ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

ゴルゴンゾーラ三国

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 舞踏会の最初のダンスを踊るのは、何度か経験がある。でも、周りが注目する中、ホールの中央に向かって歩き、踊るというのは何度体験しても慣れそうにない。

「どうして引き受けたんですの」

 わたしは、踊る前にぼそっと声をかける。踊りながらこっそり会話を楽しむ、なんて高等技術はわたしもオクトール様もできないので、始まる前に聞いておく。
 責める意味合いはない。ただ単に、疑問だったのだ。
 オクトール様が、軽く頭を下げて、わたしに耳打ちをしてくる。

「君が引き受けた方がいいと思っていそうな表情をしていたから」

「……そんなに分かりやすい表情、していたかしら」

 迷う素振りは見せたかもしれないが、引き受けたほうがいいとアイコンタクトが伝わった実感はなかった。前世の記憶を思い出した直後や、気が抜けているときなら話は別だが、こうして取り繕うと意識しているときに表情が崩れないようになったと思っていたのに。
 しかし、オクトール様は、「いいや」と否定の言葉を発した。

「僕が勝手に気が付いただけだ」

 そう言って、オクトール様は少し離れ、わたしに手を差し出した。少しくらいならまだしも、長く雑談をするのが褒められないのは分かっている。
 まあ、貴族で、ダンス、ともなれば密着イベントであり、それに伴って主人公であるアインアルド王子とヒロインの会話も広がるので、前世の、本当の貴族のダンスなんかと違って、この世界のダンスは結構べらべら喋れる方だと思うが。

 わたしは、差し出された手を取る。練習で、何回も取ったはずの手なのに、今日はなんだか別人のようだった。ホールのシャンデリアのせいなのか、妙にきらきらして見える。
 ……いかん、見惚れている場合じゃない。

 曲が始まり、わたしたちも動き出す。背筋を伸ばして、相手を、周りを見る。分かっているけれど、妙に落ち着かない心地がして、わたしはつい、足元を見たくなった。絶対やらないけど、気持ちだけは、というやつだ。
 たくさん練習したから気にならない、と思ったのに、観衆がいるとまた変わってくるらしい。
 練習と同じ流れで終わらせればいい、とは分かっているんだけど、つい、いつもと違う場所に目が行ってしまう。服とか、表情とか。

 体が覚えている、と言えばいいのか。流石に会話をするほどには脳を使えないが、足元を見れないならと、視線がつい、泳いでしまう。周りを見る分には問題ないのだが、オクトール様の方を見ようとすると、つい、顔に視線が行く。
 アインアルド王子のときは、わたしがハイヒールを履くと身長差が頭一つ分以下になるので、視線を少しずらせば良かったのだが、オクトール様の顔を見ようとすると、頭を上げないと見えない。

 これ、周りから見たらオクトール様のことじっと見てるの、ばれてるんだろうな、と思っていたら、オクトール様と視線が合っ――。

「――っ」

 ――あ、やべ、今、オクトール様の足踏んだかもしれん。
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