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30話 卒業までの日々

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12歳になりAランク試験を突破した俺だが冒険者登録前とほぼ変わらない日々を過ごしていた

唯一変わったとすれば登録前はウォルド達と一緒に魔物を討伐してたが登録後は近場の狩場で9割方ソロでの魔物討伐をしている

新人冒険者(俺もだが)や低ランク冒険者が依頼途中に別の魔物に襲われている時に助けに入り王都のギルドに一緒に戻る事は度々あった



Fランクは街の手伝いの依頼がほとんどだが素材採集の依頼などもある

Eはゴブリンの討伐依頼までしかできない

D以上になるとコボルトやスライム・ホブゴブリン等いくつか種類が増える



前世の記憶だとオークやスライムは弱い部類(ゲーム知識)なのだが、この世界ではオークは低くてもDの上位で平均Cの魔物になりスライムも最低がDの下位で変異や亜種になるとB認定の個体もいる

しかもスライムは溶かして喰うので危険度はかなり高いのだが、一部無害なスライムもいるので全てが危険なわけではない



そんな感じで学生と冒険者の生活をしつつ夏季休暇になる

例年通り級友全員で海へバカンスだ

今年はいつもの護衛に俺がプラスされている

俺だけはバカンス兼仕事になった

海に着いたらバカンスだけになるけどね

道中の護衛が陛下からの指名依頼でなのは察してくれ

陛下は公私混同してませんかね?依頼なのでお金は支払われるけどさ





夏季休暇が終わり秋になる

そこで世界情勢が一つ変わった

セフィッド神聖国の教皇が生前退位し新しくヴァルケノズ新教皇が即位した

ヴァルケノズさんとは幼少期に俺の家庭教師を1年程引き受けスパルタ指導をした人で、ゼロの正体を知っている数少ない人でもある



セフィッド神聖国の教皇は死ぬまで勤め上げて、教皇が死亡した際に枢機卿内から選抜して選挙が行われると、ヴァルケノズさんから前に聞いた

選抜方法は聞いてないから知らない

今回引退した教皇は初の生前退位であり後継者を指名して辞めたそうだ

また、セフィッド神聖国には上皇はなく代わりに相談役とか後見人に落ち着く

過去の教皇は後継者指名をしてこなかったらしくセフィッド神聖国では賛否両論の意見が出ている

前教皇は教会内に残り後進の育成をして余生を謳歌するそうだ

前教皇曰く、ご隠居様をしたいらしい

御年73なので身体が動くうちに世界各地を巡りたいとも漏らしていたそうだ



そんなことがあった半月後、リアーヌが12歳になり冒険者登録をした

ランクは勿論Fからスタートだ

1か月後にはヴィオレッタも12歳になり冒険者登録が出来るようになる

しかしここで俺は重大なミスに気付いてしまった

それはパーティーを組んだ場合の依頼受理に関してだ



パーティーメンバーの半数が低ランクだった場合そのランクか一つ上のランクしか受けれなくなる

俺達の場合だと俺がAで3人で二人がFなのでE迄しか受けれない

これがA・E・F各一人の場合はDまでとなる

但しパーティーの中で最も高いランクを持つ者以上のランクは受けられないのだ

仮にEとFのみだった場合はE迄の依頼しか受けられない

そのことを失念していたのでリアーヌに話すとヴィオレッタが登録するまでにランクを出来る限り上げると言われた

だが急激なランクアップは妬みの対象にもなるので上げてもD迄にしておこうと話し合って決める



効率よくするためにギルドでメンバー募集もしておく

当然だが要面談有で面接官は俺である

12歳で更に女の子とくれば如何わしい事を考える奴はいる

そこで面接官を俺がしておけば、あれを知ってる奴は手を出さない

ついでに言えばAランクなので抑止力の2段構えである

Aランクとはギルド側の信用度も高いので2段構えに出来るのだ



