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後編

第19話:暗雲

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「そろそろ来る頃か……」

 拙者は、黒い陣羽織を羽織り直した。

 そして、出来たばかりの黒い定期券を眺める。

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 乱世ノ大剣豪⇔不撓不屈ノ総大将
 経由 曇ルコトナキ心眼

 -∞
 ミナツチ・サダユキ様

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 いつ見ても面妖な……。


 妖怪が蔓延るようになった故郷から、連れ出してくれた『レイン』殿には感謝しているが……。

 本当に、『ガタン ゴウト』という奴を討ち取れば、拙者の故郷は救われるのだろうか。

『大丈夫ですよ。ミナツチさん。彼の持ってる∞の定期券……。あれさえあれば、いつかは全部取り返せるんです』

 彼の言葉を思い出す。

 本当だろうか。『心眼』が何か違和感を伝えている。

 だが、他に方法を思いつかないのも確かだ。

 足音がする。

 今、このBランクダンジョン『妖怪城』に居るのは自分と奴だけ。

 間違いない。『ガタン ゴウト』が来たのだ。

 目の前に現れたのは、西洋剣を携えた青年。

 こちらを見て、剣を構える。


 拙者も刀を構えた。


「拙者は見名土みなつち家当主! 見名土 定行みなつち さだゆき!! 貴殿、ガタン・ゴウトの命、故郷の為に頂戴いたす!!」

 名乗りを挙げる。だが、相手の青年からは返事がない。
 どうやら本当にそういう文化がないらしい。

「貴殿! 名前は!!?」

 たとえここが元の世界で無かろうと、ここは譲れないのだ。

「俺は……国家調査員のガタン ゴウト! あなたを倒して、皆の為に、絶対に生き延びる!!」

「ほう……。良い名乗りだ。では……いざっ!」

 お互いの剣と刀がぶつかり合う。


 ――――手合わせてすぐに彼のに気付いた。

 手数も練度も技の引き出しも一人の人間とは思えないのだ。

 やはり噂は本当だったか……!!

 彼の持つ定期券はあらゆる技能を混ぜ合わせることが出来るらしい。
 多くの黒服が定期券を狙ったが全てが返り討ちにあった。それほどの強者だ。

「やああああああああ!!!!」

 渾身の上段斬りを放つ。

 岩だろうが、敵将だろうが、妖怪だろうが全てを一刀で叩き斬った上段だ。

 だが……。


「なっ……!?」


 剣で受け止められた。
 そんな馬鹿な……。ヒビさえ入らないとは。いや……これは?

 鍔迫り合いのさなか、心眼で観察をする。
 剣になにか膜は張ってある。なるほどこれで防いで……。

 これは魔法というやつか。

 いや……よく見ると奴の身体中に、なにかしらの魔法が常に張りめぐされている。

 右手の剣で刀をいなされて、左手で拳打を加えられる。

「ごぼっ」

 なんて速く、重みのある拳だ。体術も尋常じゃない!

 そう思っているのも束の間、奴は間合いに入って、剣を振り抜こうとしていた。

 まさしく神速の踏み込みで。

「ぐっ、ううう……」

『心眼』でどうにか急所はずらしたが……致命傷には変わりない。

 だが拙者は『不撓不屈の総大将』だ。こんなことでは倒れぬ!


 息一つ切らしてないガタンゴウトが呼びかけてくる。


「ミナツチさん! 俺はあなたより強い! 無限の定期券があるから!」

「なに!?」

「だからやめましょう! 俺は『レイン』の居所を教えてくれれば、それでいいんです!」

 なるほど……情けをかけられたか?

