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57話 葛藤と自身の答え

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ギルマスとの話も終え、ギルドを後にする

今は夕方前だが、流石にデートの感じではなくなった

帰るにも早いので、とりあえず5人でカフェへ入ってお茶にする

結構重大な話をしたと思うのだが、ミリアとリアは仲良く話をしている

前世の価値観と違うせいもあるだろうが、二人共強いなと思ってしまった



1時間程お茶して別れ、屋敷に戻ると超激怒した父が待っており、城へと連行された

陛下も超激おこで、2時間程たっぷり説教を受けた後、話がどうなったか聞かされる

各国と話し合った結果、各国とも伯爵で収まった

但し、式を挙げた後は侯爵か公爵に上げる事を約束したそうだ

各国もランシェスに合わせて爵位授与をするという



後は屋敷についてだが、手狭になるだろうから引っ越しか建て直す様にと言われた

父も資金援助はするからと言われたが、金なら腐るほどあるので了承した

尚、二人に今の総資産を見せたら呆れられた

王札4枚とか個人資産ではかなりの物だからな・・・

お説教と話も終わり、お腹も減ったので、急いで屋敷に帰った





夕食後、俺は部屋に戻り色々と考えてしまう

考えるのはリアの事もあるけど、一番の本題は5人も婚約して幸せにできるのか?って事だ

そもそも、この世界は前世と価値観が違う面がありすぎる

それに気になっていることもあった



ナユルは多分だが俺の事を気にしている

恐怖とか興味ではなく異性としてだ

しかし、ナユルとも婚約になったら6人と更に増える

今の俺には幸せにすると断言できる自信が無かった



正直、俺のどこが良いのかわからない

好意を寄せられているのはわかっている

俺はちょっと鈍感だけど、物語に出てくる鈍感系主人公よりは鈍くない

相手の気持ちをある程度察していて、それでも鈍感系を演じているのは自分で分かっているし、卑怯だと感じてもいる

自己分析だけど、前世であったとある出来事に未だ囚われているんだと思う

俺は今の関係が壊れるのを恐れているんだろうな

だから結婚に対して前に進めないでいる

前世の俺とは喋り方も考えている事も随分と違う気がするのにな




そういや、あいつら元気かな・・・

顔はうろ覚えで思い出しにくいが、名前はしっかりと覚えている

前世の親友や友達にあの二人・・・・・今の俺を見たらどう思うだろうか?

人を殺すことには抵抗が無くなった

でも、進んで殺したいとかじゃない

自分にとって大切な人達を守る為なら気に留めなくなっただけ












そして、思考が徐々にループしていき、俺の意識は闇に飲まれていった













気が付くとそこは見た事のある風景だった

転生まで過ごした懐かしき場所



〝神界〟である



少し歩くとそこには懐かしい神達がいた

尤も、その内の2神は1か月ほど前に会ってはいるが



「お久しぶりです。ジェネス様、メナト様、リュラ様。助言は大変に助かりました。シル様、シーエン様」



「久しぶりじゃのぅ。何か悩んでおる様じゃったからここに連れてきたのじゃが、何を悩んでおる?」



「良く知ってますね?」



「君の事は気にかけておったからの。流石に、寝込んだ時や魔力枯渇の時はひやひやしておったぞ」



神って暇なのか?と思いつつ、相談をする



前世と今の自分の違い

婚約者達の事

自分と言う在り方



時間が出来た事もあったのが災いなのか幸いなのかはわからない

だが、リアの告白で自分を見つめ直す時間が出来、今まで流されてきた事について、考えてしまうようになった

良く考えると、自重しようと思って出来ていなかったと思う

自分では気付いてなかったが、思ったより心に余裕が無かったのかもしれない

その心を見透かすようにリュラ様が口を開く



「何を考える必要がある?強い者に惹かれるのは自然の摂理。強い雄がいくつもの雌と子孫を残すなど珍しくは無いだろう?」



「そういう単純な話なら、楽なんですけどね・・・・」



肩を竦めて返す俺にリュラ様は不満そうだ

そこであれ?っと思う

残りの神は?

その質問にはジェネス様が答えた



「残りの者だがこの場にはおらんよ。色々あるのじゃが、わざと仕事を割り振って、この場には来れなくさせたのじゃ」



「元食神・・・・神喰いの事ですか?」



「気付いておったのか。今、この場にいる者は、問題無いと判定した者達だけじゃ。だから安心するが良い」



今は深く追求するのは止めておこう

俺の中で確信が持てない以上、全員が容疑者なのだから

それに、今はそれどころじゃないしな・・・

俺は頷き、話を元に戻すとメナト様から質問される



「私はそういう事に興味が無いのだが、そもそも君はどうしたいんだ?不知火蒼夜?グラフィエル?それとも両方?そこが全くわからない」



「?・・・質問の意味が理解できないのですが?」



「君は考え過ぎなんだよ。私からすれば君の悩みの本質がわからない。君は・・・どうあろうと考えているんだ?」



「どうあろうと考える・・・」



「今の世界でも不知火蒼夜として生きているのか、グラフィエルとして生きているのか、または両方を持ち合わせて生きているのか」



「それは・・・」



考えた事も無かった・・・

俺は今、誰なんだろう?

