ひとりで生きたいわけじゃない

秋野小窓

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【1】出会い

10:直居side

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 渡辺と別れ、アテもなく歩き出す。せっかくだから、金融以外の業界の話も聞きたいな。辺りを見渡しながら進む。

「こんにちはー、間もなく始まりまーす」

 呼び込みをしていた人と目が合う。何の会社だろうか。

「次決まってなかったらどうですか?」

 駄目押しでフライヤーまで渡され、断れない雰囲気だ。ブースに座っている学生は二人だけ。とりあえず、座ってみるか。

「あ、じゃあ……」
「ありがとう、ここ座ってね」

 パンフレットを受け取りながら最前列右端に腰掛ける。スマホでの出席登録も3回目なのでさすがに慣れた。
 話を聞いてみると、IT系の会社だった。まだ100名足らずの会社らしい。これまでの2社と違って、投影資料はなく、フリートークのような形式で説明が進んでいく。メモを取るのも忘れ、聞き入ってしまった。

「残り3分、質問タイムね。会社のことだけじゃなくて、就活のことでも何でも質問して」

 隣を盗み見るが、質問する気配がない。これは……何でもいいから質問した方がいいんだろうか。
 迷って顔を上げると、説明をしてくれていたコグレさんと目が合う。

「あの……就活のことでもいいですか?」

 おずおずと手を挙げる。せっかくの機会だ。

「もちろん。何かな?」
「あの、ぼ、私、今2年なのですが、今の時期にやっておいた方がいいことってありますか?」

 全然会社説明と関係ないこと聞いちゃった。やっぱり会社や業界のこと質問した方がよかったかな。

「2年生か。もう就活始めていてすごいね。そうだな、今のうちにいろんな業界や企業の話を聞いておくことももちろんいいと思うし、就活以外の経験もどんどんして、興味を広げるのがいいと思うよ」
「なるほど、ありがとうございます!」
「鉾田は?学生に近い立場として、何かある?」

 呼び込みをしていた社員さん、ホコタさんっていうのか。コグレさんが僕たちの後ろに向かって声を掛ける。

「え、自分っすか?そうだなあ」

 言いながら、前に来てくれる。

「えっと、自分は新卒で別の会社に入って、すぐ転職してここに入ったんですが、OB訪問とかもっとしておけばよかったなって思いましたね」
「なんで最初の会社はすぐに辞めてしまったんですか?」
「不動産の営業だったんだけど、体育会系すぎてついていけなかったんだよ。OBに話聞いておけば、そういうのも分かっただろうなって」

 体育会系の会社、僕もついていけなさそうだな……。
 仕事内容や業界のこと以上に、社風を知るのにも合説っていいのかもしれない。さっきまでの2社と全然話し方とかも違って、なんだかこの会社はフレンドリーだな。

「ありがとうございます。勉強になりました」

 お礼を言ってブースを離れようとすると、ホコタさんに呼び止められる。

「直居君、明都大なんだね」
「え?あ、登録情報見てくださったんですね」
「そうそう、オレも明都なんだよ。人文だけどね」

 僕は法学部だから、隣の学部の先輩だ。

「よかったらいつでも相談乗るよ」

 そう言って名刺を渡してくれる。社交辞令でも嬉しいな。名刺を受け取ると、ちょっとだけ大人になった気分だ。

「ありがとうございます」

 にこりと笑って一礼し、その場を離れる。思いがけずOBと繋がることができた。こういうのも今日参加した収穫なのかもしれない。

 緊張はすっかりなくなり、結局時間いっぱいまでブースを回った。
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