269 / 493
第四部
266
しおりを挟む
気づかれた。怒鳴る大柄の男の声に、ちらほらと数少ない人々の注目が集まる。
大半はわたしたちが喧嘩をしていると思っているのか、不思議そうな顔や迷惑そうな顔をしているだけで、ジェルバイドさんの正体に気が付いていない表情をしている。
しかし、一人、二人、と、少ない数ではあるが、明らかにジェルバイドさんを見て表情が変わった人もいて。
まずいな、とわたしが焦っている間にも、ウィルフさんは二人の間に割って入る。
「離せ」
「うるさいっ! どうしてそいつがそこに居るんだ!」
たとえ大柄とはいえ、ウィルフさん相手ではびくともしない。それでも、大柄の獣人の男はウィルフさんにくってかかる。
「ここでは危ないですよ! 一旦落ち着いて……!」
こんなところで暴れたら非常に危ない。城壁の上なのだ。転落防止の柵はあるものの、大柄の二人が揉めて落ちない可能性はないわけじゃない。
この高さから落下したら確実に死ぬだろう。
とにかく落ち着かせないと。
いっそ、一旦この場はウィルフさんに任せて、ジェルバイドさんを連れてシャルベンへ行った方がいいか、と彼の方を見ると――また別の人がジェルバイドさんに近付いていた。
ジェルバイドさん自身は顔を隠そうとうつむいていて忍び寄る人影に気づいていない。
ウィルフさんはその人影に気が付いているが、すぐには動けそうにない。危害を加えようとしているだけで、実際なにかしたわけではない大柄の男に、そこまで強く出られないんだろう。
なまじ、こちらの方が褒められたものでないと理解しているので。本来なら、ジェルバイドさんはこんなところにいないのだから。
「――ジェルバイド!」
ウィルフさんが声を上げると、彼がパッと顔を上げる。そこに立つ、女性の姿にびくりと肩を跳ねさせた。
「貴方のせいであたしの夫は死んだのよ! 門番だった夫は、一番に、貴方のせいで……っ!」
ヒステリックな叫び声を上げ、女性は殴りかかる様にジェルバイドさんを押し飛ばした。
本来だったら、女性が突き飛ばしたところで、男性であるジェルバイドさんはそこまでダメージを食らわなかっただろう。
でも、ついさっきまで収監されていた彼は、冒険者の現役時代とは比べ物にならないくらい筋力が落ちていて。
故に、女性の押し飛ばす力に耐えきれず、よろめいた。
本来だったら、柵があって、背中を強打するだけで済んだだろう。
でも、みし、と、嫌な音が立って――柵の一部が崩れた。
落ちる。
半分以上なくなった柵は、ジェルバイドさんを支えきれなくて。彼の体は、半分以上、橋の上から出ていて。
やばい、とわたしが駆け寄るより早く、弾かれるようにウィルフさんがジェルバイドさんへと駆け寄っていった。
大半はわたしたちが喧嘩をしていると思っているのか、不思議そうな顔や迷惑そうな顔をしているだけで、ジェルバイドさんの正体に気が付いていない表情をしている。
しかし、一人、二人、と、少ない数ではあるが、明らかにジェルバイドさんを見て表情が変わった人もいて。
まずいな、とわたしが焦っている間にも、ウィルフさんは二人の間に割って入る。
「離せ」
「うるさいっ! どうしてそいつがそこに居るんだ!」
たとえ大柄とはいえ、ウィルフさん相手ではびくともしない。それでも、大柄の獣人の男はウィルフさんにくってかかる。
「ここでは危ないですよ! 一旦落ち着いて……!」
こんなところで暴れたら非常に危ない。城壁の上なのだ。転落防止の柵はあるものの、大柄の二人が揉めて落ちない可能性はないわけじゃない。
この高さから落下したら確実に死ぬだろう。
とにかく落ち着かせないと。
いっそ、一旦この場はウィルフさんに任せて、ジェルバイドさんを連れてシャルベンへ行った方がいいか、と彼の方を見ると――また別の人がジェルバイドさんに近付いていた。
ジェルバイドさん自身は顔を隠そうとうつむいていて忍び寄る人影に気づいていない。
ウィルフさんはその人影に気が付いているが、すぐには動けそうにない。危害を加えようとしているだけで、実際なにかしたわけではない大柄の男に、そこまで強く出られないんだろう。
なまじ、こちらの方が褒められたものでないと理解しているので。本来なら、ジェルバイドさんはこんなところにいないのだから。
「――ジェルバイド!」
ウィルフさんが声を上げると、彼がパッと顔を上げる。そこに立つ、女性の姿にびくりと肩を跳ねさせた。
「貴方のせいであたしの夫は死んだのよ! 門番だった夫は、一番に、貴方のせいで……っ!」
ヒステリックな叫び声を上げ、女性は殴りかかる様にジェルバイドさんを押し飛ばした。
本来だったら、女性が突き飛ばしたところで、男性であるジェルバイドさんはそこまでダメージを食らわなかっただろう。
でも、ついさっきまで収監されていた彼は、冒険者の現役時代とは比べ物にならないくらい筋力が落ちていて。
故に、女性の押し飛ばす力に耐えきれず、よろめいた。
本来だったら、柵があって、背中を強打するだけで済んだだろう。
でも、みし、と、嫌な音が立って――柵の一部が崩れた。
落ちる。
半分以上なくなった柵は、ジェルバイドさんを支えきれなくて。彼の体は、半分以上、橋の上から出ていて。
やばい、とわたしが駆け寄るより早く、弾かれるようにウィルフさんがジェルバイドさんへと駆け寄っていった。
12
あなたにおすすめの小説
異世界推し生活のすすめ
八尋
恋愛
現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。
この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。
身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。
異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。
完結済み、定期的にアップしていく予定です。
完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。
作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。
誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。
なろうにもアップ予定です。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる