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第一部
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――二時間後。
「ランセルテ! この本、とても面白かったわ!」
わたしは屋敷の中でランセルテを探し、感想を伝えずにはいられなかった。
本を借りた後、部屋に戻ったわたしは、さっそく本を読んだ。冒険ものはあまり読んだことないわね、なんて思いながら読み始めたのだが、『星空の旅』は、ファンタジー小説の類ではなく、旅行記だった。
普通の旅行記だったら、その土地の文化に触れるだとか、料理だとか、そういう一般受けされるものがテーマになるだろうか、この本は、旅先での夜、特に夜空をテーマにした一冊だった。『星空の旅』というだけある。
昼の方が書くことが多いんじゃないかしら、と思いながら読み進めていったのだが、十ページも読めば、そんなこと考える余裕もなく、夢中になって読んでしまった。
単純に書き方が上手なのだ。
まるで本当にその場にいるような表現力。それでいて、変にこらず、ストレートに読みやすい文章。
今夜、星空を見上げ、そして自分も旅に出てみたい。
そう思わせるような一冊だった。
わたしは貴族令嬢だから、この国を旅することはなく、気軽な旅行すら難しい立場だけれど、この作者の本を読めば、自分が旅に行けたような感覚になる。
ランセルテはなんて本を紹介してくれたのだろう。全部投げ出して、この作者の本を読みふけりたくなってしまう。
「ランセルテ、この作者の本、他にも知っているかしら。……ああ、いえ、待って、自分で探すわ」
興奮してランセルテに詰め寄ってしまったけれど、同じ作者の本があれば図書室にあるはずだから、自分で探すべきか、と思い、一歩引く。あれだけランセルテにぐいぐい行くのは駄目だと分かっていたのに。
しかし、当のランセルテはあまり気にしていたいようで、「あります。一緒に、探しますよ」と笑ってくれた。
「それにしても、作者名が『しがない旅人』だなんて。ペンネームにしても、名前らしくない名前よね」
図書室に向かう途中で、わたしはランセルテに話しかける。このくらいの雑談なら、セーフだろう。
わたしが勧められた本を読んで喜んだのがよかったようで、少しばかり、ランセルテとの距離が近くなったように感じる。さっきだって、興奮したわたしに対して、おびえた様子もなかったし。
「あっ、それは表紙用です。いちおう、奥付にちゃんとした名前があります」
「そうなの?」
図書室に着き、部屋に入る前、わたしはちらっと本の奥付を確認する。本当なら歩きながら読みたかったけれど、お母様に見つかったら怒られてしまう。そうじゃなくともはしたない。
奥付には、作者として、確かに名前が――。
「サネアさま? 入らないんですか?」
「――えっ? あっ、は、入るわよ」
名前を確認したわたしは、思わず固まってしまったが、ランセルテに怪しまれ、慌てて図書室へと入る。
『しがない旅人』の本名――サマリ。
同名の別人なければ、それはきっと、アルテフと同じく平民の攻略対象である、彼のものだ。
「ランセルテ! この本、とても面白かったわ!」
わたしは屋敷の中でランセルテを探し、感想を伝えずにはいられなかった。
本を借りた後、部屋に戻ったわたしは、さっそく本を読んだ。冒険ものはあまり読んだことないわね、なんて思いながら読み始めたのだが、『星空の旅』は、ファンタジー小説の類ではなく、旅行記だった。
普通の旅行記だったら、その土地の文化に触れるだとか、料理だとか、そういう一般受けされるものがテーマになるだろうか、この本は、旅先での夜、特に夜空をテーマにした一冊だった。『星空の旅』というだけある。
昼の方が書くことが多いんじゃないかしら、と思いながら読み進めていったのだが、十ページも読めば、そんなこと考える余裕もなく、夢中になって読んでしまった。
単純に書き方が上手なのだ。
まるで本当にその場にいるような表現力。それでいて、変にこらず、ストレートに読みやすい文章。
今夜、星空を見上げ、そして自分も旅に出てみたい。
そう思わせるような一冊だった。
わたしは貴族令嬢だから、この国を旅することはなく、気軽な旅行すら難しい立場だけれど、この作者の本を読めば、自分が旅に行けたような感覚になる。
ランセルテはなんて本を紹介してくれたのだろう。全部投げ出して、この作者の本を読みふけりたくなってしまう。
「ランセルテ、この作者の本、他にも知っているかしら。……ああ、いえ、待って、自分で探すわ」
興奮してランセルテに詰め寄ってしまったけれど、同じ作者の本があれば図書室にあるはずだから、自分で探すべきか、と思い、一歩引く。あれだけランセルテにぐいぐい行くのは駄目だと分かっていたのに。
しかし、当のランセルテはあまり気にしていたいようで、「あります。一緒に、探しますよ」と笑ってくれた。
「それにしても、作者名が『しがない旅人』だなんて。ペンネームにしても、名前らしくない名前よね」
図書室に向かう途中で、わたしはランセルテに話しかける。このくらいの雑談なら、セーフだろう。
わたしが勧められた本を読んで喜んだのがよかったようで、少しばかり、ランセルテとの距離が近くなったように感じる。さっきだって、興奮したわたしに対して、おびえた様子もなかったし。
「あっ、それは表紙用です。いちおう、奥付にちゃんとした名前があります」
「そうなの?」
図書室に着き、部屋に入る前、わたしはちらっと本の奥付を確認する。本当なら歩きながら読みたかったけれど、お母様に見つかったら怒られてしまう。そうじゃなくともはしたない。
奥付には、作者として、確かに名前が――。
「サネアさま? 入らないんですか?」
「――えっ? あっ、は、入るわよ」
名前を確認したわたしは、思わず固まってしまったが、ランセルテに怪しまれ、慌てて図書室へと入る。
『しがない旅人』の本名――サマリ。
同名の別人なければ、それはきっと、アルテフと同じく平民の攻略対象である、彼のものだ。
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