言葉の通じない世界に転生した侯爵令嬢は、気が付いたら婚約破棄されて獣人騎士の新しい夫に愛されてました

ゴルゴンゾーラ三国

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 ところでこれ、なんの錠剤なんだろう。子供が食べているし、イタリさんが進めてくれたわけだし、ましてや街中で堂々と配られているものだから変な薬ではないと思うんだけど……。

「この錠剤、なんの薬なんですか?」

「ただの栄養剤と予防薬だ」

 聞けば、予防薬の方は、獣人と人間、両方がいる国では街中で必ず配布される薬らしい。
 人間の病を獣人が、獣人の病を人間が、それぞれ子供が罹ってしまうと重症化しやすいらしく、それの予防として配られているそうだ。もちろん、完璧に予防出来るような代物ではないが、この薬がなかった頃と比べると、八割くらい、病の重症化で命を落とす子供が減ったそうだ。

 この国では飴細工がさかんなので、こんな形状で配られているが、普通の国では薬屋に、他の薬と同じように置かれているらしい。
 わたしのいた国で獣人を見かけることはあまりなかったから、あの国では配ってなかったんだろうな、これ。

 ちなみに栄養剤は、国の調査で子供の成長に必要不可欠でありながら、不足しがちなものが入っているのだとか。こっちはこの国独自の取り組みだそうだ。
 外側の飴自体に色がついているので分かりにくいが、栄養剤は白、予防薬は薄い黄色らしい。飴を通して見るとさっぱりだが、穴から軽く覗いてみれば、確かに二種類の錠剤がある。

「大人はたとえ病気になっても通常の治療で事足りるから必要はない。かといって、食べたところで害になるわけでもないが」

 そもそも栄養剤も予防薬も、子供の分量で計算しているらしいので、一つ食べたくらいでは大人に劇的な効果があるわけじゃないようだ。それでも、気持ち程度には効果があるようだが。
 それでもたまに、子供の頃が懐かしくなって食べる人はいるのだとか。まあ、子供のもの、というイメージが定着しているから、毎日食べるような人はいないらしいが。

 イタリさんの説明を聞きながら、わたしは飴を食べ進める。

「それにしても、この国って、飴細工がさかんだったんですね」

 隣の国に住んでいたのに、全然知らなかった。……まあ、勉強していた可能性は高いけれど。わたしが理解しきれていなかっただけで。
 その可能性のが高そうだなあ。地続きの隣国の産業を学ばないわけがない。侯爵家らしいし、わたしの実家。

「世界一の砂糖の原産国だからな。……興味があるなら見に行くか? 通り道に丁度いいものがある」

 わたしが食べ終えたのを確認して、イタリさんが歩き出す。わたしはゴミ箱へ棒を捨てて、彼の後を歩いた。
 丁度いいもの、ってんだろう……。
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