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しかし、オクトール様はそういうことを気にしないのか、特に反応を見せず「何の肉が一番いいんだ?」と聞いてきたので、こっちがびっくりして固まってしまった。
「え、あ……ぎゅ、牛肉」
「そうか。なら食事を共にするときは牛肉のステーキを出すように料理人に言っておく」
そんなことを言いながら、オクトール様は紙束に何かを書き込んでいく。
「……女なのに、って言わないんですの?」
思わず聞けば、「ステーキが女らしくない、とは?」と質問で返された。
「食べる量に男女の差があるのは分かるが、料理自体に性差はないだろう。……まさか兄上はそんなことを気にするのか?」
くだらない、とでも言いたげな口ぶりだ。彼にとっては、本当に気にならないことなんだろう。
「鼻で笑われましたわ」
わたしが素直に答えると、オクトール様は、眼鏡のふちを、また撫でる。……癖なんだろうか。
「そんなことを気にする兄上があんなにもモテる理由が分からない……。対人関係難しすぎる……」
わたしに言うつもりのない独り言だったんだろう。ぼそぼそと、小さい声だったが、わたしの耳には届いてしまった。
「後学のために聞いておきたいんだが、女らしい食べ物とは何だ?」
「え? ええと……甘い物とかでしょうか。ちなみにアインアルド王子は、焼き菓子を食べるエルレナ様が可愛いとおっしゃっていました」
エルレナはメインヒロインであり、アインアルド王子の第一夫人の名前である。
アインアルド王子曰く、焼き菓子を小さな口で食べるのは可愛くて、ステーキ肉に目を輝かせるのは可愛くないそうだ。
「…………そうか」
オクトール様の返事に、妙な間があった。
……。
「もしかして、オクトール様、甘いものが好きでいらっしゃる?」
オクトール様の目線はすごく泳いでいる。図星だったようだ。
「……料理自体に性差はないんじゃなくて?」
わたしが聞くと、片側の顔を隠すような手の角度で、オクトール様は眼鏡のふちを撫でる。……成程、鎧があってもなおキャパが超えそうになったときに眼鏡のふちを撫でるのか。意識が眼鏡にいって、気持ちの切り替えができるようになるのかもしれない。わたしもわざとヒール音を鳴らすときがあるから、気持ちがちょっと分かる。
食べ物に女らしさも男らしさも気にしていないのに、いざ自分の好物が女っぽいと言われると、こんなにも動揺するなんて……可愛いところ、あるな。
「オクトール様の好きな食べ物、知りたいですわ」
俄然、この男に興味がわいてきた。
オクトール様がわたしのことを知るために、と呼び出されたはずなのに、気が付けば、用意された質問を双方が答えるという少し不思議なお茶会になっていったのだった。
「え、あ……ぎゅ、牛肉」
「そうか。なら食事を共にするときは牛肉のステーキを出すように料理人に言っておく」
そんなことを言いながら、オクトール様は紙束に何かを書き込んでいく。
「……女なのに、って言わないんですの?」
思わず聞けば、「ステーキが女らしくない、とは?」と質問で返された。
「食べる量に男女の差があるのは分かるが、料理自体に性差はないだろう。……まさか兄上はそんなことを気にするのか?」
くだらない、とでも言いたげな口ぶりだ。彼にとっては、本当に気にならないことなんだろう。
「鼻で笑われましたわ」
わたしが素直に答えると、オクトール様は、眼鏡のふちを、また撫でる。……癖なんだろうか。
「そんなことを気にする兄上があんなにもモテる理由が分からない……。対人関係難しすぎる……」
わたしに言うつもりのない独り言だったんだろう。ぼそぼそと、小さい声だったが、わたしの耳には届いてしまった。
「後学のために聞いておきたいんだが、女らしい食べ物とは何だ?」
「え? ええと……甘い物とかでしょうか。ちなみにアインアルド王子は、焼き菓子を食べるエルレナ様が可愛いとおっしゃっていました」
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「…………そうか」
オクトール様の返事に、妙な間があった。
……。
「もしかして、オクトール様、甘いものが好きでいらっしゃる?」
オクトール様の目線はすごく泳いでいる。図星だったようだ。
「……料理自体に性差はないんじゃなくて?」
わたしが聞くと、片側の顔を隠すような手の角度で、オクトール様は眼鏡のふちを撫でる。……成程、鎧があってもなおキャパが超えそうになったときに眼鏡のふちを撫でるのか。意識が眼鏡にいって、気持ちの切り替えができるようになるのかもしれない。わたしもわざとヒール音を鳴らすときがあるから、気持ちがちょっと分かる。
食べ物に女らしさも男らしさも気にしていないのに、いざ自分の好物が女っぽいと言われると、こんなにも動揺するなんて……可愛いところ、あるな。
「オクトール様の好きな食べ物、知りたいですわ」
俄然、この男に興味がわいてきた。
オクトール様がわたしのことを知るために、と呼び出されたはずなのに、気が付けば、用意された質問を双方が答えるという少し不思議なお茶会になっていったのだった。
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