期間は冬になるまでで約2~3か月の間の臨時パーテイーにする

ウォルド達に指名依頼として頼んでも良いのだが、あまり贔屓にし過ぎるとウォルド達の為にも良くないので今回は頼まなかった

依頼する優先順位は、ウォルド達>以前の試験官二人>その他である



・・・・・ギルドで募集をかけて2日経つが、これといった冒険者はいなかった

中にはリアーヌをいやらしい目で見ている者もいて、面談で落ちると難癖付けて来たので濃密な殺気付きの威圧を叩きつけて丁重にお断りした

中にはO☆HA☆NA☆SIをした者もいる

俺より低ランクで弱いとか話にもならんわ

その後も面談を継続しつつリアーヌと依頼もこなし学業もしっかりやっている

そんな中、人も決まらずヴィオレッタが12歳になり冒険者登録した



リアーヌはこの一か月で何とかEランクには上がれた

俺もいるので3人でならDまでは受けれる様にはなった

募集も1か月かけたが望む人材は来ず諦めた

募集の取り下げに行くとギルマスに呼ばれ陛下からの指名依頼が来ていることを伝えられる

俺は今ものすごく酷い顔をしていると思う



一応内容を確認すると結構楽な部類の仕事だが面倒くさい仕事でもあった

ただ、リアーヌ・ヴィオレッタも参加できるランクの依頼なのは不幸中の幸いだ

報酬は金貨3枚と破格であったがその理由を後になって知る



依頼内容は新兵の野外訓練の指導と治安維持の為の定期討伐

新兵は冒険者ランクでは最低でもE以上の実力が無いと慣れない

ある年には新兵の質が良すぎてCランク相当の時もあったそうだ



今年の募集はスタンビートの件で少ないと洋装したが死亡した兵士以上の志願者が集まったそうだ

集まった理由は犠牲は大きくも大勝と呼べる結果だったのと募集時に俺に断りも無く今年の野外訓練には英雄の参加があるかもと流していやがった

勝手に流した首謀者は陛下以下重鎮複数名で破格の報酬金は詫び的な意味だと気付く

詫び的な金額出しても後でたっぷり文句を言ってやる!

実はフェルとルラーナ姉の婚約以降に俺は私事プライベートの時に王家への言葉遣いに対して全く遠慮し無くなっっており、リリィに関しても王女をつけなくなった

母親でもある第一王妃様が思惑通りみたいな顔をしているのは気になるが



そして秋は過ぎて行き、新年を迎える前にヴィオレッタがEランクに上がり、リアーヌは春頃辺りにCランクの実力を持つDランクとして名前が売れた

名前が売れた理由は新兵訓練の依頼と俺のAランク試験時の試験管だったSランクの1人に臨時パーティーの申し込みをされ依頼を一緒に完了させたからだ

新兵の野外訓練の時にスタンビートの残党魔物2300匹位が途中で見つかり急遽掃討作戦に移行し殲滅に参加したのも大きな理由である



当時、スタンビードの西側魔物は約1割が討伐出来ず逃げたと聞いていた

5分の1だがそれが見付かり、その掃討戦でリアーヌは破格の動きを見せてDランクに昇格

しかしもうすぐ冬だった為にCランク昇格条件である賊の討伐試験が出来なかった

尤もこの試験は人を殺す際に足が竦まず悪行に走らないかを見る試験である

賊の討伐依頼も季節関係なくあるが試験に関して取れる安全は全て取って行う為に春迄延期



ヴィオレッタも頑張ったがDランク昇格には一歩届かなかった

届かなかった理由はSランクからの臨時パーティーにヴィオレッタは参加出来なかった

依頼自体が高ランクなうえC以下受注不可でヴィオレッタも用事があったためだ



リアーヌはCランク昇格試験待ちと言う事で特例で許可はされた

但し、万が一には真っ先に撤退・離脱を条件にされての参加だ

依頼内容はマンティコアの群れを掃討で群れの数は38

その中に変異種の統率者らしいのがおり推定危険度はA上位でギルド見解はS中位

Bランクのパーティー3つが別々に受けたが1つは全滅し、もう1つは命は助かるも怪我が酷く復帰不可能で全員が引退に追い込まれ、最後の1つはリーダー死亡にパーティーの半分が喰われたとの事

