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第一部

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 ザムさんは、わたしが言わなくとも、見られただけで意図を察したようだ。しかし、彼は首を縦に振ることはなく、残念そうに否定した。

「アルベアは……あいつが子供のときにテイム契約したんだ。大人のラグリス相手だったら、無理だと思う」

 そう言うザムさんのテイマースキルランクはBらしい。ギリギリ足りない。

「それにしても……高ランクのどうしてテイマースキルを持っていたらなんとかなるんです?」

 門番が高ランクの魔物、ということなんだろうか。ケルベロス的な? この世界にケルベロスがいるのかは知らないけど。いや、ケルベロスって、入口の門番なんだっけ?
 どんな魔物がいるんだろう、と想像していたわたしにアラインさんが「エルナモンテスっていう魔物の友人に鍵を預けてるんす」と教えてくれた。

「テイマースキルの『索敵』を使えば、自分の近くにいる、テイムできる魔物を検知できるんすよ。エルナモンテスはAランクか加護クラスのテイマーがテイム契約できる魔物なんす。法律的にはテイム契約するには許可が必要っていう特別な奴なんで、テイム契約自体はある意味難しいんすけど」

 その魔物は、いつも同じ場所にいるわけではなく、ダンジョンの上層を好きに闊歩しているらしい。

「テイム契約してないのに、鍵あずけてるんですか?」

 わたしじゃないけど大丈夫なのか、それ。ショドーとひいさまがわたしとテイム契約をしていないと知ったとき、慌てふためいたヴォジアさんの姿が思い出される。
 高ランクの魔物とはいえ、友人、と言っているし凶暴な魔物じゃないのかも。それこそ、エーリングさんのリリファちゃんみたいに。

 わたしの質問に答えたのは、アラインさんではなく、ドアの縦枠をがっちりつかんで、こちらをのぞき込んでいるアビィさんだった。

「エルナモンテスっていうのは、獣人の先祖の一種とも言われている種族なので、普通に会話ができます。見た目が動物や魔物よりなので獣人には属せていないだけで、知能や言動は、ほぼ獣人や人間と変わりありません。無許可でテイム契約を結ぶと奴隷管理法に引っ掛かって御用となります」

 ああ、なるほど。わたしは前世で散々、漫画やアニメで見てきた、いかにも、もっふもふな二足歩行の獣たちを思い出す。
 ヴォジアさんやイベリスさんの、獣の耳としっぽがついているだけの人間、ではなく、立ち方や言動が人間なだけの獣、ということか。どのくらい人に近ければアレルギーの対象じゃないのかな、と見かけるたびに考えたものだ。これはアレルギー反応でそう、とか、このくらい人間に近ければ平気そう、とか。

 そんな風に考えていたら、アビィさんは、聞き捨てならないことを言った。

「そして、エルナモンテスは――猫の獣人の祖先と言われる、猫族の魔物です」

 な、なんだって!?
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