不知火蒼夜?グラフィエル?原初の使徒?・・・・・わからない

ますます思考のループへと陥る俺に、シル様が語り掛ける



「ある所に一人の青年がいました。青年は優しく、誰からも好かれ、でも女性の気持ちには少し鈍感な子でした。彼は優しいので好意を持つ女性は多いけれど、中々特定の女性と付き合う事をしませんでした。彼は怖かったのです。自分が傷つき嫌われることが。自分が誰かの心を傷つけるのが。ですが彼は、一人の女性と付き合い始めます。でも、長続きはせず別れてしまいました。二人は疎遠になり、いつしかお互いの居場所すらわからなくなり、記憶の彼方へと消えました。彼はこんな想いをするなら一人で良いと考え、誰とも付き合わなくなりました。その後、彼は成人し友人も増え、楽しく暮らしていましたが、ある日突然死んでしまいました。死んでしまった彼の心にあったのは後悔でした。その後悔とは素直に生きられなかった事と気持ちを押し殺した事でした。彼は次があれば後悔しない生き方をすると誓い、願い、その生涯を閉じました」



「もしかして、それって・・・」



「過去に在った青年の話ですよ」



微笑みながら、語り終えるシル様

だが、この話は俺の事だと理解してる

最後の辺りは、本当にそう思ったのかわからない

だけど、少なくともあの時に、死んだと告げられた時に〝もっと素直になっていれば!〟という後悔は確かにあった

俺は押し黙るとシル様が諭す様に言葉を放つ



「あの時こうすれば!と言う後悔は、誰にもあるのです。私も、あなたへ神器開放を進めましたが『もっと良い方法があったのでは?』と、今でも思います」



「あれは間違いなく、あの方法が最善策でしたよ」



「そう言って貰えると少しは肩の荷が下りますね。ですが、神ですらそうなのです。なら、あなたはどう生きますか?」



その答えがわからないから悩んでいる

・・・・・いや、答えは多分出ている

でも、それをして良いんだろうか?

また堂々巡りになりかけそうになった時、メナト様が質問する



「君は自分を好いてくれる気持ちには応えたいと思っている。あの世界ではそれが可能だ。でも、流されたままでは幸せにできないと考えている。違うかい?」



俺は何も言えない

間違っていないから

メナト様は更に続けて



「一つ君に質問をしよう。親の言いつけで君と結婚する。そこに彼女の意思はない。勿論だが好きでもない。でも、好きになろうと努力し、ゆくゆくは円満な家庭になる。君はそれを否定するかい?」



「本人達が幸せなら、否定しません」



「じゃ、同じ状況で全く好きになれずに、ただ跡継ぎと家の為に結婚して家庭を持った者は否定するかい?君の前世で言えば、仮面夫婦と言うやつだ」



「それは・・・」



「出来ないだろう?当事者はそれを受け入れているしね。なら、君に好意を寄せている者の気持ちを否定するかい?いや、否定しても良いけど、自分よりも素晴らしい相手がいると考えるのは逆に失礼じゃないかい?」



否定できない・・・

なら、俺はどうすればいい?

完全に迷い込んだ・・・負のループに・・・・

だが、シーエン様の一言が俺を負のループから引き上げる



「ラフィはもっと我儘になっても良い。自分の気持ちを大切にするのが一番」



良いのだろうか?

俺は今でも十分我儘だと思う

その考えをシーエン様が砕く



「ラフィは自分の気持ちに蓋をし過ぎ。今ここにいるのは誰?今を生きるのは誰?不知火蒼夜?グラフィエル?どちらでもない。今を生きるのは自分自身。それは、〝不知火蒼夜でありグラフィエルでもある〟あなた自身。分けて考えては駄目」



今を生きるのは自分自身・・・



「誰も、貴方の人生は決められない・・・。決めるのは自分自身。なら、自分が思うように、後悔しないように生きれば良い」



後悔しないようにか・・・

俺は皆の事を考える・・

そうか・・・そうだな・・・俺は皆が好きだな

少し吹っ切れたがまだ何か燻ぶっている

そこへジェネス様が声を掛ける



「答えは出たみたいじゃが・・まだ何か悩んでおるの?」



「俺は人を殺しました。結果的には誰かを守る行為でしょうが、そんな俺が幸せになっても?」



「君はそれを悪いと感じる心を持っている。だが、殺した者は悪事を働いていたんじゃろ?なら儂らからの天罰にすれば良い。弱肉強食が世界のルールなのじゃから戦争や悪人退治などで気にせんでも良い」



