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<り花side>
「うーん、それは……」
兄貴の話に思わず顔が渋くなる。
本棚の奥から漫画を三冊選び、手前の列に少年漫画を戻した。
「いい?可能性は3つ。一つ目はこれ、妹かお姉ちゃん。王道パターンね」
パラパラとページをめくり、主人公がヤキモチを焼いていた女性の正体が判明するシーンを指し示す。
「でも、きょうだいでも親戚でもないって」
「だね。だからこの可能性はなくなった。次」
二冊目。ベッドシーンが見えないように前後のページをしっかり押さえて兄貴に見せる。
絵柄が好みなんだけど、この人の漫画はちょっと過激なんだよな。
「女の子に見えて実は男友達のパターン」
「え?これ男なの?」
「あっ、コラ!」
じっくり見ようとしたのだろう。兄の馬鹿力で本を奪われそうになったが死守する。腐女子バレはしていても、兄貴に見せられるものとそうじゃないものがあるのだ。危ない、危ない。
「男友達ならそう言うだろ。友達じゃないって言ってたんだぜ?」
「ああ、訂正。友達じゃない男」
この漫画では中性的な男友達だが、作品によっては訳あって女装している人物も出てくる。その人物にはちゃんと別の彼氏がいて、スピンオフ漫画になるところまでがあるあるだ。
「最初は成田先生が女装してると思ったんでしょ。この線は結構あると思うんだけど」
「え~、でも、あいつに言われて気づいたんだけど、声がどう考えても女の人だったんだよな。2回目に会ったときもそうだった」
そうか。一度目は記憶違いとも取れるが、そのあとでもう一度その人に会っているのだった。
「……っていうか、なんでそのときに確認しなかったワケ?」
「そうなんだよなあ。いや、でも、あのとき『成田さん』って呼んだら返事した気がするんだよ」
「ん?それが?」
「昨日帰りに聞いたら、その人の名前、成田じゃないんだって。だから、その場で聞いても本当のことは教えてくれなかったかも」
ますます怪しい。同じ苗字を名乗っていて、でもそれが嘘だった?
「とにかく、兄貴には言ってない秘密が二人にはあるってことだよね」
「そういうことだな」
となると、厄介な関係かもしれない。
「じゃあ、最後の可能性ね。友達ではない女の子」
三冊目。開いたページには、横恋慕しているお邪魔虫の正体を知り、傷付き涙する受けが描かれている。発覚した関係は、攻めの元恋人だった。
「元カノ……」
「まあ普通に、私みたいに腐女子でしたってパターンもあるけどね。それなら友達って言うだろうし」
友達ではないと言うのなら、何か別の名前が付いている関係を疑うべきだ。
「付き合ってたなら、さん付けで呼ぶか?」
「そういうカップルもいるでしょ」
「いや、でもさ、『背中を押してくれた』って……元カノがそんなことする!?」
「あると思うよ。真実の愛に気づいて身を引いた女性……成田先生の幸せを誰よりも願って背中を押した……ああ、切ない!」
想像して自分の世界に浸る私を、信じられないという顔で見てくる。当事者の兄貴にとっては、気分のよい仮説ではなかっただろう。
「ごめんごめん。でも、この場合は要注意だね」
「聞けば答えてくれるかな?」
「隠しそう。あ、そろそろ行かないと」
兄に引き留められて話し込んでしまったが、今日もこれから塾だ。
……この兄貴にうまく聞き出すなんてできないだろうし、私が一肌脱いでやるか。
「兄貴、今日も先生のこと迎えに行くの?」
「そのつもりだけど」
さて、どうやって真実を炙り出すか。脳内でシミュレーションを繰り広げながら塾に向かった。
「うーん、それは……」
兄貴の話に思わず顔が渋くなる。
本棚の奥から漫画を三冊選び、手前の列に少年漫画を戻した。
「いい?可能性は3つ。一つ目はこれ、妹かお姉ちゃん。王道パターンね」
パラパラとページをめくり、主人公がヤキモチを焼いていた女性の正体が判明するシーンを指し示す。
「でも、きょうだいでも親戚でもないって」
「だね。だからこの可能性はなくなった。次」
二冊目。ベッドシーンが見えないように前後のページをしっかり押さえて兄貴に見せる。
絵柄が好みなんだけど、この人の漫画はちょっと過激なんだよな。
「女の子に見えて実は男友達のパターン」
「え?これ男なの?」
「あっ、コラ!」
じっくり見ようとしたのだろう。兄の馬鹿力で本を奪われそうになったが死守する。腐女子バレはしていても、兄貴に見せられるものとそうじゃないものがあるのだ。危ない、危ない。
「男友達ならそう言うだろ。友達じゃないって言ってたんだぜ?」
「ああ、訂正。友達じゃない男」
この漫画では中性的な男友達だが、作品によっては訳あって女装している人物も出てくる。その人物にはちゃんと別の彼氏がいて、スピンオフ漫画になるところまでがあるあるだ。
「最初は成田先生が女装してると思ったんでしょ。この線は結構あると思うんだけど」
「え~、でも、あいつに言われて気づいたんだけど、声がどう考えても女の人だったんだよな。2回目に会ったときもそうだった」
そうか。一度目は記憶違いとも取れるが、そのあとでもう一度その人に会っているのだった。
「……っていうか、なんでそのときに確認しなかったワケ?」
「そうなんだよなあ。いや、でも、あのとき『成田さん』って呼んだら返事した気がするんだよ」
「ん?それが?」
「昨日帰りに聞いたら、その人の名前、成田じゃないんだって。だから、その場で聞いても本当のことは教えてくれなかったかも」
ますます怪しい。同じ苗字を名乗っていて、でもそれが嘘だった?
「とにかく、兄貴には言ってない秘密が二人にはあるってことだよね」
「そういうことだな」
となると、厄介な関係かもしれない。
「じゃあ、最後の可能性ね。友達ではない女の子」
三冊目。開いたページには、横恋慕しているお邪魔虫の正体を知り、傷付き涙する受けが描かれている。発覚した関係は、攻めの元恋人だった。
「元カノ……」
「まあ普通に、私みたいに腐女子でしたってパターンもあるけどね。それなら友達って言うだろうし」
友達ではないと言うのなら、何か別の名前が付いている関係を疑うべきだ。
「付き合ってたなら、さん付けで呼ぶか?」
「そういうカップルもいるでしょ」
「いや、でもさ、『背中を押してくれた』って……元カノがそんなことする!?」
「あると思うよ。真実の愛に気づいて身を引いた女性……成田先生の幸せを誰よりも願って背中を押した……ああ、切ない!」
想像して自分の世界に浸る私を、信じられないという顔で見てくる。当事者の兄貴にとっては、気分のよい仮説ではなかっただろう。
「ごめんごめん。でも、この場合は要注意だね」
「聞けば答えてくれるかな?」
「隠しそう。あ、そろそろ行かないと」
兄に引き留められて話し込んでしまったが、今日もこれから塾だ。
……この兄貴にうまく聞き出すなんてできないだろうし、私が一肌脱いでやるか。
「兄貴、今日も先生のこと迎えに行くの?」
「そのつもりだけど」
さて、どうやって真実を炙り出すか。脳内でシミュレーションを繰り広げながら塾に向かった。
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