14 / 89
14
しおりを挟む
爽やかな目覚めだ。懐かしい夢を見た気がする。
朝食を作ろうと支度をしていたところに、いつもより早く泰歩が起きてきた。今日は休みなのだから、もっとゆっくり寝ていてくれてよいのだが。
「朝飯いる?」
「いります!というか、手伝います」
手伝ってもらうほどのことはないのだが、せっかくなのでお願いする。
「冷凍庫から油揚げ出して」
「油揚げって冷凍できるんですね!」
いつの間に料理に関心を持ち始めたのだろうか。
「柳井さん、今度料理教えてくださいよ」
「うん」
「やった!」
そんなに料理がしたかったのか。見るからに嬉しそうにしている。
料理を覚えてくれるなら、俺としても大歓迎だ。泰歩の手料理が食べられる日も近いらしい。
「そのネギもこっち入れて」
「はい」
まな板からネギを両手に取って、味噌汁の鍋に持ってきてくれた、のは、いいのだが。
ーー近い……!
湯がはねるのが怖いのか、思った以上に近づいてくる。お前の長い腕があればこんなに寄る必要ないだろう!
ドキドキして横を向けない。きっと右を向いたら、顔がすぐ側にあるはずだ。
「これでいいですか?」
「あ、ああ……」
息を詰めて固まってしまっていたが、明らかに他意のない泰歩の声で現実に引き戻される。
こんな調子で料理を教えるなんてできるのだろうか。俺の心臓がもたない。
出勤してからも、朝のドキドキを引きずってしまっていた。
学生の頃は、似たような感情を抱いたこともあった。憧れの同級生が部活に励む様子をこっそり覗いたり、思いがけず同じ班になって緊張したり。俺にもそんな甘酸っぱい思い出がある。
大人になってからは、ゲイ同士、最初からそのつもりでの出会いばかりになった。誰かのことで頭がいっぱいになるなんて、もうないと思っていた。
持ち場の掃除に、事務作業。プラネタリウムの上映や解説以外にも、地味な仕事がたくさんある。頭を使う仕事ではなく、いわゆる雑務だ。仕事というより作業に近い。そして、こういうことをしていると、ついつい余計なことを考えてしまうのがよくない。
生解説の時間。動作テストをしてから入場を開始する。土日は子連れやカップルが多い。その中に、私服の泰歩を見つけた。女性の一人客は結構いるが、男性は少ないからすぐに分かった。
泰歩が来ている。何度も経験していることだが、あらためて意識すると緊張してきた。
「柳井さん?怖い顔してどうしました?」
同僚に心配されてしまった。言われてから、眉間に皺が寄っていたことに気づく。
ーー言えない。今日ここに俺の好きな人が来てるんですなんて言えるわけない……。
「問題ありません」
「そうですか?」
何年やっているんだ。私情を挟むな俺。
深呼吸を一つしてから、マイクのスイッチを入れた。
朝食を作ろうと支度をしていたところに、いつもより早く泰歩が起きてきた。今日は休みなのだから、もっとゆっくり寝ていてくれてよいのだが。
「朝飯いる?」
「いります!というか、手伝います」
手伝ってもらうほどのことはないのだが、せっかくなのでお願いする。
「冷凍庫から油揚げ出して」
「油揚げって冷凍できるんですね!」
いつの間に料理に関心を持ち始めたのだろうか。
「柳井さん、今度料理教えてくださいよ」
「うん」
「やった!」
そんなに料理がしたかったのか。見るからに嬉しそうにしている。
料理を覚えてくれるなら、俺としても大歓迎だ。泰歩の手料理が食べられる日も近いらしい。
「そのネギもこっち入れて」
「はい」
まな板からネギを両手に取って、味噌汁の鍋に持ってきてくれた、のは、いいのだが。
ーー近い……!
湯がはねるのが怖いのか、思った以上に近づいてくる。お前の長い腕があればこんなに寄る必要ないだろう!
ドキドキして横を向けない。きっと右を向いたら、顔がすぐ側にあるはずだ。
「これでいいですか?」
「あ、ああ……」
息を詰めて固まってしまっていたが、明らかに他意のない泰歩の声で現実に引き戻される。
こんな調子で料理を教えるなんてできるのだろうか。俺の心臓がもたない。
出勤してからも、朝のドキドキを引きずってしまっていた。
学生の頃は、似たような感情を抱いたこともあった。憧れの同級生が部活に励む様子をこっそり覗いたり、思いがけず同じ班になって緊張したり。俺にもそんな甘酸っぱい思い出がある。
大人になってからは、ゲイ同士、最初からそのつもりでの出会いばかりになった。誰かのことで頭がいっぱいになるなんて、もうないと思っていた。
持ち場の掃除に、事務作業。プラネタリウムの上映や解説以外にも、地味な仕事がたくさんある。頭を使う仕事ではなく、いわゆる雑務だ。仕事というより作業に近い。そして、こういうことをしていると、ついつい余計なことを考えてしまうのがよくない。
生解説の時間。動作テストをしてから入場を開始する。土日は子連れやカップルが多い。その中に、私服の泰歩を見つけた。女性の一人客は結構いるが、男性は少ないからすぐに分かった。
泰歩が来ている。何度も経験していることだが、あらためて意識すると緊張してきた。
「柳井さん?怖い顔してどうしました?」
同僚に心配されてしまった。言われてから、眉間に皺が寄っていたことに気づく。
ーー言えない。今日ここに俺の好きな人が来てるんですなんて言えるわけない……。
「問題ありません」
「そうですか?」
何年やっているんだ。私情を挟むな俺。
深呼吸を一つしてから、マイクのスイッチを入れた。
10
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
有能課長のあり得ない秘密
みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。
しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる