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第一部

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「行きたければ探しに行ってくれば?」

 なんてことないかのように、イベリスさんがそんなことを言う。

「行きたくても行けないですよ」

 わたしはイベリスさんの方を見て言う。彼は、依頼書を見終わったのか、一つにまとめていた。そして、目的のものがなかったようで、一枚残らずまとめられている。

「どうやって探しに行くんですか。わたし、戦えませんよ」

 わたしの戦闘力なんてたかが知れている。背後に忍び寄るスリに気が付かず、あっという間に手荷物を盗まれたくらいなのだ。あれが盗人だったからまだ鞄を奪われただけで済んだけれど、命を奪ってくる相手だったら、何がなんだか分からないまま死んでしまうことだろう。

 ヴォジアさんの反応からして、ショドーは結構狂暴な魔物みたいだけれど、子供のうちはそこまで力があるわけではないし、何よりわたしがべたべたに甘やかして育ててきた子だ。その辺の鼠一匹くらいならともかく、魔物と戦うなんて無理だと思うし、させられない。ショドーが戦える猫だと分かれば話はまた別だけれど、本当に戦えるかどうかの確認もできないうちに戦場に行かせられるわけがない。

 だから行けない、とイベリスさんに言ったつもりだったのだが――。

「アルベア連れていけば?」

 ――なんて、あっさり言われてしまうのだから反論できなくなってしまった。

「アルベア自身、ザムとどの辺りではぐれたか分かっているだろうし、アルベア自体がそれなりに強い。逃げ帰ってきたアルベアもそこまで重傷じゃなかったし、リベンジくらい、やれるでしょ」

「で、でも、アルベアちゃんはザムさんのところの子です。確かに、今はわたしが世話をしてますけど、世話させてくれるだけ、というか……」

 共闘するのはどうかと思う。討伐依頼をこなすことを仕事としているザムさんと一緒だったときにやられているのなら、素人のわたしでは上手くいかないように思うのだが……。

「……君、本当に何もスキルについて知らないんだ」

 驚いたように言うイベリスさん。妙にイラッとくるような口ぶりだが、彼の表情を見るに、わざと煽るようなつもりで言っているわけではないのが分かる。悪気のない、無意識な煽りの方が腹立つのだが。

「そもそも、他とテイム契約している魔物が、契約主がいない状況で他者に世話を許している時点で結構異常だよ。普通は警戒して近寄らせない」

 ……そう言えば、ヴォジアさんが部屋の掃除は二人がかりで命がけ、とか言っていたっけ。わたしの前では大人しいものだから、大げさじゃん、とか思っていたのだが、もしかしなくても本当のことなのだろうか。
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