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第六部
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わたしのこの感情は、一年、彼らと共に過ごして生まれたものだ。決して、魔法で作られたまがいものなんかじゃない。
「希望〈キリス〉を使ったのはイエリオ――彼ではありません」
わたしはちらっと、イエリオのほうを見た。……まだ、起きない。ここまで起きないとなると、魔法で眠らされているのだろう。起こすとなると、師匠を説得しきらないといけない。
わたしの言葉を信じられない、と言わんばかりに師匠はわたしの肩を握る力を強めた。痛い。でも、ここで逃げてなんかいられない。
「――調べはついてる。そこの男がぼくの奇跡の魔法の文献を持ち出したと、オカルから聞いている」
――ここでオカルさんの名前が出てくるか。何か、協力体勢があったのは間違いないのだろう。わたしが彼の前で魔法を使い、あっさり信じたのはイエリオと同じ研究者だからだと思っていたけれど、もしかしたら師匠の存在を知っていたからかもしれない。
イエリオのことだ。師匠の魔法の文献を見つけて、浮かれて、周りにあれこれ話したのだろう。簡単に想像がつく。
「師匠、貴方は今、この時代では、伝説の魔法使い『キリ』と呼ばれているそうです。……師匠の字が汚すぎて、皆、読めないんです」
少しだけ、肩にかかる力が緩んだ気がした。
「そんな貴方の文献が――正しく残っていると思いますか」
汚い字。それに加えて、わたしに翻訳を頼んだとき、段ボールでいくつも資料をイエリオが持ってきていた。シーバイズ語の研究がそこまで進んでいない証拠である。
「そもそも、師匠、貴方、いくつかの魔法を、わざと誤解させるような残し方をしているでしょう。希望〈キリス〉も、その一つだったんじゃないですか」
師匠の顔がこわばった。図星なのだろう。
千年前、世界を滅ぼした呪いの魔法をわざと読みにくいように書いたのも。わたしに希望〈キリス〉を希望〈キリグラ〉と間違えて教えたのも。
今なら分かる。
使われたくない魔法を、意図的に隠そうとしていたのだ。
魔法陣の研究書を残さなければ、と思わないでもないが、全て消し去ってしまったら、何かあったときに対処ができなくなる。だから、新しく魔法を作ったら魔法陣の研究書は残さないといけない。魔法使いの、暗黙でありながら、絶対のルール。
それに少しでもあらがうために、師匠はわざと、他人が読めないレベルにまで、字を崩したのだろう。……元から悪筆でもあったけど。
後ろ暗くて汚い魔法。師匠の言うそれがどこまでを含むのか分からないが、すくなくとも、純粋に魔法を楽しむわたしに正しく教えなかったのだら、希望〈キリス〉も残したくない魔法の一つだったに違いない。
「で、でも、この時代に希望〈キリス〉が使われたのは間違いないんだ! この男が使っていないなら、誰が――」
「――ピスケリオを覚えていますか」
お嬢様口調で、魚の見た目をした精霊。師匠が、唯一、怒って自ら追い出した存在。
「ピスケリオが、希望〈キリス〉を正しく伝え、それを使った者がいます」
「――っ!」
師匠が、わたしの肩を放す。
そして、よろよろと、後ずさった。
「希望〈キリス〉を使ったのはイエリオ――彼ではありません」
わたしはちらっと、イエリオのほうを見た。……まだ、起きない。ここまで起きないとなると、魔法で眠らされているのだろう。起こすとなると、師匠を説得しきらないといけない。
わたしの言葉を信じられない、と言わんばかりに師匠はわたしの肩を握る力を強めた。痛い。でも、ここで逃げてなんかいられない。
「――調べはついてる。そこの男がぼくの奇跡の魔法の文献を持ち出したと、オカルから聞いている」
――ここでオカルさんの名前が出てくるか。何か、協力体勢があったのは間違いないのだろう。わたしが彼の前で魔法を使い、あっさり信じたのはイエリオと同じ研究者だからだと思っていたけれど、もしかしたら師匠の存在を知っていたからかもしれない。
イエリオのことだ。師匠の魔法の文献を見つけて、浮かれて、周りにあれこれ話したのだろう。簡単に想像がつく。
「師匠、貴方は今、この時代では、伝説の魔法使い『キリ』と呼ばれているそうです。……師匠の字が汚すぎて、皆、読めないんです」
少しだけ、肩にかかる力が緩んだ気がした。
「そんな貴方の文献が――正しく残っていると思いますか」
汚い字。それに加えて、わたしに翻訳を頼んだとき、段ボールでいくつも資料をイエリオが持ってきていた。シーバイズ語の研究がそこまで進んでいない証拠である。
「そもそも、師匠、貴方、いくつかの魔法を、わざと誤解させるような残し方をしているでしょう。希望〈キリス〉も、その一つだったんじゃないですか」
師匠の顔がこわばった。図星なのだろう。
千年前、世界を滅ぼした呪いの魔法をわざと読みにくいように書いたのも。わたしに希望〈キリス〉を希望〈キリグラ〉と間違えて教えたのも。
今なら分かる。
使われたくない魔法を、意図的に隠そうとしていたのだ。
魔法陣の研究書を残さなければ、と思わないでもないが、全て消し去ってしまったら、何かあったときに対処ができなくなる。だから、新しく魔法を作ったら魔法陣の研究書は残さないといけない。魔法使いの、暗黙でありながら、絶対のルール。
それに少しでもあらがうために、師匠はわざと、他人が読めないレベルにまで、字を崩したのだろう。……元から悪筆でもあったけど。
後ろ暗くて汚い魔法。師匠の言うそれがどこまでを含むのか分からないが、すくなくとも、純粋に魔法を楽しむわたしに正しく教えなかったのだら、希望〈キリス〉も残したくない魔法の一つだったに違いない。
「で、でも、この時代に希望〈キリス〉が使われたのは間違いないんだ! この男が使っていないなら、誰が――」
「――ピスケリオを覚えていますか」
お嬢様口調で、魚の見た目をした精霊。師匠が、唯一、怒って自ら追い出した存在。
「ピスケリオが、希望〈キリス〉を正しく伝え、それを使った者がいます」
「――っ!」
師匠が、わたしの肩を放す。
そして、よろよろと、後ずさった。
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