転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います!

ゴルゴンゾーラ三国

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第五部

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 床を見つめながらどうにか気まずい空気をなくせないかと考えていると、ふと、また鉛筆のすべる音が止んでいることに気が付く。いつからイナリさんの手が止まっていたのかは知らない。
 デザイン案に悩んでいるのかな、と顔を上げ彼の方を見ると、ぱちっと目があった。どうやらこっちを見ていたらしい。

「あの――」

「な、なんでもない!」

 パッとイナリさんは目線を手元に戻す。頬が少しだけ赤くなっていた。
 何か用があったのかな。もしかして、何かわたしに声をかけようとして、タイミング悪くわたしが顔を上げたものだから、言い出しづらくなったのか。

「何か用なら話聞きますよ」

 というか、話題提供なら大歓迎である。イナリさんは何かを描いているから間が持つのかもしれないが、わたしは非常に手持ち無沙汰だ。文字がろくに読めないので読書で時間を潰すことも出来ない。

「いや、別に……でも……」

 イナリさんの視線が下の方をうろうろと動く。しばらくそうして迷っていた様だったが、意を決して、という様子で口を開いた。

「その、君の今着てる服、前にいた時代の、なんだよね……?」

「え? はい、そうです」

 こちらに来てから何着か服を買い足したが、こちらに来た日に着ていたワンピースはお気に入りの一着だったので、普通に今も着ている。周りから浮くほどデザインが違うわけでもないし。

「君の時代の服のことを、少し、教えて貰いたい、というか……」

 だんだんとイナリさんの声が小さくなっていく。
 そのくらいのことならいくらでも話すのだが、わたしの返事を聞く前に、イナリさんはまくし立て始めた。

「ほ、ほら、あの、イエリオに聞くと教えてほしいことが一つでも、十も百も話されて、話は長くなるし、情報は多くなりすぎて分からなくなるし、だから、そう、仕方なく! 仕方なく君に聞くだけだから!」

 分かりやすっ! 分かりやすく、『仕方ない』アピールをイナリさんはしていた。
 ウィルフさんのキツイ一言は割と本気なのか冗談なのか分かりにくいことが多いのだが、イナリさんは分かりやすく嘘と言うか、建前と言うか、そう言うものに感じる。

 イナリさんって、こんなにも分かりやすい人だったっけ、と軽く過去を思い出してみるが、露骨にツンツンしているイメージしかない。
 でも、冷静に考えてみれば、あんまり二人きりになったことがないかもしれない。

 そりゃあ勿論、一切ない、とは言わないけど。でも、それだって一時的というか、いつまでも二人きりでいないといけない、二人きりの状況がいつ終わるか分からない、というパターンではなかったように思う。

 今みたいに、しばらく二人きり、ということはなくて。
 ……向こうも緊張してる、とか。

 いや違う、そんなことないって、と思う反面。
 ウィルフさんと違って、ツンツンはしてるけど、同時に、容赦がなかったわけではないことを思い出す。思い出してしまう。

 初対面のとき。わたしを警戒しているくせに、飛び降りかもと思ったら焦って止めてきた。
 寝泊まりするところがないと泣きついたとき。わざわざ家に泊めてくれた。
 フィジャのために魔法を新しく習得したとき。血まみれのわたしを心配してくれたし、一緒にご飯を食べることを拒否しなかった。
 イエリオを担いで非難していたとき。べしょべしょに泣くわたしを励まして心配してくれた。

 他にも、いろいろ、彼のツンツンしているのは演技だったんじゃないかと、思い当たる節がいくつもあって。
 ウィルフも根はいい人なので見捨てはしないだろうけど、もっと塩対応だったと思う。

 えっ、もしかして演技? 本当に演技だった?

「……教えてくれなければそれでいいけど」

 わたしが思考を飛ばしていたのを、断る理由を探していると勘違いしたらしい。少し拗ねたような声音で彼は言う。

「いや、大丈夫です、教えます、なんでも聞いてください!」

 わたしは慌てて大丈夫だと笑う。どこか落ち着かず、そわそわとした心を押さえながら。
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