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 朝食の場に行くと、何故かイタリさんだけでなく、コマネさんもいた。ぎゅん、と胃が痛くなる。イタリさんが何も言わないのは昨日の夕飯で証明されているけど、コマネさんもそうとは限らない。優しそうな人だから、あの苛烈な家庭教師のような怒り方はしないだろうけど……。

 わたしがちらちらとコマネさんのほうを気にしているのにすぐ気が付いたようで、イタリさんが

「上官命令で文句は言わせないから席につけ」と言ってくれた。

「文句?」

 不思議そうにしているコマネさんに、マナーが分からないことを説明する。出身国でのマナーですら自信がないのに、昨日の今日でこの国のマナーが分かるわけもないので多めに見てほしいところである。

 わたしの説明を聞いたコマネさんは、からからと笑った。

「自分も最低限しか分からないんで大丈夫です。家が貧乏だったので、長男次男ならまだしも、自分みたいな四男にまでまともな家庭教師はつかなかったんですよ」

 わたしはその言葉にほっと息を吐く。
 席に着くと、わたしは疑問を投げかけた。

「あの、どうしてコマネさんがここに……?」

「業務の引継ぎです。昨日の夜、しばらく休みを取るって連絡が来たので。朝一番に、今日の予定から引き継ぐことになったので、ついでに朝食を貰っていこうかと」

 わたしの質問に、コマネさんはそう答えた。

「休み……ですか?」

 てっきり、今日も普通に仕事へ行ってしまうのだとばかり。
 わたしの言葉に、食事を取りながらイタリさんが説明してくれる。――まるで、なんでもないことのように。

「アルシャ嬢の家庭教師の選定をしないといけないし、本家に婚約の話を通しておかないと、面倒なことになるからな」

 婚約、の言葉にコマネさんが思い切りむせた。むせさせた本人であるイタリさんはしれっとした顔で食事を続けている。

「えっ、誰と誰がっすか? まさか、団長とアルシャ嬢が!?」

「そうだ」

「いや、なんで!? 一晩で何があったんすか!?」

 声が裏返っても気にせず、コマネさんがイタリさんに突っ込んでいた。その気持ち、よく分かる。
 コマネさんの反応を見て、わたしがおかしいのではなく、イタリさんが変わっている、ということを再認識した。合理的だと思っても、簡単に婚約する人なんてそうそういない。
 助けてくれたことには感謝しているし、いい人だということも分かっているが、思考回路がちょっとよく分からない。

「いや、アルシャ嬢が可哀想じゃないっすか」

 ――あれっ?

 コマネさんの批判が思わぬ方向に飛んでいく。イタリさんの顔を見れば、変わらぬ無表情だったけれど、どことなく、だから言っただろう、とでも言いたげなように見えた。
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