32 / 122
32
しおりを挟む
第二王子と婚約者だった頃でも、彼から何か物を貰ったことは、一度もなかった。
国の繁栄の為、都合のいい者同士の婚約だから、そんなものか、と思っていたけれど、第一王子のローザス王子は、ことさら彼自身の婚約者を大事にしていて、ことあるごと、どころか、たいした用もなしに物を贈っていると聞いて、それをうらやましく思ったことくらいはある。
いや、流石にあのペースで物を渡されても困るし、そこまではいらないと思っていたけれど、一度くらいは、と、夢見たことが、なかったわけじゃない。誕生日くらい、何かプレゼントしてくれないかな、とか。
でも、ある日、「お前は何か婚約者にあげないのか?」とローザス王子に話しかけられていたリアン王子を見かけたとき――自分が、社交界でなんと呼ばれていたか、思い出させられた。
華やかな第二王子が婚約者になったところで、わたし自身の何かが変わったわけではないのだ、と。
「あの女に? 冗談はよしてくれ。何をやったって、装飾品がくすんで無駄になるだけじゃないか」
たまたま廊下で聞いてしまった言葉。盗み聞くつもりはなかった。
リアン王子からあまりよく思われていないだろうことは、なんとなく察していたし、わたしが地味姫と、社交界で笑われていることも知っていた。
でも、実際に、彼がハッキリ言っているところを見てしまったら、どうにも、決定的で、ごまかしがきかなかった。
――地味姫だと、分かっていても、傷つかないわけじゃない。
泣かないように、堪えるのに必死だった記憶だけが、わたしの脳裏にこびりついている。前後があやふやで、どうしてあんな場面を見かけることになったのかも覚えていないのに、なぜか、あの馬鹿にしたように、笑って言い捨てるリアン王子の声だけは、あのとき聞いた声とそっくりそのまま、同じように思い出せる。
第二王子という婚約者がいる以上、他の男の人からプレゼントを受け取るわけにはいかないし、当のリアン王子がああならば、わたしはもう、男性からプレゼントを受け取ることはないのだろう、と思っていた。お父様がプレゼントをくれる最初で最後の異性で、唯一だなのだ、なんて。
――でも。
「……大切に、しますね」
わたしはアルディさんに笑いかける。
忘れてしまいたいほど、苦い思い出だったから、目を逸らし続けていたけど、結局、ささいなきっかけで思い出してしまうものだ。
でも、彼の優し気な表情を見るだけで、あの頃のわたしが、少しだけ救われたような気がした。
……この髪飾り、大切に使おう。
国の繁栄の為、都合のいい者同士の婚約だから、そんなものか、と思っていたけれど、第一王子のローザス王子は、ことさら彼自身の婚約者を大事にしていて、ことあるごと、どころか、たいした用もなしに物を贈っていると聞いて、それをうらやましく思ったことくらいはある。
いや、流石にあのペースで物を渡されても困るし、そこまではいらないと思っていたけれど、一度くらいは、と、夢見たことが、なかったわけじゃない。誕生日くらい、何かプレゼントしてくれないかな、とか。
でも、ある日、「お前は何か婚約者にあげないのか?」とローザス王子に話しかけられていたリアン王子を見かけたとき――自分が、社交界でなんと呼ばれていたか、思い出させられた。
華やかな第二王子が婚約者になったところで、わたし自身の何かが変わったわけではないのだ、と。
「あの女に? 冗談はよしてくれ。何をやったって、装飾品がくすんで無駄になるだけじゃないか」
たまたま廊下で聞いてしまった言葉。盗み聞くつもりはなかった。
リアン王子からあまりよく思われていないだろうことは、なんとなく察していたし、わたしが地味姫と、社交界で笑われていることも知っていた。
でも、実際に、彼がハッキリ言っているところを見てしまったら、どうにも、決定的で、ごまかしがきかなかった。
――地味姫だと、分かっていても、傷つかないわけじゃない。
泣かないように、堪えるのに必死だった記憶だけが、わたしの脳裏にこびりついている。前後があやふやで、どうしてあんな場面を見かけることになったのかも覚えていないのに、なぜか、あの馬鹿にしたように、笑って言い捨てるリアン王子の声だけは、あのとき聞いた声とそっくりそのまま、同じように思い出せる。
第二王子という婚約者がいる以上、他の男の人からプレゼントを受け取るわけにはいかないし、当のリアン王子がああならば、わたしはもう、男性からプレゼントを受け取ることはないのだろう、と思っていた。お父様がプレゼントをくれる最初で最後の異性で、唯一だなのだ、なんて。
――でも。
「……大切に、しますね」
わたしはアルディさんに笑いかける。
忘れてしまいたいほど、苦い思い出だったから、目を逸らし続けていたけど、結局、ささいなきっかけで思い出してしまうものだ。
でも、彼の優し気な表情を見るだけで、あの頃のわたしが、少しだけ救われたような気がした。
……この髪飾り、大切に使おう。
326
あなたにおすすめの小説
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
出稼ぎ公女の就活事情。
黒田悠月
恋愛
貧乏公国の第三公女リディアは可愛い弟二人の学費を稼ぐために出稼ぎ生活に勤しむ日々を送っていた。
けれど人見知りでおっちょこちょいのリディアはお金を稼ぐどころか次々とバイトをクビになりいよいよ出稼ぎ生活は大ピンチ!
そんな時、街で見つけたのはある求人広告で……。
他サイトで投稿しています。
完結済みのため、8/23から毎日数話ずつラストまで更新です。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる