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第五部
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一階の右端。イナリさんの住むアパートにはインターフォンがないので、扉をノックする。
少し待つと、扉が開かれ――その先に、ちょっとだけ不機嫌そうなイナリさんがいた。
不機嫌そう、というか、寝不足なのかもしれない。目の下に、うっすらとクマがある。
「……なに」
それでいて、声が掠れている。完全にお疲れのようだ。
「もー、『なに』じゃない! 今日マレーゼが行くって話、してたでしょ!」
横からフィジャが口を挟む。
やりとりがいつも通り過ぎて、一昨日の夜聞いたのは、夢だった気がしてきた。
「……もうそんな時間?」
「また徹夜? イエリオもよく徹夜するけど、ホント、みんなよくできるよねぇ」
考えられない! と言いながら、フィジャはイナリさんが「あがっていい」と言う前に勝手に家へとあがっていった。勝手知ったる、と言わんばかりに。
「どうせ部屋も散らかって――う、うーん……」
先に部屋へと入ったフィジャが言いよどむ。どうしたんだろう。
「……入れば」
じと、と睨みながらイナリさんがわたしに言う。態度はなにも変わらない。やっぱりあれ、夢だったか?
「お邪魔しまーす……」
そう言いながら、わたしはイナリさんの部屋へとあがる。フィジャの後ろからひょいと中を覗くと、フィジャが言葉を失った
理由が分かった。
部屋が片付いていたのだ。しかし、『一応』という言葉が前につく。
部屋の散乱具合が前後で分かれているのだ。部屋の中央に置かれたベッドを協会にして。
手前にはソファがぽつんとあり、床が見えてとても片付いているように見える。でも、その奥、ベッドより向こう側、おそらくはイナリさんの作業デスクと思われる机を中心にものが散乱していて。
散らかってもいるし、片付いてもいる。非常に反応に困る部屋だ。
でも、これはわたしの居住スペースをなんとか確保してくれた、ということなんだろう。……もしかして、そのせいで徹夜した、とか? いや、流石に事前に片付けくらい……どうなんだろう。
「手前があんたの生活スペース。これなら文句ないでしょ」
「ありがとうございます……」
わたしは礼を言いながら、ソファの横に鞄を置いた。
「悪いけど、寝るのはそこ使って」
そこ、とイナリさんが差すのはソファだ。サイズは二人用で、やや小さいが寝れることは知っている。
わたしがこの世界に来た初日、無理言って泊めて貰ったときにこのソファで寝たので。
「……僕の家で誰かが泊まることないから。悪いけど、客用の寝具はないんだよ」
視線をそらしながらイナリさんは言った。
少し待つと、扉が開かれ――その先に、ちょっとだけ不機嫌そうなイナリさんがいた。
不機嫌そう、というか、寝不足なのかもしれない。目の下に、うっすらとクマがある。
「……なに」
それでいて、声が掠れている。完全にお疲れのようだ。
「もー、『なに』じゃない! 今日マレーゼが行くって話、してたでしょ!」
横からフィジャが口を挟む。
やりとりがいつも通り過ぎて、一昨日の夜聞いたのは、夢だった気がしてきた。
「……もうそんな時間?」
「また徹夜? イエリオもよく徹夜するけど、ホント、みんなよくできるよねぇ」
考えられない! と言いながら、フィジャはイナリさんが「あがっていい」と言う前に勝手に家へとあがっていった。勝手知ったる、と言わんばかりに。
「どうせ部屋も散らかって――う、うーん……」
先に部屋へと入ったフィジャが言いよどむ。どうしたんだろう。
「……入れば」
じと、と睨みながらイナリさんがわたしに言う。態度はなにも変わらない。やっぱりあれ、夢だったか?
「お邪魔しまーす……」
そう言いながら、わたしはイナリさんの部屋へとあがる。フィジャの後ろからひょいと中を覗くと、フィジャが言葉を失った
理由が分かった。
部屋が片付いていたのだ。しかし、『一応』という言葉が前につく。
部屋の散乱具合が前後で分かれているのだ。部屋の中央に置かれたベッドを協会にして。
手前にはソファがぽつんとあり、床が見えてとても片付いているように見える。でも、その奥、ベッドより向こう側、おそらくはイナリさんの作業デスクと思われる机を中心にものが散乱していて。
散らかってもいるし、片付いてもいる。非常に反応に困る部屋だ。
でも、これはわたしの居住スペースをなんとか確保してくれた、ということなんだろう。……もしかして、そのせいで徹夜した、とか? いや、流石に事前に片付けくらい……どうなんだろう。
「手前があんたの生活スペース。これなら文句ないでしょ」
「ありがとうございます……」
わたしは礼を言いながら、ソファの横に鞄を置いた。
「悪いけど、寝るのはそこ使って」
そこ、とイナリさんが差すのはソファだ。サイズは二人用で、やや小さいが寝れることは知っている。
わたしがこの世界に来た初日、無理言って泊めて貰ったときにこのソファで寝たので。
「……僕の家で誰かが泊まることないから。悪いけど、客用の寝具はないんだよ」
視線をそらしながらイナリさんは言った。
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