危険な依頼なので気を引き締めて臨んだのだが結果は楽勝

俺は援護に徹しての楽勝と呼べる成果である

因みに、Dランクとは思えぬ働きを見せたリアーヌが臨時パーティーと一緒に終わらせた依頼がこれだ



リアーヌの使う魔闘拳流の戦い方は大きく分けて二つ

ヒット&アウェイと一撃必殺になる

チャンスと見るや一撃で仕留めに行き、それ以外は回避に重点を置きつつ獲物を弱らせて確実に1撃で仕留められる様に持っていくのだ



だが俺が感心したのはそこではない

俺が最も凄いと思ったのは視野の広さだ

空間認識能力と気配察知がとんでもなかった

後ろに目があるのではないかというような動きさえしていた

彼女は背が小さく小柄で、素早く動きもするので攻撃を当てにくい

後、多分関係ないと思うがリアーヌは以前に胸の大きさをからかわれてコンプレックスを抱いているらしく、それが良い方向に働いてるかは不明だが動きがとても速い

情報として付け加えると、前世で表すなら現在は無乳か微乳程度の大きさである



そんなリアーヌだが掃討後はSランクの冒険者パーティーにべた褒めされていた

卒業後はうちに入らないかと誘われていたほどだ

リアーヌは俺と組むと言って断っていたが気が向いたら臨時でも良いから組もうと熱心に誘われていた

こんなこともあり試験さえクリアすればリアーヌのCランク昇格は確実となった

彼女の目標である成人までにBランクはかなり近づいただろう



年が明けるも現在は冬なので3人とも冒険者家業はほぼ休んでいる

たまに運動がてらに弱い魔物を狩る位だ

依頼以外でも魔物を狩れば魔石や素材などは売れる

いつも通りゴブリンを討伐した後ふと以前からの違和感に気付くことになった

違和感とはヴィオレッタの戦闘に対してだ



ヴィオレッタはリアーヌには劣るが空間認識も気配察知もそこらの冒険者よりは格段に良いし剣技に関しても十分すぎるほどだ

なら、ヴィオレッタへの違和感とは何なのか?それは戦い方だ

ヴィオレッタの戦いは優雅で美しいのだがそれはこちらが優勢な時のみに見せれば良い剣技だ

だがヴィオレッタはどんな時でも優雅に見せようとする

それは非常に危険だ

いざと言う時にはなりふり構わず蹂躙する剣技や体術が必要になってくる

だがヴィオレッタは常に優雅さを崩さない



何かあってからでは遅いと俺は二人を呼んで感じた違和感を話すがリアーヌも少しはヴィオレッタの戦い方に違和感を覚えていたそうだ

ただそれが何かまではわかっていなかった

対するヴィオレッタはちょっと・・・・いや、かなりむくれている

実際に体験してみないと無理かな?と思ったので二人同時に俺が模擬戦の相手をすることにした




模擬戦開始の合図でリアーヌが突っ込んでくるが躱すと同時にカウンターを入れる

リアーヌは躱して距離を取ろうとするも俺が追撃して攻撃に移れないように肉薄する

ヴィオレッタは隙を見て攻撃しようと伺ってるのでわざと隙を作り誘う

その間もリアーヌは防戦一方であった

俺はリアーヌが防戦できるギリギリで攻撃しているのだから当たり前である



一方ヴィオレッタは隙を見逃さず攻撃しようとするが優雅に攻撃出来ない隙を作ってある

なんせ俺はヴィオレッタに背を向けているのだから

ヴィオレッタからしてみれば優雅では無いだろう

だがこれが優雅なのかどうかと言われれば疑問が残る

正々堂々でも相手が隙を見せ背を向けたのならば攻撃するべきなのだ

ましてや今は2対1で更にリアーヌが防戦一方だ

仲間のピンチなら少なくとも打開策を出すように動かなければならない



だが、ヴィオレッタは動かない

相手を背中から攻撃など彼女の美学が許さないのだろう

俺は攻撃を止めて終了の合図を告げ、ヴィオレッタに問う

何故隙があるのに攻撃しなかったのか?と

彼女は押し黙ってしまう

勿論攻撃できない理由は状況によって出てくるが今回は攻撃してきても問題ない状況だ

今回はあくまで攻撃に移れるかどうかが本題なのだから

ヴィオレッタは答えられないままその日は解散となった



そこから1週間ヴィオレッタとは話していない

話さぬまま冬期休暇に入り新年を迎え約1か月半過ぎてヴィオレッタは俺とリアーヌに頭を下げてきた

俺には指摘されて拗ねた事。リアーヌには模擬戦の時助けに入れなかった事に対してだ



あれから話をしていなかったがヴィオレッタは父親へ指摘された事と剣技について相談をし、冬期休暇中は修練に明け暮れていたそうだ

ヴィオレッタは何を優先させるかを間違ってはいけない事に気付いたと言って来た

優先させるのは自分と仲間の命

それに気付けたと言って清々しい笑顔を見せた

ちょっとドキッってしたのは内緒だ



そして春を迎える前に高度高等学院の試験を受ける日が来てSクラスは全員が試験を受けた

試験結果は3月中頃に通知が来るそうだ




高度高等学院の合否を待ちつつ3月初日、俺達は高等学校を卒業した






3月半ば、Sクラス全員が高度高等学院の試験に受かった
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