472 / 493
第六部
466
しおりを挟む
思わずぽかん、としてしまったが、間違いない。すぐ隣に、師匠がいる。
「な、なぜここに……」
もう会えないとばかり思っていた。きっと、あれが最後なのだろうと。
しかし、わたしの動揺など知らないのか、それとも分かった上で無視したのか、「ディンベルの捕獲魔法を完全に消し去って自由になったからな。お前を口説きに来た」と、さも当たり前と言わんばかりに笑いながら言った。
「取り合えずその白衣を取れ。他の男の服を着ているのは不快だ」
「不快って言われましても……」
というか、これって着ているに入るのか? 頭からかぶってるだけなんだけど。
「にん……人の姿だとここにはいられないんです。取って欲しいなら変態〈トラレンス〉でも使って見せてくださいよ」
「うん? ……ああ、そう言えばこの間の君には猫耳が付いていたな。今はそうなっているのか。どれ。……変態〈トラレンス〉」
師匠が軽く指を振る。頭を触れば、確かにそこには猫耳が戻っていた。「ついでにぼくも」ともう一度変態〈トラレンス〉を使って動物の耳をはやしている。
「えっ……まほ……っ、使って?」
魔法を使って、とはっきり言うことは流石にためらわれて、少し口ごもりながらも、わたしは師匠に問う。この空間じゃ、魔法は使えないんじゃ……。
「ああ、お前のまともに回復できていない魔力じゃあっという間に尽きるだろうね。この程度の濃度じゃ、ぼくの魔力が尽きることはないよ」
そう言えば、オカルさんも、獣人は元に戻らないって言ってたな……。えっ、わたしの、こっちに来てからの魔力の回復量、失敗した魔法の残りカスみたいな魔力しか戻ってなかったってこと?
「ところでぼくもお前と同じ猫耳にしてみたんだけど――っ、と」
わたしは背後に引っ張られ、代わりにイナリの拳が、師匠を殴ろうとしていた。それを師匠はぎりぎりのところでかわす。
「あんた、誰?」
わたしをかばうかのように抱きしめる、イナリの片腕に酷く力が入っている。
つい、いつものように師匠と話をしてしまったけれど、冷静に考えたら、このタイミングで現れた彼が怪しく見えないわけがない。ましてや、わたしを狙う人が、オカルさん以外にもいるんだから、その誰かだと思うのも無理はない。
「……マレーゼを離せ間男が」
「は!? 間男じゃないですけど!? ていうかどっちかと言えば師匠が間男……」
「おや、間男にしてくれるのか?」
「しない! 絶対!」
わたしと師匠が言い合っていると、「マレーゼ?」と、ちょっぴり怒ったようなイナリの声が背後から聞こえてくる。
そうだ、こんなときにこんな会話している場合じゃないんだった……。
「な、なぜここに……」
もう会えないとばかり思っていた。きっと、あれが最後なのだろうと。
しかし、わたしの動揺など知らないのか、それとも分かった上で無視したのか、「ディンベルの捕獲魔法を完全に消し去って自由になったからな。お前を口説きに来た」と、さも当たり前と言わんばかりに笑いながら言った。
「取り合えずその白衣を取れ。他の男の服を着ているのは不快だ」
「不快って言われましても……」
というか、これって着ているに入るのか? 頭からかぶってるだけなんだけど。
「にん……人の姿だとここにはいられないんです。取って欲しいなら変態〈トラレンス〉でも使って見せてくださいよ」
「うん? ……ああ、そう言えばこの間の君には猫耳が付いていたな。今はそうなっているのか。どれ。……変態〈トラレンス〉」
師匠が軽く指を振る。頭を触れば、確かにそこには猫耳が戻っていた。「ついでにぼくも」ともう一度変態〈トラレンス〉を使って動物の耳をはやしている。
「えっ……まほ……っ、使って?」
魔法を使って、とはっきり言うことは流石にためらわれて、少し口ごもりながらも、わたしは師匠に問う。この空間じゃ、魔法は使えないんじゃ……。
「ああ、お前のまともに回復できていない魔力じゃあっという間に尽きるだろうね。この程度の濃度じゃ、ぼくの魔力が尽きることはないよ」
そう言えば、オカルさんも、獣人は元に戻らないって言ってたな……。えっ、わたしの、こっちに来てからの魔力の回復量、失敗した魔法の残りカスみたいな魔力しか戻ってなかったってこと?
「ところでぼくもお前と同じ猫耳にしてみたんだけど――っ、と」
わたしは背後に引っ張られ、代わりにイナリの拳が、師匠を殴ろうとしていた。それを師匠はぎりぎりのところでかわす。
「あんた、誰?」
わたしをかばうかのように抱きしめる、イナリの片腕に酷く力が入っている。
つい、いつものように師匠と話をしてしまったけれど、冷静に考えたら、このタイミングで現れた彼が怪しく見えないわけがない。ましてや、わたしを狙う人が、オカルさん以外にもいるんだから、その誰かだと思うのも無理はない。
「……マレーゼを離せ間男が」
「は!? 間男じゃないですけど!? ていうかどっちかと言えば師匠が間男……」
「おや、間男にしてくれるのか?」
「しない! 絶対!」
わたしと師匠が言い合っていると、「マレーゼ?」と、ちょっぴり怒ったようなイナリの声が背後から聞こえてくる。
そうだ、こんなときにこんな会話している場合じゃないんだった……。
33
あなたにおすすめの小説
異世界推し生活のすすめ
八尋
恋愛
現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。
この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。
身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。
異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。
完結済み、定期的にアップしていく予定です。
完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。
作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。
誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。
なろうにもアップ予定です。
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
天使は女神を恋願う
紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか!
女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。
R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m
20話完結済み
毎日00:00に更新予定
イッシンジョウノツゴウニヨリ ~逆ハーレムを築いていますが身を守るためであって本意ではありません!~
やなぎ怜
恋愛
さる名家の美少女編入生を前にしてレンは気づいた。突然異世界からやってきてイケメン逆ハーレム(ふたりしかいないが)を築いている平凡な自分ってざまぁされる人間の特徴に当てはまっているのでは――と。
なんらかの因果によって突如異世界へ迷い込んでしまったオタク大学生のレン。三時間でクビになったバイトくらいしか社会経験もスキルもないレンは、心優しい保護者の経営するハイスクールでこの世界について学べばいいという勧めに異論はなかった。
しかしこの世界では男女比のバランスが崩壊して久しく、女性は複数の男性を侍らせるのが当たり前。数少ない女子生徒たちももれなく逆ハーレムを築いている。当初は逆ハーレムなんて自分とは関係ないと思っていたレンだが、貴重な女というだけで男に迫られる迫られる! 貞操の危機に晒されたレンは、気心知れた男友達の提案で彼を逆ハーレムの成員ということにして、なりゆきで助けた先輩も表向きはレンの恋人のひとりというフリをしてもらうことに……。これで万事解決! と思いきや、なぜか男友達や先輩が本気になってしまって――?!
※舞台設定と展開の都合上、同性愛の話題がほんの少しだけ登場します。ざまぁの予兆までが遠い上、ざまぁ(というか成敗)されるのは編入生の親です。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる