ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。

第二部

92

　正直、わたしに猫と猫族の魔物の区別することを期待しないでほしい。皆可愛い猫ちゃんなのだ。というか、アルベアちゃんを「可愛い猫ちゃん♡」と言って扱っている時点で察するものがないのか？　この人は。
　それでも、魔物が怖いものだという認識を持っている相手にそう言うこともできなくて、大人しく説教を聞くだけ聞く。右から左へと、全部抜けていっているけど。一言も頭に入ってこないけど。

　黙ってヴォジアさんの話を聞いていると、カラン、とドアベルがなる。誰か入ってきた。

「ルティシャちゃん、お客さんだよー」

　そう言って入ってきたのはイベリスさん――って、ちょっと待て！

「イベリスさん、その持ち方しないでください！」

　わたしは立ち上がってイベリスさんから猫を奪い取る。……猫じゃない、えっと、何とかっていう魔物……。今言われたばかりの、そう、バルツオーネ。
　最近わたしやショドーと仲良くしてくれる子。

　イベリスさんは恐ろしいことに、猫の脇の下のあたりを支えて、バルツオーネちゃんを持っていたのだ。みょーん、と猫らしく体が長くなっている。その持ち方は負担がかかるから絶対ダメだって。ていうか、バルツオーネちゃんもバルツオーネちゃんで抵抗してよ。なんで無抵抗でされるがままなの。

　わたしが奪ったことも気にせず、「駄目だった？」と首をかしげるイベリスさん。貴方も猫の姿になれるんだから、持ち方の良し悪しくらい分かるはずでしょうが。
　自分がやられたら嫌な持ち方をするな。

　……というか、この子、魔物なんじゃなかったっけ？　持ち方に気を取られてて、すぐに気が回らなかったけど、店に入れたら駄目なんじゃない？

「店に入れていいんですか？」

　わたしが聞くと、イベリスさんがきょとんとした表情を見せる。

「なんで？　別に大丈夫でしょ」

　……思ったより凶暴な魔物じゃないのかな？　まあ、街中にいて騒ぎにならないのなら、そんなに危ない魔物ではないというのはそうだと思うんだけど、ヴォジアさんがここまで怒るのだから、それなりの魔物だと思ったのだ。

　――が。

「よくない！　この馬鹿ども！　さっさと外に放ってこい！　元居た場所に戻してくるまで店にはいれないからな！」

　わたしは、ぽいっと追い出されてしまった。同じく外に放り出されたイベリスさんはけらけら笑っている。
　バタン！　と乱暴に扉が閉められる。

「……母親か何かですか？」

　わたしが思わずぼそっと言えば、イベリスさんのツボに入ったのか、それはもう、盛大に笑われたのだった。