思惑交錯チョコレート

秋野小窓

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 ポップコーンと飲み物を肘掛けのホルダーにセットして、座席に腰掛ける。俺が通路側の端、右隣にケイだ。

「さっき丼食べたのに、そんなに入る?」
「映画にはポップコーンだろ」
「いや、量がさ」

 そんなにおかしいだろうか。ケイが笑う。

「食べてみ?ほとんど空気だぜ?」

 2~3個つまんで口の中に放り込むと、あっという間に消えてなくなってしまう。こんな儚い食べ物、バケツいっぱいあったって楽勝だ。
 俺は本気で言っているのだが、何が面白いのかケイは笑いっぱなしだ。

「ほら、お前も食えって」
「待って、今手拭くから。ゆーじも使う?」

 ショルダーバッグからウェットティッシュを取り出し、蓋シールを開けて差し出してくる。ああ、そうだよ。感染症対策、マスクだけじゃないもんな。

「すまん。俺、思いっきり手突っ込んじゃった」
「大丈夫。よかったら使って」

 こういうところだよな。俺の雑さ。ケイが受験生たちのために人一倍神経使ってるの知ってたのに。

「食べたくなかったら、無理にとは言わないから」
「もらうよ。いただきます」

 マスクを外して、躊躇う様子もなく白い粒を口に運んだ。

「おいしい。ポップコーンなんていつぶりだろう」

 そう言って微笑む姿にホッとする。同時に、胸が不自然に脈打った。

 あれ、と思ったが、館内の照明が落とされたことに、すぐに意識が持っていかれた。上映時間だ。

「好きなだけ食べてな」

 ひそめた声で伝え、背もたれに体を預ける。同じようにシートに沈み込んだケイが、首だけでこちらを向く。
 「ありがと」と言った顔に、再び胸が高鳴る。なんだ、これ?

 マスクも眼鏡も外した、ケイの笑顔。長い睫毛で縁取られた瞳は、こんなにも綺麗だっただろうか。

 すぐに前の方を向いてしまった横顔。スクリーンから放たれる光で、色とりどりに照らされる。
 もう一度、こっちを向いてほしい。俺の念が届いたのか、ちらりと目が動いて、追いかけるように顔もこちらを向いた。

 今度は何も言わず、照れたように笑う。その瞳の温度。薄く開いた唇から、少しだけ見えた歯。
 一瞬の表情が目に焼き付いてしまって、映画本編が始まっても、しばらく何も入ってこなかった。

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