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第一部

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 ラグリスとの顔合わせを済ませると、次はわたしの部屋に案内してもらうことになった。宿か家はどこにあるのか、というヴォジアさんの問いに、こっちに来たばかりで何も決まっていない、と言うと宿の一室を貸してくれることになったのである。ありがたい限り。
 わたしはラグリスとの別れを済ませ、店の方へと戻るヴォジアさんの後をついていく。

「あの、ところで、あのラグリスに名前ってあるんですか?」

 飼育されているのなら名前くらいあるだろう、と思って聞いてみたのだが、一瞬、顔をしかめられてしまった。魔物に対して名前をつける習慣がない、というわけでもないだろうに。それだったらショドーとひいさまのときにもっと何かしら反応を見せるだろう。……ショドーとひいさまは、ヴォジアさんからしたらペットにするなんて考えられないような存在みたいだから、連れまわしていることに驚いて、名前がついているということまで気が回らなかった、というのもあるかもしれないけど。

「……アルベア」

「なんだ、名前あるんじゃないですか」

 随分と言いにくそうに言う割には普通の名前だった。

「兄貴と同じ名前なんだよ」

 何とも言えない表情でヴォジアさんが言う。ああ、成程……。確かにそれは呼びにくいかも。わたしだって、家族と同じ名前がついていたら、いくらお猫様の名前とはいえ、流石に呼びにくい。

「――さて、着いたぞ。ここがしばらくはお前の家だ」

 そう言って案内されたのは、二階部分の一番手前の階段からもっとも近い場所だった。階段が近いから、出入りは楽そうだけど、逆に人通りが多くなれば結構うるさそうだ。

 部屋の鍵を渡され、中に入る。ベッドに小さめのテーブルのある、こじんまりとした部屋だ。
 侯爵令嬢の頃の自室のクローゼットくらいの広さしかないが、まあ、貴族の私室と比べてもどうしようもないだろう。比較対象が頂点に近すぎる。
 地味で少し古びてはいるものの、しっかり掃除がされているようで汚さは感じられない。

「風呂と洗濯は廊下の突き当りな。あいつ関係でなにかあったらすぐ呼ぶから、基本はこの店にいてほしい。どこか外にでかけるなら僕かノルンに声をかけてからにしてくれ」

 ヴォジアさんの言葉にわたしはうなずく。世話係、というのだから、何かあったときに駆けつけられる場所にいるのがベストなのは確かだ。

「しばらく、とは言いましたけど、どのくらいですか?」

「二か月か三か月くらいか? 僕やノルンじゃ持て余すんだよ」

 うう、折角のお猫様の世話なのに、たったそれだけなのか。……継続的に雇ってもらえないなら、その間に次の仕事も探さなきゃだな。
 ともあれ、野宿は回避できたし、定職へ就くための猶予も少しできたし、荷物を全部なくしてからの絶望感からは考えられないほど、いい方向に物事が進んでいる。

 ショドーとひいさまを養うために、明日から頑張るぞ!
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