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第六部
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自分の心臓が痛いくらいに早く動いているのが分かる。鼓動の音ばかりがわたしの頭に響いて、現状を飲み込むのに少しばかり時間がかかる。
当然、そんなわたしよりも、フィジャたちの方が早く動くわけで。
「えっ、マレーゼ大丈夫? どうしたの」
エプロンをつけたフィジャが、キッチンの方から様子を見に来てくれたらしい。イエリオもいる。
脳内の処理が追い付いていないわたしは、「あ」とか、「えっと」とか、そんな中身もない声をあげることしか出来ない。
「もしかして話聞いてた?」
フィジャが首を傾げながら聞いてくる。とくに焦った様子は見られない。ただの質問のようだ。
誤魔化すことも考えたけれど、内緒にするつもりがないのなら素直に言った方がいいかな……と、わたしは素直に「て、手伝いに来たんだけど、なんか話に入りにくくて、それで、それで……」と白状した。
「あー、そっか、成程ね。で、ウィルフはどうしたの」
フィジャの視線がウィルフの方に向かう。わたしもつられてウィルフを見ると、少しばかり気まずそうに目線をそらし、後頭部をかいていた。
「こんなところでただ突っ立ってたら気にするだろ。……驚かせるつもりはなかったけどよ」
わたしが勝手に驚いただけなのだが、でも、心臓に悪かったのは確かである。とはいえ、フィジャとイエリオの会話に夢中になっていたので、多少大きな足音で近付かれたとしても気が付かなかっただろう。
なのでそこまでウィルフに過失はない。
「あの、さっきの……」
さっきの話、聞いちゃっても良かったの? と言おうとしたとき、シュウシュウという音が聞こえてきた。「わぁー!」とフィジャがにわかに慌てだす。ばたばたとキッチンに戻ってしまった。
なにか拭きこぼしたのかな。中断させてしまったけど、よくよく考えればフィジャは夕飯の準備をしていたのだ。ウィルフが帰ってきたってことは、イナリもすぐに帰ってくるだろう。
話し込むのはあとにした方がいいかな。
緊張なのか、驚いたのが尾を引いているのか、どっちなのかは分からないけど、少しだけまだ力の入らない指先で袖をまくりながらキッチンに入る。
「手伝うよ」
「ありがとー! もうすぐ出来るから、イエリオたちは向こう行ってて」
けろっとした様子のフィジャに、わたしは何故だか、ちょっとだけ、むっとしてしまった。話を盗み聞いていたわたしがそんなこと思える立場じゃないのに。
――わたしは昼間にあんなことをメルさんに言われて、こんなにも、もやもやしてたのに。
「――……」
ふと思い浮かんだ感情が、なんとも、決定打になってしまった気がした。
「マレーゼ、お皿を……あれ、どうかした?」
「な、なんでもないよ!」
誤魔化すように言った声が、酷く上ずってしまった。
当然、そんなわたしよりも、フィジャたちの方が早く動くわけで。
「えっ、マレーゼ大丈夫? どうしたの」
エプロンをつけたフィジャが、キッチンの方から様子を見に来てくれたらしい。イエリオもいる。
脳内の処理が追い付いていないわたしは、「あ」とか、「えっと」とか、そんな中身もない声をあげることしか出来ない。
「もしかして話聞いてた?」
フィジャが首を傾げながら聞いてくる。とくに焦った様子は見られない。ただの質問のようだ。
誤魔化すことも考えたけれど、内緒にするつもりがないのなら素直に言った方がいいかな……と、わたしは素直に「て、手伝いに来たんだけど、なんか話に入りにくくて、それで、それで……」と白状した。
「あー、そっか、成程ね。で、ウィルフはどうしたの」
フィジャの視線がウィルフの方に向かう。わたしもつられてウィルフを見ると、少しばかり気まずそうに目線をそらし、後頭部をかいていた。
「こんなところでただ突っ立ってたら気にするだろ。……驚かせるつもりはなかったけどよ」
わたしが勝手に驚いただけなのだが、でも、心臓に悪かったのは確かである。とはいえ、フィジャとイエリオの会話に夢中になっていたので、多少大きな足音で近付かれたとしても気が付かなかっただろう。
なのでそこまでウィルフに過失はない。
「あの、さっきの……」
さっきの話、聞いちゃっても良かったの? と言おうとしたとき、シュウシュウという音が聞こえてきた。「わぁー!」とフィジャがにわかに慌てだす。ばたばたとキッチンに戻ってしまった。
なにか拭きこぼしたのかな。中断させてしまったけど、よくよく考えればフィジャは夕飯の準備をしていたのだ。ウィルフが帰ってきたってことは、イナリもすぐに帰ってくるだろう。
話し込むのはあとにした方がいいかな。
緊張なのか、驚いたのが尾を引いているのか、どっちなのかは分からないけど、少しだけまだ力の入らない指先で袖をまくりながらキッチンに入る。
「手伝うよ」
「ありがとー! もうすぐ出来るから、イエリオたちは向こう行ってて」
けろっとした様子のフィジャに、わたしは何故だか、ちょっとだけ、むっとしてしまった。話を盗み聞いていたわたしがそんなこと思える立場じゃないのに。
――わたしは昼間にあんなことをメルさんに言われて、こんなにも、もやもやしてたのに。
「――……」
ふと思い浮かんだ感情が、なんとも、決定打になってしまった気がした。
「マレーゼ、お皿を……あれ、どうかした?」
「な、なんでもないよ!」
誤魔化すように言った声が、酷く上ずってしまった。
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