおろおろしながらも、おずおずと抱きしめ返してくれたのだった。
裸のまま抱き合えば、かちりと音が聞こえそうなくらい、ぴったりだった。最初から二人で一つだったかのような錯覚に、思わず笑いがもれた。
「ふふふ」
「あの、颯真さん……?」
「うん。やっぱり好きだなぁと、思って。お酒の勢いじゃなくて、ちゃんと、青井さんが好きだよ」
大きな体を丸めてぼろぼろと泣きだした愛しい人に、優しく笑いかける。
そのまま見つめ合い、そっと唇を重ねた。
清涼な空気の流れを感じる。
窓の外では朝焼けに染まる雲が、風に吹かれて形を変えていた。
その中にきらきらと光る魔法の風をかすかに感じて、俺は自分の旅の終わりをたしかに感じたのだった。
(おしまい)
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