人類最後と世界終焉

ゴルゴンゾーラ三国

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 ぷち、とリーデルの手中で、一本の草が手折られる。
 細長い葉がいくつもついたその草を握りながら、リーデルはそっとため息を吐いた。
 ビャクダンと出会った翌日。リーデルとキキョウは魔法無効化のための魔法陣を描く素材を集めていた。
 キキョウの使った下級魔法を打ち消したのとは違い、世界に蔓延る上級魔法を無効化するには、同じように魔法陣を描かねばならない。加えて、上級魔法は中級魔法と違い、適当な墨で描いた魔法陣は使うことが出来ない。故に、墨に混ぜる特殊な素材があれこれ必要なのだ。
 別の魔法で生成したり、すでに採取されて保存しているものを使うこともできるのだが、やはり鮮度のいい方が墨の質も上がる。やや手間ではあるが、素材採取のため森へ、リーデル達は足を運んだのだった。
 とはいえ、魔法を編み出した本人が無効化をするのだから、どんな魔法であるかの解析が必要ない分、まだ時間がかからないだろう。

「リーデル、後ろ!」

 キキョウの言葉にバッとリーデルは振り返ると、そこにはバニジアキャットという、獣型の魔獣がいた。それなりに強い魔物ではあるが、リーデルの冒険者生活の中で、幾度となく倒したことのある魔物である。対処法は分かっている。
 腰に差していた剣を抜き、危なげなくその魔物を切り捨てる。

「……ふう」

 切り捨てるのは問題なかった。
 しかし、バニジアキャットは足音の大きい部類の魔物だ。そんな魔物の接近にも気が付かないなんて、とリーデルは自分の注意力の散漫さに情けなくなる。
 ただでさえ、何もできない、とビャクダンにバッサリと言われてしまっているのに。
 情けない――、と悔しさではなく、自身に対する呆れだけがこみあげてきた。

「ねえ、ちょっと休みなよ」
 
 キキョウの言葉に、リーデルは全く休憩をとっていないことを思い出した。一心不乱に剣を振り、素材を集める。
 自分には何もできない。エルフが相手では、分かっていた。
 それでも、自分にも何かできないかと、思っていたのだ。ここまで首を突っ込んでおきながら、今更突き放されても居心地が悪い。
 リーデルはその場に座り込んだ。休んでいない、ということに気が付いたとたん、どっと疲れが彼を襲う。
 その隣に、キキョウが座った。

「……ちょっと無神経かもしれないけど。わたしは、リーデルが無理することなくて、安心してる」

「は――」

 キキョウのまさかの言葉に、リーデルはむっとした。
 彼女から、そんな風に言われるとは全く思っていなかったのだ。

「無理、ってなんだよ。キキョウもどうせ、人間なんかがエルフの魔法にどうこうできるって思ってないんだろ」

 悩んでいたところに刺さるようなことを言われたからか、リーデルの口からは、思いがけないほど冷たい声が出た。
 これがただの他人に言われたのなら、リーデルもここまで頭にくることはなかったかもしれない。しかし、相手はキキョウだ。一緒に冒険者パーティーを結成し、何度メンバーが入れ替わっても、二人だけはずっと変わらずに死線を共に潜り抜けてきたのだ。
 相棒、と言ってしまっても過言ではない彼女にそんなことを言われたくはなかったのだ。

「別に、そんなことは思ってないよ。ただ、わたしはリーデルが心配で……」

「どうだか」

 一番言われたくない言葉を、一番言われたくない人間から言われてしまったリーデルの口から出るのは投げやりな語調の言葉だけ。
 その言葉を聞いたキキョウは、きゅ、と唇を噛みしめ――そして怒鳴りながら立ち上がった。

「――うるさい! うるさい、うるさい! どうしていつも、リーデルはそうなの!? 他人のことばっか、自分のことは顧みない! リーデルが大切なわたしの身にもなってよ!」

 涙目の彼女が声を張り上げるたび、涙が散る。
 ぐす、とはなをすすりながらも、彼女は言葉を止めない。

「なんでそんなに自分を大事にしないの!? リーデルのこと、大事に思ってるわたしのことなんか、どうでもいいんだ!?」

「そんなわけ……」

「だってそうじゃない! リーデルはいつも他人をかばってばっかり! 自分が傷つくことを恐れずに誰かを顧みるのは立派かもしれない、でも度が過ぎてる! わたしが、いくら、心配した、って……!」

 ひっく、としゃっくりをあげながら、とうとう、ぼろぼろと涙をこぼして泣き出してしまった。

「……って」

「え?」

「帰って! リーデルは帰って! これ以上、誰かのために何かしようとしないで!」

 び、と泣きながら、キキョウは森の出口の方を指さした。
 帰って、と言われても、とリーデルは困惑したが、キキョウはこちらを睨みつけ、頑として主張を譲る気配はない。
 「分かった、これ、持ち帰るな」と、先ほどまで集めていた素材を袋につめ、立ち上がることしか、リーデルにはできなかった。
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