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「つか、れた……」
リーデルは地面にべちゃりと腰を下ろした。少し離れたところに、《動く死体》の少女が緑魔法で生成したツタによって動きを封じ込められていた。一歩も動けないからか、身動きを取ろうとはしないものの、濁った瞳は、先ほどとは変わらずどこか焦点が合わないまま、リーデルを見つめていた。
結局、リーデルに彼女を倒すことはできなかった。
なんとか助けよう、とは思ったけれど、結局いい方法が見つからず。最終的に、緑魔法で彼女の動きを封じるにとどまったのだ。
「ああ、頭いてえ……」
リーデルは普段、赤魔法以外の魔法を使うことがない。それは単純に、赤魔法が最も相性のいい魔法だからだ。他の魔法が全く使えない、というわけではないが、使うには体力も気力も、普段とはけた違いに持っていかれる。
こんなことなら、他の魔法もキキョウに教わっておけばよかったな、と思いながら、リーデルは乾いた笑いをこぼした。
「お疲れですかぁ?」
背後から聞こえてきた声に、リーデルは即座に立ち上がり、臨戦態勢を取った。
「早い再会だな」
リーデルの構える剣の先には、クルクスが立っていた。昨日の着込んだ格好とは裏腹に、随分と軽装備だった。これが彼の私服なのだろうか。
にこにこと笑顔を浮かべる彼は、気軽に友人の元へ遊びに来た、という雰囲気を醸し出している。リーデルは、昨日やられたことを忘れているわけじゃない。あまりにも軽い彼の様子に、いら立ちがこみあげてくる。
「そんな怒らないでくださいよお。別に今日は貴方を始末しに来たわけじゃないですし」
「何を……」
昨日あれだけやりやった相手の言い草にしては信じられないものがあるが、確かに彼はかなりの軽装備。隠し武器は分からないが、ぱっと見では武器を所持しているようには見えない。
「言ってるでしょう? ボクは吸血鬼が死ねばいい。別に世界を滅ぼしたり、人間を殺したりしたいわけじゃないんです。吸血鬼が死ぬ手段をあくまで取っているだけ。餌がなくなれば、いくら吸血鬼でもそのうち死にますから」
だから人間を滅ぼした。そういうことなのだろう。何度聞いてもわけのリーデルには分からない理論だった。
何より――。
「お前も、吸血鬼じゃないのか。エルフを上回る魔法を使い、異常なまでの回復力を持つ。あんな化け物じみた亜人、俺は吸血鬼しか知らな――」
リーデルの言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
蹴り飛ばされたリーデルが、《動く死体》を拘束したツタの元まで吹き飛ぶ。
「吸血鬼? 誰が? ボクが? はあ? ふざっけんな!!!!! んなわけあるか!!」
クルクスは腹立たしい、と言わんばかりに地団駄を踏む。あれほどにやにやと笑みを絶やさなかった彼が、分かりやすく怒る。吸血鬼と言われて馬鹿にされたと感じたから怒っている、というより、まさに図星をあてられて怒り狂う、という様子がふさわしい。
「ボクは吸血鬼じゃない! あんな奴と一緒にするな! 違う、違う、違う! ボクは人間だ、吸血鬼なんかじゃない!」
表情を怒気一色に染め、声を荒げながら、クルクスは再びリーデルへ蹴りを入れようとする。
しかし、二発目はリーデルの剣によって防がれた。ギィン、と鈍い音が響く。
「人間は、俺だけらしいぜ。お前も、人間は滅ぼしたと思って、俺を殺しに来たんだろう」
「――ッ!」
ぎりり、と悔し気に歯を食いしばる音が、クルクスから聞こえた。怒りに支配されたクルクスの隙をついて、リーデルは彼を蹴飛ばし距離をとる。対してダメージを負った風に見えない彼は、ゆらりと体を揺らし、そして、リーデルを睨みつけた。
「ボクは、ボクは人間なんだ! 誰が、何と言おうと! なんで分からないんだよ!」
けたけたと狂ったような、クルクスの笑い声が辺りに響いた。
「畜生、畜生、失敗したなあ! 様子見だけじゃなくて、殺しの道具、持ってくれば良かった! ――まあ、でも」
が、とクルクスがリーデルの頭をわしづかみにした。
クルクスの方が小柄で、リーデルよりも力がなさそうなのに、その握力に、リーデルが抵抗することはできない。
じたばたと何とか逃れようとして――彼の手のひらに刻まれた傷跡が、魔法陣になっていることに気が付いた。
「リルドトニスの民よ、我が神よ。青の者が希う、希う」
怒りと笑いが入り交じる、狂気じみた声で、詠唱が紡がれる。リルドトニス。リーデルには聞き覚えのない、精霊の名前だ。
しかし、この状況で、さらには神に願っている上級魔法では、絶対に逃げるべき魔法だ。
何とか身をよじり、クルクスから距離を取ろうとするが、リーデルの頭は、クルクスの手から逃れられない。
「かの者に、永久の幻を。果てに、終わりなしに。その神経に、その心に刻め」
青く光る精霊が、クルクスの手中にある魔法陣へと集まっていく。
「永遠に眠れ――《幻想回廊」
カッと青い光が強く瞬き――リーデルの意識は失われた。