「ですが・・・」



「人は必ず死ぬ。そして、その行いを元にして、来世での運命がある程度決まる。君が気にすることではない。どうしても納得できぬなら、全力で生き、新しい命を増やせば良い」



「君は考え過ぎだと言っただろう?そもそも君は、なろうと思えば神になれる存在だ。君は君の心が求めるままに、信じるままに生きればいいのさ」



「人も獣も根底にあるのは生きる事、子孫を残すことだ。人を殺めるのも生存本能だと思えば良い。だが、己の快楽の為に殺めれば私は許さないが」



「リュラは相変わらずですね。ですが間違ってはいませんよ。だから、あなたはあなたの思うがままに答えを出せば良いのです」



「さっきも言った。もっと我儘になって良いと。自分の気持ちに素直になるべき」



「君の世界は君だけのものじゃ。なら、君の世界に誰を迎えるのか?誰と共に大きくするかじゃよ。そして、心が欲するままに動けば良い」



・・・・・ああ、そうか・・・・・

答えは俺の中に既にあったのか

俺は皆が好きで、今の関係を壊したくないと思っている

前世では一夫一妻制だから、関係が壊れやすかった

だけど、今世ならそれが出来るのか



不知火蒼夜の世界は今も続いてる

でも、グラフィエルの世界も今ここにある

俺は前世の価値観に囚われ過ぎていたんだろう

俺は何処かで、グラフィエルを自分ではない第三者として見ていたのだろうな



どっちも俺で・・・でも、不知火蒼夜の生きた世界は一度終わりを告げて、グラフィエルの世界と混じり、新しい世界として生きている

なら俺は、生を謳歌しよう

悔いは残るかもしれないし、選択を間違えるかもしれない

でも、その全てが生きた証なら、自分の気持ちに正直に生きよう

そして、しっかりと認識しよう

前世の価値観ではなく、今の価値観を



奪った命も糧として大切な・・・自分の特別な人達を幸せにするために

覚悟を決めよう・・・自分の特別な人の想いを受け止め、共に歩み、支え合い、生きて行く事を

信じよう・・・どんな困難もきっと乗り越えられると

きちんと伝えよう・・・流されたままでなく自分の気持ちを

それが皆の想いに応える事と信じて

もう、迷いはない!俺は不知火蒼夜の記憶と知識を持つグラフィエルだ!

どちらも俺だ!だから!!



「迷いは、消えたようじゃの」



「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」



「それは何よりじゃ。君の幸せを願っておるよ」



「ありがとうございます」



「君が結婚する時は何か贈るからの。何にするかは決めておらんが・・」



「もしかしたら、お願いしたい事があるかもしれません。結婚の贈り物はそれを聞いて頂けませんか?」



「ほっほっほ。本当に吹っ切れたのぅ。では、その時を待つとしようかの」



「あ、一つだけ質問が。結婚する前に婚約者達には全てを明かしたいんですが、良いですか?」



「それが君の出した答えかの?」



「結婚するのに一番大事な事は言いたいので・・・」



「・・・・・・よかろう。但し、誓約無しは婚約者と原初様の許可した者だけじゃぞ?」



「ありがとうございます。メナト様の質問にも答えて行こうと思います」



「どれの事かな?」



「仮面夫婦の事です。答えは、自分で選んだのなら他者に何も言わせるな!です」



「あははは!なるほど!それが君の答えか!良いね!悪くない答えだよ!」



「ありがとうございます」



「もう一つだけ質問するよ?親の決めたことに対する答えは?」



「答えは同じですよ。享受は同意と同じだと思います。嫌なら行動しろ!です。抵抗して無駄なら助けを求めろ。それでも駄目なら、可能性を模索しろ。諦めは、自身の世界が死ぬのと同じだから」



「それでも、どうにもならない時は?」



「俺なら家を捨てますね。後は、結婚式当日に相手が断ってくるようにぶっ壊す?他にもありそうですが・・・その時考えます」



「プッ!かなり行き当たりな所もあるけど・・・合格だよ。そんなラフィに私からプレゼントだ」



そう言ってメナト様はとある紋章を渡す



「それを持って傭兵国に行けば、きっと役に立つ。とある場所にそれを嵌め込むだけだよ」



何かわからないが貰っておこう

メナト様がくれた物だし、何か意味があるだろう

最後にメナト様が冗談なのか本気なのかわからないが



「手のかかる弟みたいだよ・・・全く」



と言って来たので、それに対する返答はこうだ



「これ以上、姉は要りません」



その言葉を最後に、俺は神界から離れていく

意識は再び闇の中へと落ちて行った・・・
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