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第六部
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希望〈キリス〉、だって? 希望〈キリグラ〉ではなく?
ほんの少しの魔力で、魔法陣が必要ない、他とは違う特別な魔法。師匠の口から、その魔法は希望〈キリグラ〉だと教えてもらったのに。
しかも、呪文の名前が師匠と同じだなんて。
「ピスケリオ、ウィルフが使ったのは希望〈キリグラ〉でしょ? しかも名前が師匠と同じ……」
「そりゃあ、同じ名前ですわよ。その魔法を作ったのは、あのキリスなんですもの」
作った……作った? 師匠が?
師匠が魔法を新たに産みだすこと自体に驚きはない。あの人はそのくらい、平然とやってのける。実際、わたしも、彼がクリり上げた新たな魔法でしろまるを産みだすための下準備をしたのだから。
――でも、じゃあ、どうしてわたしにわざと違う名前を教えたの?
騙してたってこと? それとも、わたしにそんな魔法を教える価値がないと思った? わたしには、魔法使いの才能がないから。
だって、作った本人が、魔法の名前を間違えるわけがない。
聞きたいことは、一杯あった。でも、混乱の方が大きくて、うまく整理できない。
師匠が、わたしに嘘をついていた、なんて信じたくない。
でも、魔法に関して、精霊は完璧だ。十全だ。それは精霊が魔法とは切っても切り離せない関係で、分類してしまえば同じ種類になるから。
だから、魔法のことでは、精霊が一番信用できる。
「――……本当は、どういう魔法なの?」
ほんの少しでも魔力があれば、どんな不可能も一定確率で叶う、奇跡の魔法。
わたしは、そう教えられた。
「キリスに願いを叶えて貰う魔法ですわ。魔力が必要なのは、キリスに届けないといけませんから。まあ、大体のことは全自動で叶う魔法ですので、キリス自身に願い事の詳細は分からないようですけれど。使われたこと自体は気が付くみたいですわね」
だから、『希望〈キリス〉』と彼の名前を呼ばないといけない。多少魔力が多ければ、師匠の姿を思い浮かべるだけでも願いが叶うそうだ。
……そりゃあ、希望〈キリグラ〉が一定確立で発動する不思議な魔法になるわけだ。だって、そもそも名前が違うから。
――待って。じゃあ、なんでわたしはここに、千年後に、今、いるの?
わたしはイエリオが使った希望〈キリグラ〉でこっちに呼ばれたはず。でも、今の話だと、希望〈キリグラ〉は発動しないだろう。師匠の功績は千年後でも残っていて、イエリオも知っているけれど、師匠の字が汚いせいで、名前すらあやふやなのに。
「……イエリオ、イエリオがあの晩使ったのは――本当に、希望〈キリグラ〉だったの?」
「そのはずです。訳した際も、そうなっていたはずで――、ですが、その、ご存じの通り、わたしはお酒に弱いので。正しく発音できていたかと問われると……」
イエリオは酒に弱く、同時に記憶が残らないタイプだと言っていたから、イエリオの記憶はあてに出来ない。他の三人は魔法に詳しくないから、正しく唱えていたかどうかなんて――いや、正しい奇跡の魔法をつかったウィルフがいた。
でも、彼はなにも言わなかった。わたしが、ずっと奇跡の魔法を希望〈キリグラ〉と呼んでも訂正しなかったし。
「間違えていたら、ウィルフが気が付く、よね……?」
「どうでしょう。でも、正しい魔法を知っていたとしても、知識量で言えばマレーゼさんの方が上ですから、同じような名前で似た魔法がある、と思ってもおかしくないですし、そもそも彼はあのとき自分の出自を隠していましたから。わざわざ訂正しないでしょう。それに、きっと私が反応しますから」
そう言われてしまえば、反論が出来ない。――あの晩、本当に唱えられた魔法が何だったのか、分かる人間はどこにもいないのだ。
ほんの少しの魔力で、魔法陣が必要ない、他とは違う特別な魔法。師匠の口から、その魔法は希望〈キリグラ〉だと教えてもらったのに。
しかも、呪文の名前が師匠と同じだなんて。
「ピスケリオ、ウィルフが使ったのは希望〈キリグラ〉でしょ? しかも名前が師匠と同じ……」
「そりゃあ、同じ名前ですわよ。その魔法を作ったのは、あのキリスなんですもの」
作った……作った? 師匠が?
師匠が魔法を新たに産みだすこと自体に驚きはない。あの人はそのくらい、平然とやってのける。実際、わたしも、彼がクリり上げた新たな魔法でしろまるを産みだすための下準備をしたのだから。
――でも、じゃあ、どうしてわたしにわざと違う名前を教えたの?
騙してたってこと? それとも、わたしにそんな魔法を教える価値がないと思った? わたしには、魔法使いの才能がないから。
だって、作った本人が、魔法の名前を間違えるわけがない。
聞きたいことは、一杯あった。でも、混乱の方が大きくて、うまく整理できない。
師匠が、わたしに嘘をついていた、なんて信じたくない。
でも、魔法に関して、精霊は完璧だ。十全だ。それは精霊が魔法とは切っても切り離せない関係で、分類してしまえば同じ種類になるから。
だから、魔法のことでは、精霊が一番信用できる。
「――……本当は、どういう魔法なの?」
ほんの少しでも魔力があれば、どんな不可能も一定確率で叶う、奇跡の魔法。
わたしは、そう教えられた。
「キリスに願いを叶えて貰う魔法ですわ。魔力が必要なのは、キリスに届けないといけませんから。まあ、大体のことは全自動で叶う魔法ですので、キリス自身に願い事の詳細は分からないようですけれど。使われたこと自体は気が付くみたいですわね」
だから、『希望〈キリス〉』と彼の名前を呼ばないといけない。多少魔力が多ければ、師匠の姿を思い浮かべるだけでも願いが叶うそうだ。
……そりゃあ、希望〈キリグラ〉が一定確立で発動する不思議な魔法になるわけだ。だって、そもそも名前が違うから。
――待って。じゃあ、なんでわたしはここに、千年後に、今、いるの?
わたしはイエリオが使った希望〈キリグラ〉でこっちに呼ばれたはず。でも、今の話だと、希望〈キリグラ〉は発動しないだろう。師匠の功績は千年後でも残っていて、イエリオも知っているけれど、師匠の字が汚いせいで、名前すらあやふやなのに。
「……イエリオ、イエリオがあの晩使ったのは――本当に、希望〈キリグラ〉だったの?」
「そのはずです。訳した際も、そうなっていたはずで――、ですが、その、ご存じの通り、わたしはお酒に弱いので。正しく発音できていたかと問われると……」
イエリオは酒に弱く、同時に記憶が残らないタイプだと言っていたから、イエリオの記憶はあてに出来ない。他の三人は魔法に詳しくないから、正しく唱えていたかどうかなんて――いや、正しい奇跡の魔法をつかったウィルフがいた。
でも、彼はなにも言わなかった。わたしが、ずっと奇跡の魔法を希望〈キリグラ〉と呼んでも訂正しなかったし。
「間違えていたら、ウィルフが気が付く、よね……?」
「どうでしょう。でも、正しい魔法を知っていたとしても、知識量で言えばマレーゼさんの方が上ですから、同じような名前で似た魔法がある、と思ってもおかしくないですし、そもそも彼はあのとき自分の出自を隠していましたから。わざわざ訂正しないでしょう。それに、きっと私が反応しますから」
そう言われてしまえば、反論が出来ない。――あの晩、本当に唱えられた魔法が何だったのか、分かる人間はどこにもいないのだ。
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