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第三部
不明瞭
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仕事用のデスクは、書類と本の山によって占領され、どうにも散乱とした印象を与えてしまうようです。私のデスクだけではなく、他の研究職員のデスクも似たり寄ったりですが、外部の人間がその光景を見ると、必ず「うわっ!」という顔をされてしまいます……まあ、仕方のないことですね。
けれど、そんな私のデスクの上にも、ぽっかりと穴が空くように片付けられた、『聖域』のような場所が、少しだけ存在します。
一つのフォトフレーム。
そのフォトフレームに飾られた写真をいつでも見られるように、その周りにだけは物を置きませんし、フォトフレームが伏せられることもありません。
飾られているのは、幼い頃の私と、今は亡き祖父が写っている、随分と色あせてしまった写真です。
歴代当主の中でも、ひと際聡明で博識だった祖父。そんな祖父ですら、前文明のことは、ほとんど知りませんでした。
いつもなら、祖父に質問すればどんな内容でも必ず答えが帰ってきたのに。前文明のことに対して質問したとき、「分からないなあ」と言われたときの、ショックと感動たるや。
――あのおじいさまにも、知らないことがあるんだ!
今思えば、どれだけ祖父が賢く物知りであっても、祖父にだって知らないことやできないことはいくつもあったはず。
でも、幼い頃の私にとって、尊敬してやまない、全知全能とすら信じて疑わなかった祖父に知らないことがある、というのはなかななに衝撃でしたし、あの祖父ですら知らない、理解できないもの、という前文明に私の心は一瞬にして奪われました。
そうして、知的好奇心に動かされるままに生きてきて、今に至ります。
実家からは、祝集祭のたびに「まだ結婚しないのか」「いい人はいないのか」「折角こんなにかっこよく産んであげたのに」などなど、ちくちくとお小言を言われますが……まあ、それも前回の祝集祭で終わりです! マレーゼさんがいるのですから、半年後の祝集祭であれこれ言われることもないでしょう。
前文明の研究に人生を捧げる、と思っていたのですが、人生なにがあるか分からないものですね。
まさか私が魔法を使える人間だったとは。……マレーゼさん、何か魔法を教えてくれたりしないでしょうか……。
「――イエリオ!」
そんなことを考えていると、手が止まってしまっていたようで。同僚に声をかけられてしまいました。
さりげなく、サボっていないアピールをしようと手を動かし始めましたが、どうやらそうではないようです。
「客だぞ客。猫種の、超美人さん」
「ああ、来ましたか。分かりました、今行きます」
どうやら彼女が研究所に到着したようです。
私は軽く広げていた書類を片付け、彼女を迎えに行くべく、デスクを後にしました。
けれど、そんな私のデスクの上にも、ぽっかりと穴が空くように片付けられた、『聖域』のような場所が、少しだけ存在します。
一つのフォトフレーム。
そのフォトフレームに飾られた写真をいつでも見られるように、その周りにだけは物を置きませんし、フォトフレームが伏せられることもありません。
飾られているのは、幼い頃の私と、今は亡き祖父が写っている、随分と色あせてしまった写真です。
歴代当主の中でも、ひと際聡明で博識だった祖父。そんな祖父ですら、前文明のことは、ほとんど知りませんでした。
いつもなら、祖父に質問すればどんな内容でも必ず答えが帰ってきたのに。前文明のことに対して質問したとき、「分からないなあ」と言われたときの、ショックと感動たるや。
――あのおじいさまにも、知らないことがあるんだ!
今思えば、どれだけ祖父が賢く物知りであっても、祖父にだって知らないことやできないことはいくつもあったはず。
でも、幼い頃の私にとって、尊敬してやまない、全知全能とすら信じて疑わなかった祖父に知らないことがある、というのはなかななに衝撃でしたし、あの祖父ですら知らない、理解できないもの、という前文明に私の心は一瞬にして奪われました。
そうして、知的好奇心に動かされるままに生きてきて、今に至ります。
実家からは、祝集祭のたびに「まだ結婚しないのか」「いい人はいないのか」「折角こんなにかっこよく産んであげたのに」などなど、ちくちくとお小言を言われますが……まあ、それも前回の祝集祭で終わりです! マレーゼさんがいるのですから、半年後の祝集祭であれこれ言われることもないでしょう。
前文明の研究に人生を捧げる、と思っていたのですが、人生なにがあるか分からないものですね。
まさか私が魔法を使える人間だったとは。……マレーゼさん、何か魔法を教えてくれたりしないでしょうか……。
「――イエリオ!」
そんなことを考えていると、手が止まってしまっていたようで。同僚に声をかけられてしまいました。
さりげなく、サボっていないアピールをしようと手を動かし始めましたが、どうやらそうではないようです。
「客だぞ客。猫種の、超美人さん」
「ああ、来ましたか。分かりました、今行きます」
どうやら彼女が研究所に到着したようです。
私は軽く広げていた書類を片付け、彼女を迎えに行くべく、デスクを後にしました。
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