リーデルは地面にべちゃりと腰を下ろした。少し離れたところに、《動く死体》の少女が緑魔法で生成したツタによって動きを封じ込められていた。一歩も動けないからか、身動きを取ろうとはしないものの、濁った瞳は、先ほどとは変わらずどこか焦点が合わないまま、リーデルを見つめていた。
結局、リーデルに彼女を倒すことはできなかった。
なんとか助けよう、とは思ったけれど、結局いい方法が見つからず。最終的に、緑魔法で彼女の動きを封じるにとどまったのだ。
「ああ、頭いてえ……」
リーデルは普段、赤魔法以外の魔法を使うことがない。それは単純に、赤魔法が最も相性のいい魔法だからだ。他の魔法が全く使えない、というわけではないが、使うには体力も気力も、普段とはけた違いに持っていかれる。
こんなことなら、他の魔法もキキョウに教わっておけばよかったな、と思いながら、リーデルは乾いた笑いをこぼした。
「お疲れですかぁ?」
背後から聞こえてきた声に、リーデルは即座に立ち上がり、臨戦態勢を取った。
「早い再会だな」
リーデルの構える剣の先には、クルクスが立っていた。昨日の着込んだ格好とは裏腹に、随分と軽装備だった。これが彼の私服なのだろうか。
にこにこと笑顔を浮かべる彼は、気軽に友人の元へ遊びに来た、という雰囲気を醸し出している。リーデルは、昨日やられたことを忘れているわけじゃない。あまりにも軽い彼の様子に、いら立ちがこみあげてくる。
「そんな怒らないでくださいよお。別に今日は貴方を始末しに来たわけじゃないですし」
「何を……」
昨日あれだけやりやった相手の言い草にしては信じられないものがあるが、確かに彼はかなりの軽装備。隠し武器は分からないが、ぱっと見では武器を所持しているようには見えない。
「言ってるでしょう? ボクは吸血鬼が死ねばいい。別に世界を滅ぼしたり、人間を殺したりしたいわけじゃないんです。吸血鬼が死ぬ手段をあくまで取っているだけ。餌がなくなれば、いくら吸血鬼でもそのうち死にますから」
だから人間を滅ぼした。そういうことなのだろう。何度聞いてもわけのリーデルには分からない理論だった。
何より――。
「お前も、吸血鬼じゃないのか。エルフを上回る魔法を使い、異常なまでの回復力を持つ。あんな化け物じみた亜人、俺は吸血鬼しか知らな――」
リーデルの言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
蹴り飛ばされたリーデルが、《動く死体》を拘束したツタの元まで吹き飛ぶ。
「吸血鬼? 誰が? ボクが? はあ? ふざっけんな!!!!! んなわけあるか!!」
クルクスは腹立たしい、と言わんばかりに地団駄を踏む。あれほどにやにやと笑みを絶やさなかった彼が、分かりやすく怒る。吸血鬼と言われて馬鹿にされたと感じたから怒っている、というより、まさに図星をあてられて怒り狂う、という様子がふさわしい。
「ボクは吸血鬼じゃない! あんな奴と一緒にするな! 違う、違う、違う! ボクは人間だ、吸血鬼なんかじゃない!」
表情を怒気一色に染め、声を荒げながら、クルクスは再びリーデルへ蹴りを入れようとする。
しかし、二発目はリーデルの剣によって防がれた。ギィン、と鈍い音が響く。
「人間は、俺だけらしいぜ。お前も、人間は滅ぼしたと思って、俺を殺しに来たんだろう」
「――ッ!」
ぎりり、と悔し気に歯を食いしばる音が、クルクスから聞こえた。怒りに支配されたクルクスの隙をついて、リーデルは彼を蹴飛ばし距離をとる。対してダメージを負った風に見えない彼は、ゆらりと体を揺らし、そして、リーデルを睨みつけた。
「ボクは、ボクは人間なんだ! 誰が、何と言おうと! なんで分からないんだよ!」
けたけたと狂ったような、クルクスの笑い声が辺りに響いた。
「畜生、畜生、失敗したなあ! 様子見だけじゃなくて、殺しの道具、持ってくれば良かった! ――まあ、でも」
が、とクルクスがリーデルの頭をわしづかみにした。
クルクスの方が小柄で、リーデルよりも力がなさそうなのに、その握力に、リーデルが抵抗することはできない。
じたばたと何とか逃れようとして――彼の手のひらに刻まれた傷跡が、魔法陣になっていることに気が付いた。
「リルドトニスの民よ、我が神よ。青の者が希う、希う」
怒りと笑いが入り交じる、狂気じみた声で、詠唱が紡がれる。リルドトニス。リーデルには聞き覚えのない、精霊の名前だ。
しかし、この状況で、さらには神に願っている上級魔法では、絶対に逃げるべき魔法だ。
何とか身をよじり、クルクスから距離を取ろうとするが、リーデルの頭は、クルクスの手から逃れられない。
「かの者に、永久の幻を。果てに、終わりなしに。その神経に、その心に刻め」
青く光る精霊が、クルクスの手中にある魔法陣へと集まっていく。
「永遠に眠れ――《幻想回廊」
カッと青い光が強く瞬き――リーデルの意識は失われた。
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