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第四部
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翌日。わたしは寝坊することなく、起床することに成功していた。その日暮らしの仕事してこなかったシーバイズ生活ではあったが、起床時間だけは前世からあまり変えずに生活してきたのがよかったらしい。
というわけで、わたしは冒険者ギルドへと来ていた。
先にルーネちゃんに挨拶するのかな、と思っていたが、どうやら重大な事件を起こした犯罪者が収監される刑務所は、冒険者ギルドの地下にあるらしい。普通の刑務所も別にあるらしいが、絶対に脱獄しないように、万一脱獄されてもすぐ捕まえられるように、とこんな場所にあるのだとか。
先に歩くルーネちゃんと、やはり彼女の左右を固めている彼女の夫二人の後をわたしとウィルフさんはついていく。
わたしがいるのは場違いじゃないか? と不安がないわけではないが、いつの間にかジェルバイドさんの護衛の頭数にわたしも入っていたらしく、むしろついていかない様子を見せたときに不思議がられてしまった。
階段を降りて、いくつか扉を経由する。わたしは刑務所なんか入ったことがなくて、ゲームでのイメージしかなく、これが刑務所のスタンダードなのか、いまいち判断に困る。
ここの刑務所は、鉄格子で区切られているのではなく、廊下の左右に扉がいくつかならんでいた。扉から中が伺えるようにと上部に小窓がつき、扉のドアノブ付近には、ご飯を出し入れするのであろう、また別の小窓があった。
扉が左右向かい合うことはなくて、少しずれている。多分、小窓から他の部屋の様子が見えないように設計されているんだろう。
ふと、ある扉の前で、ルーネちゃんたちは足を止める。
「ええと、ここです。……本当にいいんですね?」
「ああ」
ジェルバイドさんの解放でいいのか、という、最終確認。そのルーネちゃんの質問に、ウィルフさんは迷わず即答していた。
その答えを聞いて「では」とルーネちゃんが扉を開ける。
扉の小窓からは気が付かなかったが、扉の向こうにもう一枚、鉄格子の扉が設置されていた。小窓に柵があるのかと思っていたが、扉の向こうの鉄格子が小窓から見えていたらしい。
「二十七番――いえ、冒険者ジェルバイド。昨日支給した服は着ましたか?」
ルーネちゃんは鉄格子越しに、声をかけた。
鉄格子に男が近付いてくる。やつれた顔に合わないほど、新品の服を身にまとっていた。
警戒してか、ルーネちゃんの夫たちがルーネちゃんを庇うように半歩前に出ると、攻撃の意思がないと示すためか、男は一歩後ろに下がった。
「――ああ、着たよ。だが、こんなもの、着させてどうするつもりだ」
酷く掠れた声。人と余り会話をしないのか、聞き取りにくい、がさがさの声だった。まあ、こんな場所で生活していたら、話をする相手もそうそういないだろうが。
「それでは、本日を持って、貴方を釈放とします」
「――は」
釈放、という言葉を聞いて、男の目はこれでもか、というくらい、見開かれた。
というわけで、わたしは冒険者ギルドへと来ていた。
先にルーネちゃんに挨拶するのかな、と思っていたが、どうやら重大な事件を起こした犯罪者が収監される刑務所は、冒険者ギルドの地下にあるらしい。普通の刑務所も別にあるらしいが、絶対に脱獄しないように、万一脱獄されてもすぐ捕まえられるように、とこんな場所にあるのだとか。
先に歩くルーネちゃんと、やはり彼女の左右を固めている彼女の夫二人の後をわたしとウィルフさんはついていく。
わたしがいるのは場違いじゃないか? と不安がないわけではないが、いつの間にかジェルバイドさんの護衛の頭数にわたしも入っていたらしく、むしろついていかない様子を見せたときに不思議がられてしまった。
階段を降りて、いくつか扉を経由する。わたしは刑務所なんか入ったことがなくて、ゲームでのイメージしかなく、これが刑務所のスタンダードなのか、いまいち判断に困る。
ここの刑務所は、鉄格子で区切られているのではなく、廊下の左右に扉がいくつかならんでいた。扉から中が伺えるようにと上部に小窓がつき、扉のドアノブ付近には、ご飯を出し入れするのであろう、また別の小窓があった。
扉が左右向かい合うことはなくて、少しずれている。多分、小窓から他の部屋の様子が見えないように設計されているんだろう。
ふと、ある扉の前で、ルーネちゃんたちは足を止める。
「ええと、ここです。……本当にいいんですね?」
「ああ」
ジェルバイドさんの解放でいいのか、という、最終確認。そのルーネちゃんの質問に、ウィルフさんは迷わず即答していた。
その答えを聞いて「では」とルーネちゃんが扉を開ける。
扉の小窓からは気が付かなかったが、扉の向こうにもう一枚、鉄格子の扉が設置されていた。小窓に柵があるのかと思っていたが、扉の向こうの鉄格子が小窓から見えていたらしい。
「二十七番――いえ、冒険者ジェルバイド。昨日支給した服は着ましたか?」
ルーネちゃんは鉄格子越しに、声をかけた。
鉄格子に男が近付いてくる。やつれた顔に合わないほど、新品の服を身にまとっていた。
警戒してか、ルーネちゃんの夫たちがルーネちゃんを庇うように半歩前に出ると、攻撃の意思がないと示すためか、男は一歩後ろに下がった。
「――ああ、着たよ。だが、こんなもの、着させてどうするつもりだ」
酷く掠れた声。人と余り会話をしないのか、聞き取りにくい、がさがさの声だった。まあ、こんな場所で生活していたら、話をする相手もそうそういないだろうが。
「それでは、本日を持って、貴方を釈放とします」
「――は」
釈放、という言葉を聞いて、男の目はこれでもか、というくらい、見開かれた。
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