「くくく……この程度の負け戦、いくらでもひっくり返してきた! 情けなどかけるなっ!」

「……分かりました。それじゃあ、決めます」


 彼が、そう言うと、明らかに異常な力が伝わってきた。

 彼の剣に炎や氷、雷、闇や光などあらゆる自然現象が集まっていく。

 そして、そこに首から下げている定期券を当てた。

「解放……『束《たば》ねの剣』」

 その瞬間、それらが全てが、剣に束ねられて一つの輝剣と化した。

 あの剣の強過ぎる純粋な力のせいか、彼の周りの景色がねじ曲がって見える。

「はああああああああっ!!!」

 彼はそれを構えて、一気に振り抜いた。

 ああ……、これは……。もう……。

 まばゆい力の奔流に身体が呑まれていく。

 領民達よ……妻よ……そして子供らよ……




「すまぬ……」




 倒れ伏した黒い陣羽織の男、ミナツチさんがそう呟いた。

 そのまま彼は砂に変わっていった。

 やはり……黒服達との戦いはどこか悲しくなるな……。

 俺はそう思いつつ、黒い定期券を回収する。

「ミナツチさん、必ずいつかあなたの世界も戻してみせます。そのために貴方の力を貸ります」

 ギ、ギ、ギ……と空間が元に戻っていく音がする。

『束ねの剣』は周りに存在する力全てを収束させて倍化させる。

 あらゆる力を扱える俺にとって強力だが……やりすぎると、世界を壊しかねない。



 更に上階に進むとジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!とけたましい音が響く。

 出てきたのは大目玉。が、徐々に煙が集まって形を為していく。

 そして、鬼のような姿になると煙が金棒を形成してそれを肩に担いだ。

「まずは分析かな」

 俺は奴を凝視した。

『分析』『鑑定』『予測』『占星』『計測』『学者』……etc。俺の身に宿る無数のスキルをフルに発動する。

 煙は全てフェイク……あくまでも本体は大目玉。
 だが、煙そのものが大目玉を厚く覆っている。
 しかも煙の一部に当たると幻覚を見せられて、そこから生気を吸い取る妖怪の一種……。


「なるほど、じゃあまずは煙を吹っ飛ばすか」

 俺は左手に魔力を籠める。

 そこに金棒の一撃が迫ってきたが……。

「『多重魔法壁レイヤード・マジックシールド』」

 空間から出現させた魔法壁を組み合わせて、金棒をその場で固定した。

 炎魔法と氷魔法を駆使して左手の風魔法を加速・増幅させていく。

 そして、解き放った瞬間、奴の後ろの壁ごと全てを吹っ飛ばしていった。

 裸になった大目玉だけが所在なさげに浮いている。

「これで……終わりだ」

 俺は素早く踏み込むと、そのまま剣を突き立てた。



 ダンジョン攻略が終わり、いつものように券売機に定期券を通す。



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 期限:+20-15-15  スキル:俊敏ナ忍者  アイテム:☆妖刀オロチ
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 そしてスキル合成も済ませて、定期券を取り出した。

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 万物ヲ司ツカサドル到達者⇔未知ヲ暴ク探求者
 経由 那由他ナユタノ恩恵
 325-26-7 まで

 ガタン ゴウト様    国家調査員
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「やっぱり駄目か」

 最近はスキル合成をしても表記が変わることが無くなってきた。

 スキル自体は使えてるので、無駄ではないが……。

 恐らく、完成系に近づいてるんじゃないかと思う。


 それなら……この定期券を狙ってる奴らとの決戦も近いはずだ。


 俺は先程手に入れた黒い定期券に手を当てて、『超能力者』のスキルで記憶を読み取る。

 ほんの数日間の朧げな記憶しか読み取れないが……今回は当たりだった。

 先程戦ったミナツチさんに黒い定期券を渡した男……こいつが『レイン』……。

 黒いつなぎを着ていて、技術者のように見える格好をしている。

 記憶の中の男が言葉を続ける。

『もし、何かしらのトラブルでガタンゴウトと接触できなかった場合は、3日後にこれを使ってください』

 そう言って手渡したのは『指定特急券』……。

 以前に俺を救うためにキュウさんとコウちゃんが使ってくれたレアアイテム『指定急行券』と似て非なるもの。

 こちらの効果は、あらかじめ書き込んだ駅に辿り着くというもの。

 そして、その券には『蟹名駅』と記載されていた。


 なんだ……? 何が目的なんだ? トラがいい例だが……こっちの世界にはそもそも入れないはず……。

 だが……、キュウさんとコウさんの母親はダンジョンに行かずに定期券狩りに合っていた……。


 奴らには何かが、ある。


 そのまま記憶の映像はブツっと切れた。


 まるでここまでを見せようとしていたかのように……。

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