言葉の通じない世界に転生した侯爵令嬢は、気が付いたら婚約破棄されて獣人騎士の新しい夫に愛されてました

ゴルゴンゾーラ三国

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 騎士団員の人たちは皆優しくて、わたしが言葉に詰まってもちゃんと話を待ってくれる。なんとなく、子供が頑張って話すのを待っている大人、という雰囲気になっているのを感じなくもないけど……。でも、ある意味それも正解と言うか……。わたし自身は、この世界でも成人しているけれど、東語以外の会話能力は子供とそこまで変わらないもんな……。

 なお、わたしが侯爵家の出身だということは皆には言っていない。貴族の人間だと知られてもいいことなさそうだし。普通に話をしてくれなくなってしまいそうな上に、難しい言い回しをされそうなのだ。対等に、分かりやすく話してくれるほうがよっぽどいい。
 だから、多分、皆はわたしのことをカゼミさんの生徒の平民、程度に思っているはず。

『アルシャちゃんは好きなことってある? 好きな食べ物とか』

『好きなもの……』

 一問一答、ではないけれど、明らかに教科書でよく出てくるような話題を選んで話してくれている。
 それは分かるんだけど、わたし、好きなものってあんまりないんだよなあ……。というか、好き嫌いをするだけの余裕がないというか。
 とにかく言葉が伝わらないから、与えられたものをそのまま享受することしかできなかったのだ。
 でも、それはラトソールにいるときの話で。

『……共用語の、勉強?』

 好きなものを聞かれて、勉強だと言うのは果たして正しいのか分からないけれど……。でも、カゼミさんは、できたらできた以上に褒めてくれるし、話が分かるようになっていくのは安心感がある。

『勉強! 真面目だなあ。俺なんて、座学は本当に苦手で……。商人の家に生まれたけど、数字を見てるだけで頭が痛くなってくるから、ここに来たみたいなところがあるし』

 真面目、ってわけでもないと思う。これでも、ラトソールにいた頃は勉強嫌いだったし。だから、そうやってもてはやされるのは、ちょっと、なんだか罪悪感がある。
 色々と話ができるようになるのは楽しい。
 元々会話好きな性格だった、というわけではないけれど、話が分からない、言葉が伝わらないもどかしさがどんどん解消されていくのは気持ちがいい。

 しばらく騎士団員さんたち数人と話をしていたとき。

『おい、そろそろ休憩時間が終わる――』

 わたしたちに声をかけてきた、とある団員。綺麗な赤毛が特徴の男性。
 先ほどから会話しているわたしたちには加わっていない人だったけれど――この人、どこかで見覚えがあるような……?
 どこだっただろう、と首をかしげながら、意識を過去に飛ばす。もしかしたら、ヒスイ先生が門番をしていたあの場に、この人もいたのかも……?

 そう思ったが、全然違った。

『貴女……ソルテラ家の?』

 この場では教えていない、家名で呼ばれる。
 わたしが貴族であることを知っているということは、この人、もしかして……この人も貴族で、ラトソールの夜会で会ったことがあるのかもしれない。
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みんなの感想(1件)

淡雪
2023.10.18 淡雪

おもしろくて一気読みでした。続きがお楽しみです。

解除

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