言葉の通じない世界に転生した侯爵令嬢は、気が付いたら婚約破棄されて獣人騎士の新しい夫に愛されてました

ゴルゴンゾーラ三国

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 誰かを助けたことは、彼女が初めてではない。元より、騎士という仕事は主君たる王に忠誠を誓い、国のための武力になるものだ。その職務を全うするだけで、国民を助けることにもつながる。いささか間接的ではあるが。

 しかし、コマネに言わせれば、僕はまるで悪役のようらしい。
 主君や国民を守るためには、時に敵を切り殺さねばならないときもある。その時にためらっていては、味方に被害を増やすだけではなく、相手も苦しめるだけ。結果として絶対に殺さねばならないというのなら、一思いに意識を奪ってしまう方がいいと思うのだが、その発想がすでに悪役だと言われた。……まあ、僕としても、歌劇に出てくるような、英雄とは違うと、少しは思うが。

 だから、何をしても、ヒーローだと言われたことはない。ましてや、こんなに、必死に弁明する者に出会ったことはない。
 誰に何を言われようとも、主君のために剣をふるう。ただ、それだけだった。
 だから、悪役と言われようと、怖い人だと避けられようと、気にしたことはなかった。結果を出せば、主君は認め、褒美を与えてくださる。なら、何も問題はない。
 だが――。

「あ、あの……本当なんですよ?」

 アルシャ嬢がこちらをうかがいながら、そう言う。そんな彼女の顔は少しばかり赤い。きっと、必死に弁明していたから、気が高ぶったのだろう。

「いや……君の言葉をまだ、疑っているわけでは……」

 そう言って、僕は少し、口ごもる。

「……。……、君が、本当に僕のことをヒーローだと思っているとしたら、その……疑うようなことを言って、悪かったな、と」

 嘘だ。違う。本当は、そう言ってもらえて嬉しいと、言うつもりだった。
 昔から物怖じしない性格で、思ったことはすぐ口にできる性質だったのに、何故だか、今、感じたことをそのまま口にすることをはばかられた。

「いえ、分かってもらえたなら、それで……」

 赤い顔のまま、はにかむアルシャ嬢。その笑顔は、心の底から安堵しているように見えた。

 ……僕が考えたことと、言ったことは同じではない。彼女に嘘をついてしまった。
 僕の発言で、こんなにも安心している彼女に、なんて不誠実なことを。ましてや、彼女は今まで言語への理解が低かったが故に、東語を話せる者への信頼度が無情店で高まっている。

 謝ろう、と思ったが、馬車が止まる。御者に『到着いたしました』と声をかけられ、完全にタイミングを失った。彼女の方も、僕ではなく外へと意識が向いている。
 失敗したな、と思うと同時に、ほんの少しだけ、よかった、と思う僕がいて。
 ……いや、駄目だな。今後は気を付けるとしよう。
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