ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

ゴルゴンゾーラ三国

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 ちらちらとクレメリア嬢の方を気にしながらでも料理を作れるし、この様子ではわたしが負けることはないな、と思う半面、わたしは別の意味でひやひやしていた。クレメリア嬢の手元がおぼつかなすぎて、指先を切る、とかそんな可愛い怪我じゃなくて、熱湯の入ったお湯をひっくり返して大やけど、とかいうガチの事故に繋がりそうなのだ。
 貴族令嬢は料理ができないから大丈夫だろう、とは思っていたけれど、料理ができないのレベルが違う。包丁は普通片手で持つもの、という常識すら分からないのだ。

 大怪我したら流石に可哀想だし――と思っていたわたしの脳内に、ビビっと、嫌な予感が思い浮かんでしまった。
 ……傷跡が残るような大怪我をして、オクトール様に責任を取ってもらう、なんて展開にはならない……よね?

 最初は純粋に怪我が心配だったけれど、別の意味で不安になってきた。相手が怪我をするかより、オクトール様を取られるのでは、と先に思ってしまうのは、めちゃくちゃ嫌な女の考えではあるけれど、普通に、好きな相手に他の女が寄り付こうとしているのなら追い返したいと思うものでは? と考えて心を落ち着かせる。
 わたしは聖人君子でもなんでもないので。

 ……こういう、綺麗な人間ではなく、俗っぽい思考回路をしている人間だから、愛される乙女ゲームのヒロインとかに転生ではなく、ギャルゲーの捨てられヒロインに転生したんだろうか。
 まあ、わたしがこの世界に転生しなければオクトール様に出会うこともなかったし、前世の記憶がなければ大人しくアインアルド王子の妃の一人になっていただろう。その場合は第何夫人になるのか知らないが。
 なので今となっては、一夫多妻が常識のギャルゲーに転生してしまったことに不満はない。
 と、わたしが考えていると――。

「クレメリア嬢を妃に迎えてもよいのではないですか? 殿下のために努力できるご令嬢のようですし……」

 ――なんて、とんでもない言葉が聞こえてきて、わたしはカン! とサンドイッチの具を切っていた包丁で、食材に空振りさせてまな板を叩いてしまった。
 聞いたことのない声。ノーディーニさんでないのは分かるから、オクトール様の護衛の誰かだろう。料理人の見習いが、オクトール様に話しかける勇気があるとは思えない。場所を借りているから調理場の責任者を、と言う理由で引っ張り出されてきただけで、隅で恐縮しているような男の子だったから。

 誰が言ったのか、正確には分からない。でも、どうして彼女の評価が上がるの。あんなにも手元が覚束なくて、今にも怪我をしそうなのに。
 結局、男は皆、守られる系女子が好きだと言うことなのか? 別にわたしが守る系女子だという自覚はないが、少なくとも、料理をそつなくこなすわたしより、苦手なことを一生懸命頑張っているのが分かりやすいクレメリア嬢の方が、護衛にとっては魅力的に映っているのは確かなようだ。
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